MISSION2 イベント『アメノヒ』をクリアせよ!

ざぁぁぁぁ......。

...雨の音がかなりうるさいんですが。


私...花畑華乃は「ふぃぃ...」と情けない声を漏らした。


こんな日にまで雑用って!おかしくないか!?

両手に抱えた恐ろしく重いダンボールを何とか運び終え、災厄の根源...クラスメイトの小岩井くんを睨みつける。

小岩井くんは涼しい顔で言った。


「おー、お疲れさん」

「お疲れさんじゃないよ確かに疲れたけども!てか雨降ってんじゃんか...早く帰りたいんだけど!ねぇ」

「ふぅん...別にいいけど?」

「えっ、いいの!?」


飛びつくように言うと、小岩井くんが意地の悪い笑みを浮かべた。あっ...マズい。


「手帳の中身、ばらまくだけだしな」

「ギャァァァァァァ!やめて、ヤメテクダサイ!ちゃんとやります!」


そう...私はこの悪魔のようなクラスメイトに弱みを握られているのだ。ワケあって私にとっての『手帳』という言葉は、吸血鬼にとってのニンニクみたいなものなのだ。

うん、...自分で言ってて何言ってるかわかんなくなってきたな...。吸血鬼...。


「吸血鬼...実はごく普通の地味めなクラスの男子が実は吸血鬼で、その秘密を知ってしまった主人公!...あ」

「くくっ...今日も面白いもん見せてくれんな、お前...さすが頭の中花畑女」


余計なお世話じゃあっ!


そう。私の秘密は...その、妄想が暴走しているところといいますか。なんといいますか。

日常生活でそれをひた隠しにして生きてきたのに、ホント...小岩井くんに知られるなんて一生の不覚。人生の恥。

そして口止めのためにコイツの下僕になるとか、もっと不覚。


「...っと、これで全部だよね...荷物。それにしても小岩井くんさぁ、なんで毎日こんなに雑用頼まれんの?」

「ん...俺長期入院してたからな。ちょっとでもプラスになるようなことやっとかないと、成績がな」


ふぅん...なかなか大変なんだねぇ。

...いやいや、違うだろー!

危うく同情してしまいそうになったやないかい!


「それ、なおさら人に頼むようなことじゃないよね!?自分でやんなきゃいけないやつだよね!?」

「黙っとけ、頭の中花畑。手帳の中身、全ページコピーして掲示板に貼りだすぞ」


卑劣!非人道的!鬼!悪魔!

...という気持ちを込めて小岩井くんを睨んでいたら、小岩井くんは手帳を取り出して朗読を始めた。私はそれを力ずくで止め、大人しく荷物運びに徹する。


くっ......そぉ。絶ッ対早々に彼氏作って、リア充になって勝負に勝ってやる!


ダンボール他もろもろの荷物を運び終え(私女子なのに、なぜか小岩井くんより重いのもたされてるんだけど!なんで!?)、やっとこさ今日の雑用、終了!


今週いちばんの大きなため息をつき、壁にかけられた時計を見るともう5時を過ぎていた。な、なんですと!?

今日発売の少女漫画を買いに本屋にダッシュしようと思ってたのに。小岩井、鬼。許すまじ。

さてと。帰りますか...。


「まさか傘持ってきてない、とかじゃねぇよな?」


面白そうに聞いてくる小岩井くんに、私はフッと目を細めて答えてやる。


「んなわけないでしょー?私が天気予報見てないとでも?」

「脳内天気予報で行動してるのかと思ってた。お前、いつでも心ん中晴れだろ」


...心外だ。私だって落ち込むことぐらいあ...いや、あんまりないかも。

何はともあれちゃんと折り畳み傘を持ってきたから、何の心配もないのだ。まぁ...雨のキツい中で帰るのはあまり喜ばしくはないのだが。

私はリュックサックをガサゴソ漁り、ギンガムチェックの折り畳み傘を取り出した。


「ほら、ちゃんとあるじゃ...」


ポキッ。


...今、なんか嫌な音しなかったか......?

気のせい、デスヨネ?

