第5話 秘密の小説家

 私が試しに書いた小説はかなりの好評だった。

 貴族の令嬢だけではなく、メイドの見せ場を盛り込んだのがよかったのかもしれない。

 少しどや顔してしまう。



「この作品、他のメイド達にも見せてもよろしいでしょうか?」

 私付きのメイドでクラリスがきいてきた。

「えぇ、もちろんかまいま……。待った」

 私の書いた小説はミステリー小説、なら、作者も誰か秘密にしておいたほうが、読者もこれは誰が書いたの?どんな人が書いたの?男なの女なの?ともっとワクワクするのではないか……。

 うん、秘密にしよう、秘密にしましょう、そうしましょう!

「他のメイドに見せてもかまいませんが。一つ条件があります。この作品を書いたのは私であることは口外しないでほしいのです」

「なぜこれほどの作品ですよ」


「あまいですよ、クラリス。これはミステリー小説です。作者にも秘密のベールがあったほうがなんとなく面白いじゃない」

「しかし、お嬢さま。お嬢さまがここ1週間ほど部屋にこもられて修羅場修羅場……と何かをしていたのは他のメイドも知っております。今さら秘密になど難しいのでは?」

「うーん……ひきなり秘密の作家計画暗礁の兆し………。いえ、クラリス、私が部屋にこもっている間何か執筆作業をしているのを知っているメイドをこの部屋に集めてください。」

「かしこまりました」



 部屋には5人メイドがあらわれた。

 意外と少ない。

「こちらは、お嬢さまの部屋の清掃、給仕にこの1週間かかわった者たちです」

「なるほど」

 アリス、イリーナ、ウィンリィ、エリー、オリビア。

 ちょうど、アイウエオである。


「まず、皆にこの小説を読んでみてほしいの。これは、私がここ1週間こもって何をしていたかの集大成です。ただ、まだ皆には発表いたしません。物事にはタイミングという物がありますからね。今日の仕事はこれでいいから、とりあえずまず読んで!」

 恐る恐ると手に伸ばして5人で覗き込んでいる。


 不安は30分もすればあっという間に消えた。

「もう、オリビア遅い」

「待って、まだもうちょっと」

「続きはどうなってしまうの」

「あの、執事が絶対にあやしい」

「このお嬢さま付きのメイドなんて鮮やかに支度をするの」

 すっかり夢中になっているようだ。

 やはり、メイドの要素もりこんだかいがあった。


 その時は訪れた。

 物語はクライマックスに差し掛かる。

 メイド達も無駄話を辞め、字をひたすら目で追う。

 ページがめくられる、そしてまた目で追う。

「あぁ」

 一人が口を手で覆う。

 そう、犯人はあいつなのです。

 次々とそこまで読んでいったのだろう、どうよこのどんでん返し!

 ついついドヤ顔だ。

 トリックは一部リスペクトしてる探偵の漫画のオマージュだけど……。


「クラリス、皆にも今日だけはあなたがお茶をいれてあげてちょうだい。

 クラリスを含むこの5人には。今日から秘密を共有してもらう仲間なのです」


 私はちょっと芝居がかった感じでそういった。


「この小説を書いたのは私です。でも、それは今後私を服も7人だけの秘密です。もし、秘密が誰かにばれるようなことがあれば、私は続きを書けません。私のような令嬢がこのような書物を書くことをよく思ってない人もいるかもしれないからです。どうか、私を助けるメイドになってほしいのです」


 皆はコクリとうなずいてくれた。


 それからは、クラリスを先頭に、この書物をまずはこの家の皆に広めることにした。

 感想が欲しいの、私はメイドの仕事を実際にしたことがないので、仕事に携わってるものが見ればおかしいという箇所があるかもしれない。

 その矛盾を訂正するためにも、この物語のメインキャストであるメイドの意見が欲しいのだ。


 小説は、皆に写本してもらい、原本は私が。

 そして写本したものをそれぞれ他のメイドに貸す。

 貸しだしは2,3日だけで、必ず貸しだしたものが回収するとの名目でひっそりと広める予定だった。


 問題が起こったのだ。

 メイド達の一部が仕事そっちのけで読みふけてしまい、そのうちの1冊がお父様の目に止まったのだ。


 当然仕事中に読みふけていたメイドは大目玉であったが、そのメイドが後日父から呼び出され。

 さらに本を貸したイリーナが呼びだされたのだ。

「お嬢さま………どうしましょう」

 イリーナが不安げな顔で部屋に駆け込んできた。

「あなたはこれはメイドの間で今はやっている小説であること。とても、面白いものだから、借りて写本したものを貸した。誰から借りたのかと問い詰められても、罰せられたら………って感じでかばってなかなかクラリスの名前を出さない。いいわね。貴方にしか時間が稼げないの。頼んだわよ。そして、このシーンは次回作にいかしたいから、雰囲気とかなるべく詳細に覚えてきて!」

「そんな私……無理ですそんな大役……」

「貴方にしかできないことなのです」

 私はイリーナの手をぎゅっと握る。

 イリーナは覚悟を決めたのか、一度うなずくと部屋を後にした。







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ヒロインの親友やめます! 四宮あか @xoxo817

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