第16話 古の地下迷宮 4~5層

「なあ、リュミヌー。シャンテの魔力はまだ感じるか?」


「はい、下の方に。まだ少し距離がありますが、確実に近づいています」


 迷宮の4層を探索しながら、リュミヌーに訊ねてみる。

 俺達がこの迷宮に来た目的は、あくまでもシャンテの救出だからな。その目的まで近づいているかどうか気になっていたので聞いたのだ。


 4層に出没するモンスターもほぼCランクモンスターだった。赤茶色のドロドロした液体型のモンスター、アシッドスライムは酸を吐いて武具を錆つかせようとしてくる厄介なモンスターだが、俺の火炎魔法とリュミヌーの弓で難なく処理した。

 熊に似たモンスターのマーダーベアーは、その鋭い爪から繰り出す攻撃力だけはBランククラスだが、しっかり盾で防御してから『剣狼連牙』で片付ける。


 またも宝箱を発見し、レアリティSRの盾『カーバンクルの盾』を入手して防御面も強化。あんまり俺ばかりがモンスターを片付けても何なので、リュミヌーにも戦闘経験を積ませることも忘れない。お陰で彼女はこの4層で弓使いの攻撃スキル『アローレイン』と『バーストショット』を新たに習得。着実にレベルアップさせていく。


 4層に思い残すこともなくなったので、階段を見つけてさっさと5層へと移動。

 階段を降りて5層につくと、今までみたいな迷路ではなく、真っ直ぐ伸びた通路とその先に長方形の広場があるだけの単純な造りだった。


「アラドさま、広場に何かいます!」


 リュミヌーが広場の真ん中辺りを指し示す。

 そこには、巨大なモンスターが立ちふさがっていた。


 すぐさま鑑定スキルで確認すると、Aランクモンスター、マンティコアと判明。

 人間のような顔をして、ライオンみたいな胴体をした半人半獣のモンスターだ。

 ダンジョンというのは5層ごとにボスモンスターが配置されているケースが多い。あいつがおそらく5層のボスに違いない。


 そして、ボスを倒さないと次の階層に降りる階段が出現しない。

 つまりこいつとの戦いは不可避。


「シギャアアアア!!!」


 ヤツは俺達の姿を認め、空を切り裂くような咆哮を上げて戦闘態勢に入った。


「リュミヌー、来るぞ!」


「はいっ!」


 俺はすかさず片手剣を抜いて構える。リュミヌーも弓を構えた。

 マンティコアは前足で床を強く蹴ると、物凄いスピードで一気に間合いを詰めてきた。俺はとっさに『カーバンクルの盾』を構えてマンティコアの爪攻撃をガード。


「ぐっ!」


 強い衝撃が盾から俺の左腕へと伝わり、少し表情を歪めながらもバックステップで間合いを取る。マンティコアは短く吠えてすぐに追撃してくる。どうにか盾でガードするもここまで防戦一方だ。


 『バーストショット』!!


 リュミヌーが弓を引き絞り、マンティコアに向けて矢を放った。矢は真っ直ぐにマンティコアの胴体に命中し、同時にそこが爆発。


「ギャン!!」


 短く悲鳴を上げてマンティコアは後ろに飛びのいた。そこをすかさず追撃。


 『剣狼連牙』!!


 俺は赤いオーラを纏ってマンティコアに突進、胴体を十字に切り裂くと辺りにマンティコアの血しぶきが舞う。


「ギャアアアア!!」


 マンティコアの悲鳴があたりに轟く。だが俺はなおも止まらない。

 素早く身を翻し大きく跳躍、『光剣ムーングレイセス』を頭上高く掲げ、勢いを付けてマンティコアの頭めがけて振り下ろす。


 『天狼翔牙』!!


 ズバッ! と俺の片手剣がマンティコアの頭部を縦一文字に切り裂き、絶叫を響かせてその巨体は衝撃音と共に床に沈む。

 やがて、マンティコアの死体は黒い霧となって消滅した。


「さすがです! アラドさま!」


 弓をしまったリュミヌーが俺の元に駆けつけて抱きついてきた。

 俺はその華奢な身体を片手で抱き寄せる。


「リュミヌーのフォローがあったからだ」


「わたし、お役に立てましたか?」


「ああ」


 リュミヌーは満足そうに俺の胸に顔をうずめてくる。

 そう言えば村を出発してから彼女とイチャイチャしてなかった。

 まあでもここは凶悪なモンスターが徘徊するダンジョンだし、こんな場所で女とイチャついてもしょうがないしな。


 マンティコアが倒されたので、壁が崩れて階段が出現した。

 ここを降りれば6層なのだが、さすがにここまでぶっ通しできたので疲労が溜まってきてる。


「少し休憩しようか?」


 俺の提案にリュミヌーも賛成した。

 体調管理も冒険者の大事な仕事だからな。幸いこの5層にはさっき倒したマンティコアしかモンスターはいないから、休んでるとこを他のモンスターに襲われる心配はない。


「アラドさま、あれ……」


 壁際で休んでいると、リュミヌーが何かを見つけたらしく声をかけてきた。


「何だ?」


 俺はリュミヌーのところに移動すると、彼女は石碑みたいなものを眺めている。

 石碑の表面には何か文字みたいなものが書かれている。だが、


「まったく読めん……」


「これは『古エレフィム語』です。昔お父様からちょっとだけ聞いたことがあります。なんでも、大昔のエルフ族の間で使われていた言語だそうです」


「リュミヌーには読めるのか?」


「うーーーん……」


 リュミヌーは渋面を浮かべながら石碑の文字を眺めている。

 大昔のエルフ族の言語で書かれた文字か……。この古の地下迷宮に関する重要な情報が書かれているかもしれない。彼女には頑張って解読してもらいたいのだが……。


「……英雄……王……魂……封印……ダメです。断片的な単語しか読み取れません……。お役に立てなくて申し訳ありません……」


 リュミヌーがしょんぼりと肩を落とす。


「気にするな。大昔の言語だから読めなくても仕方ない」


 しかし英雄とか王とか、そんなありふれた単語だけじゃ意味がわからないな。せっかくダンジョンの謎に一歩せまれるかもしれないと思ったのに。


 俺達冒険者は特に疑問を持つことなくダンジョンに潜っているが、実はダンジョンが何故存在し、誰が何の目的で作ったのかまだ判明していない。あとモンスターがどうやって誕生したのかもわからない。


 冒険者がダンジョンを探索することで、そういった秘密が解き明かされることを王国の学者達は期待しているようだ。

 まあ、大半の冒険者はそんなことに興味はなく、ただ金と名誉のためだけにダンジョン攻略に励んでいるんだけど。


 アイテムポーチから非常食を取り出して、リュミヌーと分け合って食べる。

 しばらく他愛のない会話をしながら休憩して、疲れが取れてきたので出発する。


 さっき出現した階段を降りて、俺達は6層へと突入する。

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