おそるおそる折り畳み傘を開き...私はピシリと音を立てて固まった。

......骨が...折れてます、よね。


「おっ?どうしたどうした?」

「ぐぬっ...笑うがいいさ!脆い折り畳み傘を持ってきた私のことを!」


くっ...自分の折り畳み傘が見つかんなくて、玄関にあったのを適当に持ってきたのが凶とでたらしい。

もうちょっと強度のありそうな傘持ってくるんだった。今すぐタイムスリップして今朝の私に強烈なチョップを見舞わせたい衝動にかられる。


「いや...くくく、笑わね...くく、さ、災難だな...っく」

「笑ってるのバレてるよ!?いやむしろもう笑っていいから!中途半端に堪えられると逆に傷つくから!」


そう叫ぶと、小岩井くんは思いっきり遠慮なく爆笑し始めた。...うん、あのね。確かに笑っていいとは言ったけどね。

デリカシーという5文字が君の頭からは消えてなくなっているのかな!?

雨の日...そして傘がない...とな。


「...傘がなくて昇降口で途方に暮れて曇天を見上げていたら、クラスメイトのいっつも意地悪ばっかり言ってくる男子と遭遇して、『傘ねぇの?...バッカだな』って言って一緒に帰る流れに...っう」

「......ぐはっ、やめろ腹筋崩壊すんだろ...くくくっ、これ以上笑わせんなって」


また小岩井くんのツボに入ったらしい。

...もうホント早く帰ってくれ、頼むから。


「どうしよ...ホントにいないかなぁ、そういう優しい男子」


チラリ、と横目で小岩井くんを見ながら呟くと、華麗に視線をかわされた。...期待はしてなかったから別に傷つかない。

昇降口で待ってたら誰か来てくれないかなぁ。


「無理だと思うぞ、そんなベタな相合傘シチュエーション」

「読心術やめたほうがいいよ!?」

「全部顔に出てたら、嫌でもわかるだろうが」


うぅ...そんなにわかりやすいかなぁ、私。

小岩井くんはヒュウっと口笛を吹くと、「じゃあ先帰るな」

と教室を出た。

うんうん、早く帰ろうねー。

......待って、ちょっと待てい!


「鍵返しに行...」

「んじゃーまた明日」


ガン無視!悪意を感じる...いや、悪意しか感じませんよ!?

もうやだ手帳さえ取り返せたら...いかんいかん、ネガティブ思考は犬も食わないぞ!(...あれ?なんか違わないか?......ま、いっか)

仕方ない。傘を貸してくれる心優しき男子を待とうかと思ったけど、そんなことしてる時間はない。 そこまで暇じゃない。

大人しく職員室に傘を借りに行こうじゃないか...。


とぼとぼと職員室に向かうと(ちゃんと教室の鍵も持って)、廊下でばったりクラスメイトの木梨くんに遭遇した。

短髪に眼鏡の...確か科学部、...だったっけな。


「お疲れ木梨くん。なんか提出してきたの?」

「あー...ちょっと部活のレポートをな。花畑は...?」

「傘をね、壊れちゃったから借りに行こうと思ってさ」


...ん?もしかして。

今ってすごくチャンスなんじゃない!?

この会話の流れで木梨くんの傘に入れてもらえば、私の妄想はコンプリートされるのではっ!?

木梨くんは呆れたように呟く。


「バッカだな...」


お、ここまでは妄想通りなんですけど。

この調子で行くともしかして、もしかしなくても...!

期待に満ちた視線を悟られぬようにごまかし笑いを浮かべながら、木梨くんの次の言葉を待ってみる。


「じゃ、また明日な」


くるりと踵を返し、木梨くんはパタパタと階段を降りていった。


「あ、うん...ばいばーい...」


......。

...傘、借りて帰るか。

その後これ以上にないぐらいのローテンションで職員室を訪ねて鍵を返し、傘を借りた私。

どうやらかなりの涙目だったらしく、先生に「大丈夫か?な、なんかあったのか?」とオロオロされてしまったのは...どうでもいい話である。


MISSION2 報告書 ...by調査員・花畑華乃

雨の日に傘を貸してくれる王子様には...残念ながら今回は出会えなかったらしい。

やっぱりもうちょっと粘り強く待つべきだったのかな?10分やそこらでそんなラッキーに巡り合うなんて、奇跡の確率だもんね。

というわけで...今度この状況に遭遇したら時間の許す限り待ってみようと思う。

今度こそは成功するはず!...きっと、多分!

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