日常

普遍的な日常

 朝、いつものようにけたたましい目覚まし音で起きた僕は、身支度をすませ学校へと向かう。近所のおばさんに挨拶をされ、いちゃいちゃしている男女の横を通り過ぎ、顔見知りの猫を愛で、また歩き始める。


 学校までの道のりは、短くはなく、それでいて遠くないほどよい距離だ。僕には丁度良い。苦はなく、かといって思い出がないわけでもない、いわば日常の引き立て役のようなものだ。


だが、この道にそこまで依存しているわけではない。ただ、この「日常」が続くと良い。そんな普遍的で何の変哲もない、少し傲慢な願いの一部なのだ。


 いつからこんなじじ臭い感性を持つようになったのか、自分でもわからない。だが、ふと、そしてはっきりと僕はそれを願った。そのことは覚えている。


 普通の校門を通り過ぎ、普通の玄関を開き、普通の階段を上り、普通の曲がり角を曲がる。一つ一つの行動をかみしめるようになったのも、願ったときからだった。


 いつもの窓際の席に着き、窓越しに青い空を見上げる。それは何も不思議なところはない、きれいな青空だった。ただただ広く、美しい空だった。


 全ての授業が終わり、僕は教科書をバッグに詰め込む。いま、教室には僕を含めて五人しかいない。この微妙な静けさも、案外良いものだ。


 三人の男子が今日の夜することを打ち合わせし、僕がいて、もう一人女の子がいる。


あまり人と接しないことが仇となったのか、ここにいる人の名前は知らない。顔は何となく覚えてはいても、日々活字と向き合う僕には、友達など無縁なのだ。


 そして僕はまた、いつもの道を歩き帰る。

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