桜の咲く日にもう一度君に会いたい

烏丸 ノート

プロローグ

 俺が初めて『彼女』と出会ったのは、大学の校門に立ち並ぶ、桜並木の下だった。


 彼女は瞳に涙を含み、切なそうな顔で桜を見ていた。

 俺も流れで『彼女』の目の先にある桜の木を見た。

 そのとき、桜の木を目掛けて大きな風が吹いた。

 俺は風に目をやられ、半目になった。しかし『彼女』は風に動じず、桜を見続けていた。その時に見えた、『彼女』の流れる髪と、風によって舞い散る桜が、とても綺麗だった。

 その時にはもう瞳に、涙はなかった。


 俺は今でもあの日の事を、鮮明に覚えている。


 ***


 俺の名前は千波矢ちはや 大助だいすけ

 大学二年で作家を目指している。成績はまあ優秀なほうだと思う。

 だけど、人間関係がてんでダメ。学校では図書館に行き、常に一人で本を読んでいるような地味目なやつ。映画行ったりする彼女や、バカ騒ぎできるような友達なんか、俺にはいなかった。

 そんな、常に一人の俺の前に、『彼女』は現れた。

「ちはや…だいすけくん?だよね同じ講義受けてる」

「え、ああ。はい、あなたは……」

 桜の木のしたで見て以来、何度か見かけた事はあったが、彼女と話したことは一度も無かった。

 故に、俺はなんと答えたらいいのかわからずに口ごもった。

「あはは、私たち喋ったことないもんね、名前わからなくて当然だし急に喋りかけられたら焦るよね。ごめん」

「はあ、それは大丈夫ですが、なぜあなたが俺の名前を知っているのか不思議ですね」

「そこは気にしなくていいです」

「いいんですか」

「いいんですよ」

 俺と彼女は数秒向き合い、そして笑った。

「私の名前は三葉みつば 陽穂あきほ、宜しくね、大助くん」

 自己紹介と共に手を出した三葉さん、俺はその手を掴み「よろしく」と軽く挨拶をした。

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