2 スチームパンクの世界

2-A 我が資源、シナプー

ワタルは、ひとり荒野をさまよっていた。


ワープホールを抜けたはいいが、元の世界とは違う別の世界にたどり着いていた。


「はぁ、町がどこにもねえ……」


とぼとぼと寂しそうに歩くワタル。

ここに来てから1時間ほど歩いていた。


「こんな時、いぬっぴ達がいれば楽しいんだけどなぁ」


ギルドの世界での旅を想起するワタル。1ヶ月程度の滞在ではあったものの、仲間3人との思い出はたくさんあった。


「あー、もうダメだ。しんどいや」


疲労からか、たまらずその場で寝転んでしまうワタル。


時はまだ昼だが、見上げた空はなぜか橙色に輝いている。


ここはどんな世界なんだろう。

そう考えながら、ワタルは深呼吸をした。


何も無い荒野で、ひとり寝転んでいる事をむしろ満喫しようとも思った。


耳をすませば、心地よい風の吹きぬける音がする。


風に舞う砂がサラサラと音を立てる。


地上を照らす太陽の日差しを、全身で受け止める。


どの世界でも、同じ物は同じなんだと実感した。


「もう少ししたら歩こ……」


ワタルがぼやく。疲れてはいても、歩むのを諦めたわけではないのだ。

しかし、もう少しだけ、もう少しだけと転がっていると、次第に眠気がやってきた。


いっそこのまま今日は寝てしまおうか。そう考えている時だった。


「……ん」


ゴゴゴゴゴ……


かなり小さいが、地響きが聞こえる。

音の鳴り方からして、大きな動物の足跡ではない。


しかし、確実にこちらへと近づいている。


「なんだ?」


ワタルは思わず体を起こした。


音のなる方へ目を向けると、そのむこうには巨大な『タマゴ』が見えた。


「なンだありゃ……」


300メートルはあるであろう。

金色に輝く装飾がされた焦げ茶色のそれは、轟音を立ててワタルの方へと進んでいた。


近づくにつれて、その全貌は見えてきた。


表面には、窓や繋ぎ目など、人工的な痕跡がある。タマゴに見えていたものは、大きな機械だったようだ。

ただ、色からして鉄では無さそうではある。


さらによく見ると、機械にはクモのような足がついていた。自走していたのだ。


こいつは誰かが操作しているのだろうか。

気になったワタルは立ち上がり、機械を近くで見ようと歩き出した。


すると突然、機械から声が流れる。


『そこのお前、何をしている』

「!」


大きな声だ。AIか、それか中の人の声だろうか。ワタルの姿はあちらには見えているようだ。


「俺は今、町を探してるー!この辺に町は無いかなー!?」


ワタルは機械からの声に負けじと大声で返答した。


『この辺に町などあるわけないだろう。お前は一体どこから来たんだ』


「ここからはるか遠い国からだよ!町がないなら、どこか泊まれる場所はー!?」


必死に大声を出した。しかし、機械からの返答は冷たい。


『この辺にはない。一番近い町でも徒歩じゃひと月3ムルはかかる距離だ』


「そんなに!?そしたらアンタはどうしてこんな所に居るのさ!?」


『町から町に移動中なだけだ。コレを運ぶためにな』


「コレ?」


『シナプーだよ。このマシンのことさ。テストラの町がエネルギー不足になったからシナプーのエネルギーを供給しに行くんだ』


タマゴに見えていたものはシナプーという機械だったようだ。それを聞き、ワタルは声の主はシナプーの中にいる人間だと確信した。


「それだったら、申し訳ないんだけどー!俺もその町に連れてってくれねーかなー!?」


中身の構造はわからないが、少なくとも乗り物ではあるはず。そう考えたワタルは、シナプーのに頼み込んだ。


『……仕方ない。入っていいぞ』


プシュー……


空気の漏れる音と共に、シナプーの下部が開いた。

機械式のドアがあったようだ。


「ありがとよ。恩にきるぜ」


ワタルは中に入り、内部で上へと伸びる階段を登っていった。


道中は油臭く、エンジン音のような騒音が響き渡っていた。

横に目をやると、壁は一面の機械。外壁同様に茶色と金色が組み合わさっている。

具体的にどれが何の部品かまではわからなかったが、歯車やバネなど、あらゆる部品で壁を埋められていた。


さらに階段を登っていくと、途中で階段から横に伸びる通路があった。


『そこを渡ってくれ』


声が響く。


ワタルは言う通りに横の通路を進むと、通路の突き当たりには、簡素な扉がひとつ取り付けられていた。


「ここか?」


ワタルが聞くと、


『そうだ』


と簡素な返事。


ワタルはドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開けた。


扉の向こうは、小綺麗でそこそこ大きな部屋だ。


壁には複数のモニターが貼り付けられ、それぞれには外の景色や内部の模様が映し出されている。


中に入り扉を閉めると、エンジン音はひとまわり小さくなった。防音室だ。


改めて部屋を見ると、モニター群の下にはキーパッドと椅子、そして椅子にはこちらから背を向けるように鎮座する一人の少女。


「あんたがシナプーの持ち主かい?」


ワタルはその少女に聞いた。

すると少女は椅子を回し、ワタルの方へと向く。


「いかにも」


少女は黄金が放つ光のごとく、鋭い眼差しでワタルの目を見つめた。


「名を聞いていなかったな」


「ああ。俺はさかいわたる。ワタルって呼んでくれ」


「はじめまして、ワタル。私はライヤ。ライヤ・ライライオだ」


ライヤは名乗ると、ふたたび背を向ける。


「町に着くまではここに居て構わない。ただ、私を困らせるような真似はしないでくれよ」


「ああ、乗せてくれてありがとな。ところで、町にはどのくらいかかるんだ?」


「だいたい3日3サルくらいあれば着くだろう。その分の食料はあるしな」


「3日かあ」


その言葉を聞いたワタルは、複雑そうな顔をしながら、床に座り込んだ。


たしかに徒歩で行くよりかはずっと早いが、ワタルにとって、何もないこの内部で3日暮らすのは少し退屈だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る