大阪日本橋恋愛交差点・短編版

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赤松 リョウヤのエピソード


 大阪日本橋恋愛交差点・短編版


 大阪日本橋。


 特にオタロード、でんでんタウン周辺は西のオタク街と言っても良い場所である。

 オタクショップはこの周辺の町にも点在しているが、大阪で集中している場所と言えばこの日本橋のオタロードとでんでんタウン周辺なのだ。

 

 トレーディングカードゲームのカードを単品で取り扱うショップが多く立ち並んでいたり、やたら飲食店が多かったり、中古のPC屋とかも多かったりするのも特徴だろう。


 その場所のとあるメイドカフェから物語が始まる。



 とあるメイドカフェ。

 可愛いくて若い子が多い。

 出される料理も上手く、サービスや料金設定も素晴らしい。

 店内の内装も落ち着いた感じの木製の(手触り良い感じにコーティング済み)別荘と言った感じだ。

 テーブルなども気合い入っていて高そうな感じがする。


 ここまで書くと「当たりのメイド喫茶」とか「隠れた名店」とかそんな単語が過ぎりそうなもんだが、実際はかなり人を選ぶ個性的なメイドカフェだ。

 男の娘が混じっていたり。

 殺し屋気取りのメイドがいたり。

 何時も入れ替わり、立ち替わり個性的な客が駄弁っていたりとか。

  

 そんな店で俺は兼業作家やっている傍らよくこの店に訪れる。

 キッカケはメチャクチャ可愛い長い金髪の女の子に見える男の娘の客引きにホイホイと付いて言ってしまったのがキッカケだ。


 そこから平然と毒を吐く殺し屋気取りのメイドとの関わりとかが始まったが、まあそれは別の話だ。


 今回のお話はあるメイド店員のこの一言から始まった。


「友人に小説の書き方を教えて欲しい」


 との事だ。


 自分、赤松 リョウヤはいわゆる兼業作家でもある。


 兼業作家と言うのは仕事をしながら出版社の要望に応じて小説を書く仕事だと思ってくれていい。

 そして自分の場合はラノベを書いている。

 

 今のラノベは戦国時代を超えた何かと言っても良い。

 毎年多くのラノベは現れては消えていく。

 特にWEB小説からの書籍化ラッシュなどが始まった辺りからよりラノベ作家の生存競争は激しくなり、例え賞で金賞を取れたとしても作家として長続きできるかどうか分からない世界だ。


 社会人として経験積みながら兼業作家しないと生活が成り立たない。

 うつろそれが普通の世界だ。

 ラノベ一本だけで食っていけるような奴が真のプロ作家であり、ラノベと言う商品を製造するマシーンなのである。


 かく言う自分はと言うと没ラッシュが続き、息抜きを兼ねてどうせ暇なのでてなわけメイド喫茶ので門席を予約席にしてもらう。

 

(ラノベの場合ならこう言う時は美少女が来たりするけど・・・・・・よくて小学生とか中学生だったりとか、性格に難があったりとか・・・・・・まあ最悪はキモオタデブとかだろうな) 


 などと思いながら俺はPCにネタを書き込む準備をする。

 相手の事は詳しく聞いてないが、この店の常連で学生の女性らしい。

 ふと、あの個性的な女性の常連四人組を思い出すが相変わらずテーブルを陣取って駄弁っているので違うだろう。


(つか学生で女性でメイド喫茶の常連って相当裕福だよな・・・・・・)


 ふとそんな事を考える。

 学生の身分で飲食店の常連出来ると言う事は経済的に相当裕福だ。 

 アルバイトしているのかもしれないが。


(ともかくその辺りも含めて聞いてみるか・・・・・・)


 歳をある程度食った作家にとって若者の会話と言うのはとても価値のある物だ。

 特に現役の女学生のアレコレなどはプロ作家からすれば頭を下げてでも手にしたい価値ある情報である。

 

 何しろ今は世の中の移り変わりが激しい。

 娯楽方面でもそうだ。

 

 当然それは学生達の「今」も変わっていると言う事だ。

 ラノベのターゲットとする年代は学生。

 その学生達の考えを少しでも知れれば作品作りに活かせるだけでなく、今の読者とより共感できる作品を作る事が出来る。


 とにもかくもラノベ作家を長く続けたいのならそう言う地道な情報収集も必要になってくるのだ


 と、考え込んでいるウチに女性がやって来て・・・・・・言葉を失った。


 なにしろとんでもない美女だからだ。


 アイドルか何かかと勘違いしてしまった。


 赤いツーサイドアップのヘアースタイル(ロングヘアー+ツインテールの髪型)、紅の瞳が特徴的な凛々しい顔立ち。

 そして歳不相応な大きな胸。それに合わせるかの様な絶妙なボディラインにより、胸の大きい人によくある体のバランスの崩れがない。

 青いミニスカートや黒のインナーシャツの上からやや黒味掛かった赤い上着を来ている。

 

