第15話 古の地下迷宮 2~3層

 階段を降りるとそこは上の階と同じような正方形の広場だった。

 俺は罠看破スキルを発動し、トラップがないことを確認して2層に足を踏み入れる。

 そして2層の探索に乗り出した。


 2層は特筆すべきものはなかった。

 迷宮の造りは1層とほとんど同じだし、出てくるモンスターもまだCランクのヤツばかりだ。


 『剣狼連牙』!!


 全身に赤いオーラをまとい、すれ違いざまに目にもとまらぬ超速度で、大きい亀のようなモンスターに4連撃を叩き込む。

 そのCランクモンスター、アイアンタートルは十字に胴体を斬り裂かれ、黒い霧になって消滅。

 そしてまた一歩ずつ慎重に進んで行く。

 こんな感じで2層は難なくクリア。

 階段を見つけたのですぐに3層に降りた。


 3層にもスケルトンやゾンビなどのCランクモンスターしかおらず、俺の片手剣技『剣狼連牙』で片付く相手ばかりだった。

 だが決して気を抜くことはない。

 人智の及ばないダンジョンでは油断した奴から屍になっていくからな。

 しばらく進むと、袋小路に突き当たり、そこに赤い宝箱が設置されている。


「アラドさま、開けて見ましょうか?」


「ああ、とりあえず罠かどうか確認してからな」


 俺は罠看破スキルを宝箱に使ってみた。すると、宝箱が水色に光った。これは安全という意味だ。ためらわず宝箱を開ける。


 中には、美しい銀色の刀身をした一振りの片手剣が入っていた。

 俺はそれを手に取ると、鑑定スキルを発動。

 頭の中に、武器の情報が浮かんでくる。



 光剣ムーングレイセス

 種類 片手剣

 レアリティ SR



 うおっ! レアリティSRの片手剣だと!?

 武器や防具には『レアリティ』という概念があって、これはその武具がどれくらい貴重かということをあらわしたものだ。

 レアリティは下から順番に、C、UC、N、HN、R、SR、そしてSSRとなっている。

 Cが一番ありふれていて、SSRが一番貴重な武具だ。

 だからこの『光剣ムーングレイセス』という武器は、上から二番目にレアな武器ってことだ。

 当然レアリティの高い武具ほど強力で、お店で高値で取引される。


 それにしても、こんな貴重な武器が眠っているとは思わなかった。さすがSランクダンジョン。

 1層2層の宝箱は基本全部スルーしたが、時間がある時にでもまた探索しに来た方がいいかもしれないな。

 俺は今まで使っていた片手剣(シルバーカトラス レア度HN)をアイテムポーチにしまい、光剣ムーングレイセスを装備する。

 ビュンビュンと剣を振って手に馴染むか感触を確かめてから、鞘に納める。

 これで俺の攻撃力はさらに上昇した。下の階層にいるというAランクモンスターとの戦いが楽になるだろう。


 ここは袋小路なので引き返して、今度は別の通路に進む。

 するとまた正方形の広場に出た。広場の真ん中辺りにまたもや宝箱がある。


「よし、あれも回収するか」


 トラップに注意しながら宝箱に接近し、安全を確認してから宝箱を開ける。

 中を覗くと、今度は弓だった。美しい装飾が施された、銀色の弓。

 鑑定スキルを発動する。



 銀弓フレイアボウ

 種類 弓

 レアリティ SR



 またもやレアリティSRの武器だ。このダンジョンは文字通り宝の山だな。

 でも弓か……。残念ながら俺は使わない。

 すると、後ろからリュミヌーが話しかけてきた。


「あの、アラドさま、その弓をわたしに頂けないでしょうか?」


「リュミヌー、お前欲しいのか?」


「はい、小さい頃少しだけ、シャンテから弓の使い方を教わったのです」


 なるほど。エルフ族といえば何となく弓使いってイメージがあるしな。

 それに、イザルス山脈の頂上でフロストワイバーンと戦った時、リュミヌーが弓で加勢してくれたっけ。


「わたしもただアラドさまに守られてばかりじゃなく、一緒に横に並んで戦いたいんです! ……まあでも、あんまり上手じゃないんですけど……」


 リュミヌーが顔を赤らめる。

 確かにリュミヌーの言う通り、彼女もある程度戦力になってもらった方が今後の冒険も楽になるに違いない。

 今は弓使いとしての能力は低くても、これから鍛えていけばいいんだし。


「わかった。それじゃ、この弓はリュミヌーに預けるよ」


「ありがとうございます! わたし、アラドさまのために頑張ります!」


 俺から銀弓フレイアボウを受け取ったリュミヌーは、とびきりの笑顔で応えた。

 リュミヌーが弓を装備したのを確認して、広場を抜けて通路を進む。

 通路の奥の方に、スケルトンが一体。

 向こうを向いていて、まだこちらには気づいてない。


「そうだリュミヌー、試しにその弓であいつを倒してみろよ」


「えっ!? わ、わかりました!」


 俺の言葉に戸惑ったリュミヌーは、しかしすぐに強く頷き真剣な表情になった。

 まだスケルトンは向こうを向いている。

 リュミヌーは、緊張した面持ちで銀弓フレイアボウを力一杯引き絞り、矢を放った。

 銀の矢が空気を切り裂き、真っ直ぐにスケルトンの頭部を貫く。

 スケルトンは何が起きたか理解できないまま、崩れ落ちてただの屍と化した。


「やった! アラドさま、わたし上手くできました!」


「ああ、上出来だ」


 リュミヌーはまるで子供みたいにはしゃいでいる。

 スケルトンはCランクモンスターで、戦闘経験の少ないリュミヌーでは本来なら倒せない相手だが、銀弓フレイアボウの攻撃力が高いおかげでリュミヌーでも一撃で倒せたのだ。

 嬉しそうにしていたリュミヌーははたと動きを止め「あれっ」と不思議そうに天を仰ぐ。


「アラドさま、今わたしの頭の中で、何か閃きました」


「それは『スキル』というものだ。何を閃いたんだ?」


「はい、『ファーストショット』というスキルです」


 ファーストショットは弓使いで一番基本的な攻撃スキルだ。実戦で武器を使い、勝利して経験を積むと今のリュミヌーみたいにスキルを習得することがある。これでリュミヌーも【弓使い】として第一歩を踏み出したわけだ。


「行こう」


「はいっ!」


 通路を抜け、スケルトンの死骸の横を通り、4層への階段を降りた。

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