くっだらない世の中で

如月紅🌙*.。

EPISODE1 おしまいのはじまり

 新しい高校の新学期からのクラス割りの公示を見た瞬間、氷川千尋ひかわちひろは小さく溜息をついた。


「また……か。」


 生まれつき頭脳に恵まれた千尋は、地元ではそこそこ名の知れた中学校に受験で入った。受験で入ったといっても、(いい教育を受けて将来はいい大学に入って医者になりたい)だとか、(意識が高い周りの人達と切磋琢磨し合いたい)等といった高尚な目標があって中学受験をしたのではない、ただ単に周りの環境を変えてみたかったのだ。小学生の頃から小学生らしくなく色々なことを考え込みがちだった千尋は、友達との人間関係の曖昧さに悩んでいた。故に、一旦人間関係にリセットを置こう、ということで中学受験に至った。千尋が住んでいたのは首都圏とはいえ、❛都会❜というイメージとは程遠い場所であり、地元の中学に行ってしまうと周りのメンツが小学の同級生ばかりになるからだ。


 そんなこんなで中学は受験で入ったけれど、小学生で既に人間関係に悩んでしまうような性格の千尋では、周りのメンツが変わったのはむしろ逆効果でしかなかった。

 自分の知らない誰かたちが可憐な中学生活を送っている、それに比べて自分はどうだ?、特に充実感も感じず、ただ漫然とみんなに合わせて行動する日々。『自分』がなかったのだ。特にこれといった特徴がなかったのだ。

 そのことに焦った千尋は『自分らしさ』を追い求め始めた。自分を出していこうとした、自分を作ろうとした……、それがいけなかった。


 要は「出る杭は打たれる」というやつである。


 千尋はスクールカースト上位層からの洗礼を受けた。


 特に中2後半から中3にかけては千尋にとって厳しい学校生活となった。腕にいくらかラインもできた。まだうっすらと白く跡が残っている。


 そして月日が流れ、また受験。しかも今度は小学生の頃と違って周りの奴らから逃げられない。なぜなら、今自分がいる中学の生徒は、大体高校はここに行くという相場が決まっていたからだ。担任も親も総じて千尋がその高校へ行くということを疑わない。そして千尋に苦しい思いを強いてきた人達、その人達の八方美人によって騙されてその人たちのことをいい人達だと思い込んでいる周りの大衆マジョリティ、みんなその高校へ行くのはほぼ明白だ。


 そして、千尋にはその現実に抗う気力もなかった。


それでとりあえずその高校を受けた、受かった。合格発表の時にふと(落ちてたらいいな)という思いもチラついたが、普通に受かっていた。


そして千尋がこの高校に来るのは、学校説明会、受験、合格発表に次ぐ4回目だ。目的はクラス編成の確認と軽いオリエンテーション。


千尋の腕のラインの生みの親は3人いるのだが、そのうち2人が同じクラスだった。7クラスもあるのに。これは相当な不運であった。


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