 とても気が強そうな女の子で正直小説を書いているようにはとても見えなかった。


「私は獅子堂 レオナ。もう話は聞いてると思う・・・・・・思いますけど、その、小説を見て欲しい・・・・・・です」


 敬語に慣れてないのか恥ずかしそうに顔を朱に染めつつも肩から提げた茶色いカバンから小さなタブレットPCを机に置いた。


 俺はハハハと苦笑しながら「どうも赤松 リョウヤです」と返事を返してテーブルを挟んで向き合った。


「何時もそのPCに書いているの?」


「い、いいえ。何時もはスマフォに書いています」


「スマフォで学校とかでも書いている感じかな?」


「はい」

 

 正直スマフォで小説を書くのはキーボード派の自分からすれば苦労しそうな感じだけど屁でもないらしい。


「それにしても小説って漫画みたいに持ち込みとかやってないんですね」


「うん?」


 ふと、とても常識的な事を聞かれて首を傾げたが少し時間をおいて「ああ~」となった。


「ええ、小説の持ち込みとかして編集部に見て貰うとかは基本無いですね。だから小説を完成させて編集部に送って、先行後に初めて出版社サイドから意見を貰えるのが普通です」


「とても長いですよね・・・・・・それ・・・・・・」


「そうですね」


 と苦笑して返した。


「それでえーと獅子堂さんはどうして小説を?」


「馬鹿みたいに思えますけど・・・・・・このまま何となく大学行って、社会に出て――なんて言えば良いのか危機感みたいなのを感じて。それで一度好きな事に真剣にチャレンジしてみようと思ったんです」


「それで小説家になろうと?」


「はい。ラノベですけど――好きなラノベがあって・・・・・・知り合いもラノベとか好きで・・・・・・学校ではその事を隠してるんですけど・・・・・・とにかくラノベ、真剣に書いてみようと思ったんです」 

 

「ふむふむ」


 上手く言葉に形に出来ていないが彼女なりに将来を考えているらしい。

 だが今の段階だと何となく不安みたいな物を感じたのでもう一歩踏み込んで聞いてみる事にした。

 

「現在ラノベ業界は戦国時代同然です。例え賞で金賞取れたとしてもヒット作になれるかどうかは分からないですし、逆に二次選考落ちした作品が偶然編集者の目に止まってその後大ヒットしたり、更にはアニメ化まで行ってもそれで作品の人気と言う寿命が終わってしまう事もあると言う過酷な世界です。それを分かった上での発言でしょうか?」


「それは・・・・・・」


 彼女は困ったような顔をした。

 正直自分でも偉そうだなと思う物言いだが実際これでもまだ控えめな表現だ。

 

「もしもプロ志望ならば・・・・・・正直作品の評価に手を抜く事は出来ない。どうしてかは説明するまでもありませんね?」


「はい」


「では小説を拝見させて頂きます・・・・・・小説はそのPCに?」


 そして小説を拝見する事になった。

 獅子堂 レオナさんが書いた小説のタイトルはいわゆる特殊能力を研究する巨大な学園を舞台にした、能力バトル物だった。

 

 とにかく悪い点が目立つ。

 それに何故かメモ帳で話事にファイル分けされている。

 40kb以上(二万文字)を超えている章もあった。

 熱意は認めるが明らかに投稿規定をオーバーしている。

 

「取り合えず章に応募するのなら、投稿規定に合わせてくださいね?」


「す、すみません・・・・・・」


「いっそWEB小説サイトで投稿してみるのもいいかもしれませんね」


 と良いながら小説を見てみたが、この文章量だと、閉店時間超えて拘束する事になるだろう。

  

「まず、最初の取っ付き難さをどうにかした方がいいですね。この辺りはハリウッド映画とかを参考にした方がいいかもしれません。それと説明文が多いです・・・・・・なるべく登場人物の会話に挟み込んで自然な流れで読者に読ませるように意識した方がいいかもしれません」


「は、はい――」


 そう言ってメモを取る。

 真面目な子だなと微笑んだ。


「とにかく今の時間帯に読み切るのは不可能ですので」


「じゃ、じゃあアドレスとラインに登録しますんで・・・・・・」


「分かりました」


 そうして連絡先のやり取りを行い、一旦解散となった。

 ふうと椅子に腰掛ける。

 

「お疲れ様です」


 中性的な声の可愛らしい長い金髪の男の娘メイドが現れた。

 鳴海 マコト。

 このメイド喫茶に俺を導いた張本人で、獅子堂 レオナとのセッティングを行ったのもこの少年である。


「それでどうですか? レオナさんの小説?」

 

「どうも何も・・・・・・まだ読んで見ないと分からないって言うのが本音かな? それに今はWEB小説サイトに投稿してから書籍化デビューするのも珍しい話じゃないし、そう言う風に手直しするのも考えている」


