第6話聞きたくない

ビデオ屋では男と会うのを誤魔化していた母も、私が高学年になると何も隠さなくなった。

夜な夜な酔っ払って帰ってきて「お母さん失恋しちゃったー。フられたの初めてだよー。ショックでもうだめ」

なんて返したらいいの?へーそうなんだ、お疲れさま?お父さんと結婚してるのにそんな風に言うの?そんな話聞きたくないよ!!

でも、そんなことは言えず大人ぶるしかなかった私は「そうなんだ、残念だね」とか返したと思う。

私は親に何かを言えなかった。親だけでなく言いたいことが言えなかった。決しておとなしいタイプではない。逆に明るい、悩みなさそう、友だち多い、そんなタイプだったのにだ。

お母さん、これ以上飲みに行かないで!

お母さん、これ以上男の人と逢わないで!

お母さん、もっと普通の話して!

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