第10話 村

 門を入ると、すぐに黒い瓦礫の山が目に飛び込んできました。

 全体的に灰色の村にあって、黒々とした山は不思議な存在感がありました。日にあたって、時々きらりと輝いています。

 アルヴェは、その瓦礫に目をひかれました。歩みよると、瓦礫の山から何かを引き出しました。

 鉄製の黒い汚れた剣でした。

 スミアがあわてて、アルヴェを止めました。

「村の有力者、ジッタさんの物だよ! 勝手に触っちゃ何を言われるか……」

 スミアは、アルヴェの手から剣を引き抜くと、まるで汚れ物でも触ったように、ぽいと瓦礫の山の中に捨てました。

 人通りはまるでなく、誰も瓦礫に触れたところを見た者もなく、スミアは安堵のため息を漏らしました。

「スミア、あれは……」

「うん、わかっているよ。土鬼が昔使っていた武器とかだよ。ジッタさんは村の者を雇って、野山や谷から金属製の物を探し出して、加工して鍬とかを作っているんだ。時には武器とか作って、時々来る商人たちに売ったりもしている。ヘンだろ? 土鬼を憎みながら、やつらが捨て去った物で、この村はもっているんだから……」

 耐え切れないとでもいうように、スミアの唇が震えていました。


 確かに、かつてこのあたりは土鬼がたくさん住んでいました。

 しかも古の時代の戦場でもありました。ですが、これほどたくさんの武器を、土鬼が捨てるとも思えません。

 村人たちはかなりの時間をかけ掘り起こして、これだけの物を集めたのでしょうか? それにしても、尋常ではない量でした。

 しかも、武器は土鬼のものだけに留まりませんでした。時に光戦の民の折れた剣が交じっていて、アルヴェに戦死した同胞を思い出させました。

 たとえ千年の時が過ぎようと、アルヴェにとって戦いは昨日の事のようでした。

 戦いの後、アルヴェたちは仲間を手厚く葬りましたが、武器までは手が回らず、美しい宝玉を抱いた名剣ですら、土の中に埋もれてしまったのです。

 それが今、このような汚れた姿で目にすることになるとは。

 瓦礫の山から漂う土鬼の臭いが、アルヴェを嫌な気分にさせていました。


 勢いよく煙の立ち昇っている建物は、ジッタの工場でした。

 そこでは、金属が打ち直されて違うものになっているのです。働いている村人のけはいがしました。

 その横を通り過ぎ、しばらく行くと、小さなあばら家がありました。

 屋根が傾き、窓には板が打ち付けられています。崩れかけた煙突からは、一筋の煙もなく、まるで人が住んでいるとは思えないような小屋でした。

 どうやら、この家がスミアの家でした。

 スミアは目をつぶり、大きく息を吸い込みました。そして、意を決して、その家の扉を開けました。

「ただいま!」

 とたんに扉の奥に、白髪の老婆が現れました。暗がりの中、ぎょろりとした茶色の目だけが光りました。

「スミア! この恩知らずのばか娘が!」

 老婆はすごい形相で怒鳴りました。

 あっという間にスミアの胸倉を掴むと、家の中に引きずり込み、ばたんと激しく扉を閉めました。

 それは、本当にあっという間でした。

 アルヴェは驚いて、扉に手を当て、中の様子を探ろうとしました。

 老婆の叱咤する声と、激しい平手の音が響いてきました。

「や、やめて、ばあちゃん……。もう許して……」

 スミアの、泣きながら懇願する小さな声が漏れてきた時、アルヴェはたまらなくなって、後先考えずに扉をこじ開け、家の中に飛び込んでいきました。

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