第19話

「シロちゃん!実はね!」

食器の片付けを終えたレイラさんが私に言ってきた。

「どうしたんですか?」

いつもテンションが高いレイラさんだが、今日はいつもの倍はテンションが高かった。

「私がこの前小説家をやってるって言ったのは覚えてる?」

「ええ、もちろんですよ」

「私が書いた中で一番人気の『景色』っていう作品が今度映画化するんだよ!」

「それはおめでとうございます」

「でも一応情報公開前だから秘密にしておいてね」

(だったら私に教えない方がいいんじゃないのかな・・・)

「それで一応作者ってことで試写会に呼んでもらえるんだけど。一緒に来ないかな?」

「いいんですか?」

レイラさんが書いていると知る前から読んでいた作品の試写会だ、行きたいに決まっている。

「そっか!公開はもう少し先だけど、覚えていてよね!」

そう言うとレイラさんは鼻歌なんて歌いながらテレビを見始めた。

(それにしても公開ってどれくらい先なんだろ・・・)


「シロちゃん、いよいよ試写会だね!」

「やっぱりこうなるんですね・・・」

「シロちゃん何か言った?」

「いえ、何か大きな力を強く感じて」

この世界の神のようなものを短に感じてしまった。

「シロちゃん、急にどうしたの・・・?」

「大丈夫です、気にせず試写会行きましょう」

電車を乗り継ぎ、私たちは試写会の会場へとたどり着いた。

「いやー、やっぱり緊張するね」

席についたレイラさんは挙動不審に周囲を見ていた。

「まだ開始まで結構な時間ありますよ。そんな調子で大丈夫なんですか?」

「でも自分が書いた作品が本になった時も、そして映画になる時も、やっぱり嬉しくて緊張するんだ」

(こういうレイラさん見るの初めてかも)

まだ知らないレイラさんの姿を知り、色々な感情が入り混じっていた。

「あっ、始まるみたいだよ」

劇場が暗くなり映画が始まった。

映画『景色』の内容は、目が見えないヒロインを主人公がたくさんの体験をさせて心を開かせていくラブストーリーだ。

「私だけ世界が狭いんだよ!辛いに決まってるよ!」

「たしかそれは理不尽なことだ。だから俺がここにいる、俺がお前の世界を広げたいんだ」

若手が主演ということで一抹の不安があったが、主人公とヒロインを完璧に演じきっていた。

「ねえ景色って綺麗なの?」

「とっても綺麗だよ」

映画が終わりエンドロールが流れると、映画の出演者が舞台袖から現れた。

「いい話でしたね・・・」

最後のシーンでは、少し泣いてしまった。

「レイラさん・・・?」

やけにレイラさんが話しに入ってこなかった。

「・・・・・・」

「レイラさん泣いてるんですか?」

「我ながらいい話を書いたと思ってね」

「本当にいい話ですよ、すごく話も作り込まれてて」

事前に用意していたハンカチでレイラさんが涙を拭いた。

「実はね、あれ実話なんだ。母親の」

(レイラさんの母親・・・)

「お母さん生まれつき目が見えないんだけど、昔からずっとお父さんが居たんだって」

「いいお父さんですね」

「でもうちでの発言力は0だけどね」

(レイラさんのお父さん、苦労してそうだなぁ・・・)

「それとね、もう一本の方の作品もドラマ化の依頼が来てるんだよ」

「来年くらいになるんですかね・・・」

「絶対に一緒に観ようね」

「・・・そうですね」

「あっ、でも受験、「やめてください」

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