「う、うーん・・・・・・なんか難しい世界ですね?」


「実際難しいんだよ・・・・・・クソ小説がクソアニメになって下手なアニメよりも円盤売り上げたりするのが今のラノベの業界の不思議なところだ。ぶっちゃけプロの作品に求められるのは作品の面白さよりも話題になるかどうかかもしれないな」


 極論を言っている自覚はあるが間違いではないと思う部分もあった。

 WEB小説サイトのとあるクソ小説のアニメ化が、実際とんでもないクソアニメになって話題となり、下手なアニメよりも円盤の売り上げが良好で二期もありえるかも知れないと言う話もでている。


 ラノベの質が低下しているのか・・・・・・執筆者がこんな事を言ってはいけないのだが読者の質が低下しているのかは本当に謎である。


 マコトは理解しているのかどうかは分からないが・・・・・・たぶん前者だろうが、「そうなんですか~」と返した。

 俺は「本当に分かってんのか?」と苦笑しながら返して獅子堂さんが書いたラノベを見た。(*自分のタブレットPCに文章データーを写した上で拝見している)

 

 いや、ヘビーノベルかもしれないが・・・・・情熱の制御が出来なくてこう言うやたら情熱が注ぎ込まれた作品を作るのは初心者とかによくある事だ。

 絵心ある奴がオリキャラで中二病キャラとか作ったりするのと一緒である。


「で、でも獅子堂さんとても一生懸命に書いてたよ」


「それで結果が出るかどうかはまた別の話だ。世の中には働きたくないと言う理由でラノベの賞に投稿してそのままラノベ作家になった奴とか実際にいるしな」


「そ、そう・・・・・・赤松さんって本当にラノベ作家だったんだね」


「それどう言う意味だ?」


 マコトはハッとなった。


「ご、ごめんなさい! 何時も店にいるから――その――」


 慌ててそう弁明にもなってない、地雷を更に踏み抜くような事を言う。

 だが事実なのできつくも言えなかった。


「はあ・・・・・・それ言われたら、何もいえねーよ」


「そ、そう?」


可愛い顔して平然と地雷踏み抜く奴だなコイツ・・・・・・。

 俺は天井を見上げた。


「俺だって本当はラノベ一本で食っていきたいけど、そうはいかないのがこの世界の現実なんだよ・・・・・・決めた。厳しめに評価する。」


「え、でも・・・・・・」


「これで潰れるようなら潰れた方がいい。ワナビになって延々と夢を追いかけ続けたり、プロになった後でも俺みたいにうだつの上がらない二流にもなれない三流作家になるよりかはマシだ」


「でも諦めなければ」


「夢は叶うってか? そんなのカルト宗教と変わらないよ――」


 そう言い切ったきり、少年は黙り込んだ。



 モニター越しから届いた俺の辛辣な感想の返事は淡々とした物だ。

 恐らくだが涙を流していたんじゃないかと思う。

 逆に何も悔しさも感じなかったらそれはそれで問題だが・・・・・・


 ともかくアレから少し経過した。


 鳴海 マコト君にそれとなく尋ねたが獅子堂さんは相当落ち込んでるらしい。


 俺は「そうか」とだけ返した。


 本当に作家を志すなら誰もが迎える最初の壁だ。

 これを若いウチから乗り切れたら大したもんだと思う反面、地獄へと誘ったような罪悪感を感じるだろう。

 正直これで潰れて欲しいと言う気持ちもある。


 そんな事を何時ものメイド喫茶で考えながら、獅子堂 レオナさんからメニューを渡された。


「どうしてここで働いてるんですか?」


「その、お、お客様にまた小説を見て貰いたくて・・・・・・」


 何でツンデレっぽく顔を赤らめるんだお前は!?

 このミニスカツンデレ巨乳メイドが!!

 目の保養には十分だよチクショー!!


 マコト、お前なに苦笑してんだ!!


「言葉遣い――普段通りにするね・・・・・・正直かなり辛辣に書いたと思うんだけどまだ書く気力あるのは大したもんだと思う。てかなんで働く必要あるの?」


「そ、それは・・・・・・その・・・・・・もっと色んな経験詰んだ方が小説になるためだからってお客様が・・・・・・店長も後押ししてくれましたし」


「だからってすぐさま実行に移すか普通?」


 世の中成功する奴ってのはこう言う行動力がある奴なのかもしれんなとか考えながらタブレットPCを受け取った。


(うん? タブレットPC?)


「あ、お客様。これ私の新作です」


「もう立ち直って書いたのか・・・・・・」


 何だこの子?

 マゾか?

 マゾなのか?

 逆に恐いんだが。


「と、とにかく、ふつつかものですがよろしくお願いします」


「俺に嫁入りしてどうすんだ十代JK」


 最近の女子高生恐い。

 俺はそんな恐怖心を抱いた。

 

 END

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