第15話

「・・ろ・・・シロ!」

「あっ、ごめん聞いてなかった」

「大丈夫なの?ここのところずっと上の空だよ・・・」

「大丈夫だよ」

そうは言っても集中が続いていないのは事実だ。

(レイラさんがいないからなのかな・・・)

私はチクチクと痛むその胸で、自分の家に帰った。


(レイラさんの部屋お掃除しなきゃ)

私は合鍵を使い、レイラさんの部屋に上がり込んだ。

「おかえり」の返ってこないその部屋はなんだかとても空っぽだった。

メールも電話番号すらも知らないことに気付かされもした。

「・・・っ、・・レイラさん」

まだこの時レイラさんが帰ってから三日しか経っていなかった。

(何だかすっかり弱くなっちゃったよ)


その日、私は懐かしい夢を見た。

それはまだ出会って少しの頃


「あっ、シロちゃんおかえり」

「・・・おじゃまします」

「えへへ、いらっしゃい」

「外で顔を合わせないので死んでいるのかと思って来たんですけど、大丈夫そうですね」

私は回れ右をすると、玄関を出ようとした。

「ちょちょ、ちょっと待ってよ!もうちょっとお話でもしようよ」

一生懸命に引き止めてくるレイラさんを見て、私は仕方なく少しだけおじゃますることにした。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

(き、気まずい・・・)

レイラさんもずっとそわそわしてるし・・・

「・・・えっとご趣味は?」

「家では勉強をしてます」

((一昔前のお見合いか!?))

そんな気まずい空気の中、私はある事を思い出した。

(あっ・・駅前のスーパー、5時までお野菜安くなってるんだった・・・)

そんなことを言えるはずもなく時間は刻一刻と流れていった。

「・・・あの、私そろそろ・・・」

「えっ!もう帰るの!?どうして?」

「あー・・。テレビ見たいので・・」

「テレビだったらここで観ていきなよ」

「・・・教育番組観たいので」

「ここでも映るよ?」

「・・・観てると踊りだしたくなるので」

「踊るの!?シロちゃんが!?」

(もうやだ死にたい)

「それなので私・・」

「なにそれめっちゃ観てみたい!」

(逆効果だああああああああ!!)

こんな状況でもスーパーの特売に行く、と言うのが恥ずかしかった。

「とにかく帰ります!」

「ちょっとシロちゃん!」

私はレイラさんの静止を振り切り玄関から飛び出した。


(何とか間に合った・・・)

私は大量の戦利品を手にしていた。

(レイラさんどうしよう・・)

このまま教育番組で踊り狂う女として広められるのが怖くなり、レイラさんの部屋に向かった。

「こ、こんばんわー」

いつもだったらレイラさんが現れて「おかえり」を言ってくれる玄関は静まり返っていた。

(寝ちゃったのかな・・)

私はリビングの扉を開けた。

「・・うぐっ・・ひっぐ・・」

そこには膝を抱え丸くなったレイラさんがいた。

「ううっ・・・あれ、シロちゃん?」

私を見るなりレイラさんの顔色がどんどん青くなっていった。

「うわっ!ちょっと!今のなし!なしだから!」

「何がなし何ですか?」

「私が泣いて・・・ああああああ今のもなしだから!」

(やばい・・・歳上なのにすごい可愛い・・)

「いきなり帰ってごめんなさい。スーパーに行く、って言うのがちょっと恥ずかしくって」

私が事情を説明すると、レイラさんは安堵の表情を浮かべた。

「私といるのが気まずくなったわけじゃなくて?」

「はい」

「教育番組で踊りたくなったわけでもなくて?」

「明らかに嘘でしょうが!」

「そっか・・・よかった」

その顔を見ていると、何だか私まで恥ずかしくなってきた。

「何か作りましょうか」

私はその日から、ほぼ毎日この部屋に来るようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る