第17話 Ⅱ 一歩

 シルヴァは先に王都に戻らせてリッシャローズ領で起こったことの報告と兵の出動依頼を頼んだ。

 

 捕まえた敵兵は馬車でグレーフルー国の近くで解放した。

 

 多少回復した幻魔法使い達に頼んで兵士たちにはちょっとした恐怖体験をしてもらったからしばらくグレーフルー国も手は出してこないだろう。

 

 ローズラルを中心に元執事長の葬儀が粛々と行われていた。

 

 ローズラルは死を受け入れ、さらにこの領地と領民を守っていく決心をしたようだった。

 

 実際、作戦を立てたのは私だし、決行したのも私だ。

 

 護衛として私のそばに残ったルネサスはそんな雰囲気を察したのか、必要以上は小言を言ってこなかった。

 

 三人とも大きな怪我はしなかったのは不幸中の幸い、だった。

 

 リッシャローズ領主の怪我は酷くないが、領地が完全に安全になるまでは王都から戻ってくるつもりはないらしい。

 

 実質領主として領民から支持を得ていたローズラルだからこそ、混乱が起こることなく籠城できたのだろう。

 

 

 

「あんた……魔法使いだったんだね」


 私に料理を指示したおばちゃん兵士が悲しみとも憎しみとも取れない目で私に話しかけた。

 

「……なんて言ったらいいか分からない。けど、騙したことはごめんなさい」


「いいさ、どんな形であれ、この出兵が終わればアタシは田舎に帰れる。息子がいるんだよ。旦那はとっくの昔にこの国との戦争で死んでね。本気でアンタたち魔法使いを恨んでいた。けどアンタはあの時、『できるだけ殺さないで!!』と叫んでいた。隠れていた非戦闘員のアタシらにも聞こえたよ。捕虜になってもこれまでのように酷い扱いもされず強制送還。魔法使いにはアンタみたいな子もいるんだね。いっそ、アンタたちを恨んだまま殺されていれば、なんて考えたよ」


 おばちゃん兵士は下を向いたままぶつぶつと吐露した。

 

「私も、相手を敵だ悪魔だって決めつけて問答無用で殺した方が、罪悪感は少ないし楽だと思う。けど、それじゃダメなんだ。なんでも鵜呑みにしないで自分の目で確かめないと都合のいい操り人形になってしまう。私も貴女と同じ複雑な気持ちだ。だからこそ、もっと色々な勢力の人を知りたい。知る。そのうえで私は私の判断をする。さようなら。無事息子さんに会えますように」


 私はまっすぐにおばちゃん兵士の目を見据えて気持ちを話した。

 

 捕虜を国境付近に送り出す時だった。

 



 執事長の葬儀が終わり、一人、また一人と家路につく中私は墓前から動けずにいた。

 

 傍らにずっとルネサスがいるのは気配でわかった。

 

「リンネル様、いらっしゃったのですね」


 ローズラルが色とりどりの薔薇の花を束ねた花束を持って現れた。

 

「……爺やは父にあまり愛してもらえなかった私をとても目にかけてくださったのです。私にとっては父も同然の人です」


 花束を墓前に置くとニコっと寂しげに笑い私に言う。

 

「ありがとうございました。リンネル様のおかげで危機を脱することが出来ました。爺やも……喜んでいることでしょう」


 私も無理に微笑み返す。

 

「……何かあれば私かもう一人の創生の神子のトキ……スレートに連絡ください。全力で力になります。レイウスのように貴女を心配している人もいますし」


「レイウス……さん。ありがとうございます。本当に……」


 ローズラルは綺麗な涙を流していた。

 

 

 

 

 こうして私の初の視察は終わった。

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剣と魔法と国交正常化作戦 りあ @raral_R

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