221-230
221
戦さ場には男らの銅像が、女王のように厳めしく聳えていた。旅人は巨大な脚の荒野を歩いた。かつてこの男らは思うさま笑い、戦い、まぐわってきて、果てに今、赤銅の内で永遠に灼かれる定めにある。真昼、戦さ場は日射しを集めた男らの熱で歪められる。月は責苦を哀れんで、夜にはそっと冷ましてやる。
222
托卵をするなと郭公に言いつけると郭公はたわんで弾けてしまった、托卵は悲劇なのに、だから托卵を禁じることは当たり前だと思ったのに。
223
あるたくらみを暴いてしまったのでもうたくらんではくれないのだ。むかし美しい家のようだったたくらみはいまばらばらで、浜の流木の白い重なりかたによく似ている。
224
苦い水を飲み、眠い国を押し戻していても、ここに波の寄せ、布団の寄せ、踝は裸、国は落ち、のしかかるひと夜の重さあたたかさ。
225
脚をわかちあう蟹と貝殻 宿借
226
布団の中の御殿を探したことがあるのを忘れていて、雲の上の御殿に来てはじめてそれを思い出した。私の布団はどこと聞くと門番は案の定天地を指した。だからといって今更どうすることもできない、ものごとには順序もタイミングもある……。
227
死んだ女も死んだ男も喋ってほしいから喋らせる。大半は私への恨み言だがたまに私を怖がらせようとしていかにもおどろおどろしげな声でいう。「おまえの前で番ってやろうか……」私は番ってほしくはない。番わないでいてほしくもべつにない。骨がカチカチ鳴るだろうか。それを怖がればいいのだろうか。
228
ここに穴があり、棘があり、私達はこれから棘を穴で塞ぎます。穴を棘で塞ぐのではなく? いいえ棘を穴で塞ぐのです、ほらこのように。ボワボワボワボワと音もなく穴が現れて棘に重なったように見える、穴の向こうにあるはずの棘が眩んだようになってどうしても見えない。
229
鬼はどこにでもいるけどそんなにいつもいつもは会えない、そんなにたくさん会ってしまうと鬼の怖さが薄れてしまう、私たちはそれを知っていて日頃敢えて鬼を探したりはしない、鬼を探さなくてはならないとき、それは叱ってもらいたいとき、誰かが渾身の力を込めて金棒で私を叩き潰さなくてはならない。
230
浜辺は私の領分であつて弟のものではない。弟は天狗になったので、浜辺は二度と弟のものにならない。山の端と磯の境目の崖上に、時折、黒い背塊が翻り、山胡桃の二、三が落ちていることがある。顔を見せればいいのにと思う。浜辺は許すのに。私は許すのに。私は笑みを浮かべる。それは厭な笑みである。
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