母星編

灯した者は何を想う



プシュウ、と空気の抜けるような音がしてドアが開く。この音の原理はよく分からなかったので鳴るように後付けしたのが懐かしい。いや、どんだけ宇宙ロマンに飢えていたんだよ自分。たしかに暇でやること無かったのは確かだったにしろ、ちょっとアレなんじゃないか。マニア過ぎやしないか。まぁ誰もその点に関してはつっこまない。というかつっこめない。そこに寂しさを感じる。感じるから、まだ自分は人間辞めきってないらしい。なんて、ヘンな所で嬉しくなる。


入ってちょうど右手にあるスイッチを押すと電気が点いて一気に明るくなる。最初に目に入るのは巨大な水槽だろう。八つある。円筒形のそれは地面とチューブで繋がっており、中に入ってるクリーチャーがいきなり出てきそうなデザインになっている。残念ながら、現在中身はカラだ。けれど新品ってわけでもなくて、何度も中で生物を培養しては出産してきたベテランだ。そろそろ性能上げとかしておこうかな。マスプロダクション式のものを造っても楽しそうだったりするけど。


水槽を横切って部屋を進むと、壁に埋め込まれたモニターとそれに対応したキーボードがある。ここにオペレーターとか居たらザ・司令室ってなると思うのだが、残念なことに、言い方きついけどよくよく考えたら優しくね!?ってなる美人オペレーターは居ない。なんなら単なる美人オペレーターも居ない。最後の砦を譲って何の保養にもならないオッサンでいいから!とか思ってみても居ない。人間は存在しない。寂しいね。寂しいと死ぬ生物が居るらしいけどひょっとして自分のことかな?


やめようやめよう。人間について考えるのやめよう。いったい地球までどんくらい距離があると思ってんだ。さらってくるの無理ぽなんだから考えるなよ。いや、そもそもさらおうとするなよ。なんかヤベー生物のトップが自分たち人間と同じ形状してんのなんかイヤじゃん。生理的にムリー!とか言われちゃうパターンじゃん。目の前で思いっきり近寄るな化け物的な反応したらうっかり宇宙に喧嘩売りたくなるじゃん。・・・自分、心よっわ。


床に座る。鉄っぽいので出来てるのでひんやり冷たい。夏にはうってつけだよーとか言ったら人間釣れませんかね。頭が年中パーリナイな人間ならなんとかなりそうじゃない?違う?あーー誰か答えてくれないかなー。


「電気が点いてると思ったら、お父様だったんですか」

「おう、お父様だよー」


以心伝心めいたタイミングで現れたのは、絶賛傷心タイムのサンクだった。あ、心だけじゃないや。片方の翼もやられてるんだった。あー、そうだよ。翼治してやれるマシンとかも創らにゃだな。よいしょっと。


「・・・復活させに来たんじゃないんですか」

「え、いや?たしかにここは復活させる為の部屋でもあるけど、別にそれは考えて無かったな」

「そう、ですか・・・」


サンクに差す影が増した。人間じゃなくっても、鬱っで体調が悪くなったりするんかな。実験してみたくあるけど、思考が外道のそれだよな。ナシナシ。暗くしてしまった分は明るくしないとかな。


「さっさと復活させてもいいんだけどさ、それだと早計っぽいんだよね」「早計?」

「そう。ヨンとのライン、切れてないんだよね。瀕死かもだけど、とりあえず生きてるっぽいんだよね」

「本当ですか!?」

「嘘言ってどうするのさ」


詰め寄ってきたサンクをなでる。別に動物をもふもふする趣味があったわけじゃないけど、ぶにょぶにょするよりは幾らかいいかもしれないと思った。触手っぽいの、ちょっと邪魔だし。まぁ感触よりも、自分にとって可愛いかが争点な気もする。よしよし。


「で、だ。サンクはどうしたい?」

「探します」


即答。結論はそうなるだろうとは思っていたけど、早いなあ。サンクは考え込んでから、答えるタイプだとばかり思ってたんだけど。今回の件で何か大きな変化があったらしい。うんうん、良いことだ。お父様はご満悦だぞ。


「なら、頑張りなさい」

「へ?」

「どうやってヨンを助けに行くのか、自分で考えてみなさい。そのために必要なものがあるならお父様に言うんだ。行けそう?」


サンクは呆気にとられている。だよね。いままで指示通りやってきたからね。アルか自分の言ったことを行えばそれで良かった。けど今回は違う。自分で考えろ、だなんて初めて言われたんだ。試練だね。


「・・・・・・やります。やらせてください」

「では、頑張りたまえ」


ハサミを食いしばって決意する姿は、熱いスポコンものを思い出させるほどだった。サンクは燃えていた。目っぽいところに炎が見える。やる気に肩をいからせて部屋から出て行った。頑張れ、息子。ブレイクスルーを見せてくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る