四の火、構え

言語の意味は取れなかった。しかし、それは明らかにこちらに向けられた声だった。


『というか、サトーも正直気付いてたでしょ?』

「お前みたいに迂闊に声に出したりしないけどな!」

『進む?』

「アホか!」

『ねぇサトー。わたし楽しくなってきた』

「聞いてないよそんな事誰も!!もう帰りたいよ俺は!」

『でも、この雨止みそうに無いんじゃない?』

「………だよなぁ」


声は二種類。洞窟は声を反響するのだろうか、ここまでよく聞こえる。……聞こえても意味は無いのだが。いや?意味は、あるか。どうにか会話の雰囲気だけでも掴めないだろうか。するとしかし、交戦する為の魔術を編むのが遅くなりそうだが。


『ん、サトー。魔術の気配がする』

「なぁ、前もそうだったけど、俺は端末に魔力探知とか付けてないはずだよな?」

『それは……その、乙女の「あーはいはい。昔の話ね。じゃあ別にいいよ」って遮るな!!』

「なんだよ、自分で言いにくい事ですよ〜ってアピールしておいて」

『そういうアピールだって分かってるんなら待つのが男じゃないの!?』

「どこから仕入れたんだよその男定義」

『メグちゃん!!』

「あのカンフーガール、お前にロクな事吹き込まないな……いやマジで」

『で、どうなの!?サトーは男じゃないわけ!?』


声の大きさが急に上がった。聴覚神経が慣れてきたので気付いたが、片方は生物で、もう片方はどうやら生物では無いらしい。会話可能な精神を持っている、と考えられるので生物と大差無い。警戒度を一つ、一つだけ下げる。どうやらヤツでは無さそうだ。


「あのな、その場合の男ってのは生物学的な男とは関係無いんだよ。俺よりもメグちゃんの方が男かもな?」

『うわサトーのくせにメグちゃんのことメグちゃんって呼んでる』

「お前に合わせたんだろうが!!」

『悪霊屋敷の時もキョドってたもんね?』

「そりゃ木造ドアを蹴って壊すやつにはビビるだろ!?」

『びっくりはしたケド。それだけじゃん。ふつうでしょ?』

「……お前は知ってる人間が少ないから知らないんだろうから言うけど、普通の人間はキックでドア破壊できないから」

『そうなんだ』

「そうなんだよ」


どうやら会話は収まったらしい。右ハサミ内部に《萎縮》を保持。このままもう一つの保持は、不可能。試すなら自らの再生が叶う環境で行いたい。つまり、洞窟に現れた存在二つを同時に処理する事は叶わない。ハサミで斬れればいいが、出来れば距離の離れたまま仕留めたい。


来るのを待つか、それとも……


『で、どうするサトー』

「行って、みるか」


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