ごく当たり前な日常w 2

 某マンション


 朝の平日、一般的に言って皆が仕事や学校などで動き出す時間帯である。


 出掛ける者や、外以外でも家などで動いている者もいる。


 だが、世の中ではあまり認知されていない職業がいくつか存在する。


 その類として、彼もそうだった。


 リビングのソファで寝っ転がりながら、ノートパソコンながめ続けている彼が一人。


 電気は消され、明かりはカーテンの隙間から入ってくるわずかな光のみ。


 まともに寝ていないのか、目の下にはちょっとしたクマが出来ており、油断するとすぐに寝落ちしてしまいそうな状態だった。


 だが彼はまだ寝るわけにはいかない。


 何故なぜなら彼にはやらなければならないことがあった。


「……何でだよ」


 『情報屋』


 彼、楠木くすのき翔太しょうたの職業である。


 名の通り、人に情報を売る仕事である。


 情報が欲しい者に、その情報に担う金や情報を条件に売る。


――いくら調べても、彼女の過去に関する情報が見つからない。


「……そろそろかな」


 すると、玄関の方からガチャと、鍵を開ける音が聞こえた。


――さてと、何て言ってやろうか。


 リビングのドアが開き、そこから女性が入って来た。


「あら、まだ起きてたの? ていうかこんな暗い部屋の中でパソコンいじってたら目が悪くなるわよ」


花蓮かれんが俺に説教出来る立場か?」


 花蓮と呼ばれた女性は手に持っていた見るからに高そうなブランドもののカバンをリビングに置かれている長方形型のテーブル置くと、キッチンの方への向かい冷蔵庫を開ける。


 冷蔵庫を開けると、その中から一本の水が入ったペットボトルを取り出した。


「何のことよ、それに説教って……」


「また他の男とホテルに行ったろ」


 口に水を含み、一通り飲み終えると花蓮は楠木の方へ向き、ニヤッと笑みを見せる。


「あら、流石情報屋さん、全てお見通しなのね」


 楠木は花蓮が余裕の態度を見せていることに苛立ちを覚えた。


「いくら客との付き合いだからって、ホテルに行くことはないだろ」


「だって~最近の翔太冷たいんだもん」


「仕事が立て込んでるんだ」


――まぁ嘘なんだけどな……。


 しかし、花蓮にはそんな嘘は通じなかった。


「フッ、嘘ね。だって、仕事の依頼全然来てないじゃない」


「……」


「フフッ、図星ね」


――何も言い返せね~。


 花蓮の言っていることは正しく、実質仕事に依頼は少ない。


 情報屋というのは情報量の他に、知名度が必要である。


 しかし、職業柄表で堂々とは名乗れない。


 その為宣伝方法が難しく、それこそ依頼人がいるとしても、裏に関わる存在者のみ。


 そのうえ、楠木が情報屋を営み始めて日が浅く、いくら情報があったとしても、認知が低けば、依頼してくる者もあまりいない。


「もう情報屋何か辞めて、もっとまともな仕事に就けば?」


「『殺し屋』兼『キャバ嬢』をやってる奴に言われる筋合いはねぇーよ」


「まぁそれもそうね、でも稼げてるしね、少なくとも翔太よりは」


 花蓮が腕を組み誇らしげにしている態度に、さらに苛立ちを覚えるも、楠木は何も言い返せなかった。


「彼氏の翔太がこれじゃーね、さっき一緒に行ったホテルの男と付き合っちゃおうかしら、お金もいっぱい持ってそうだし」


「どこがいいんだよあんな奴、ていうかまたそいつからプレゼント受け取ったろ」


「そうなのよね~でも今回貰ったのは別に要らないから換金してお金に変えるわ」


 そういうと、先程テーブルの上に置いたバックを手に取り、中からプレゼントとして貰った品を楠木に自慢げに見せびらかす。


「この『十字架のネックレス』、一体いくらになるかしらね?」

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