食物連鎖・オブ・オブザーブ(マルチディメンジョン)

解場繭砥

食物連鎖・オブ・オブザーブ(マルチディメンジョン)

 私は今恋に落ちています。相手はすぐ近くにいて、しかし決して抱きしめることはできません。しかし彼らが代わりに向こう側では抱きしめ合ってくれて、それだけで無償の愛を捧げる気になるのです。

 そうです。私は腐女子でした。今愛しているのは「筆記具戦士ペンシルン」の「シャープ・ブルー」。それを愛するのに私は要らない。私の代わりに必要なのは、「チョーク・ホワイト」の無色にして無私の愛。だというのに。

 突然の裏切りがあった。一緒に彼らを愛してきたあっちゃんが、突然シャーチョーだって言い始めたの。何を考えているのか理解できなかった。そんなキャバクラで呼び込みされるシャチョさんみたいな名前で何で貶めるの。チョーシャー以外あり得ないでしょ。必然性ってものが全くない、そんなのは原作破壊よ。そう何度も言ったけど全然わかってくれなかった。

 でもどうしようもない。これはもう、彼女自身の問題だから。彼女自身が気づくしかないの。

 私はいつか、もう一度あっちゃんと手を取り合って、たわいない萌え語りが出来る日が再び来ることを信じて待っている。



  †



 腐女子文化というのは正直、オタク文化のレベルを相当に下げているんじゃないか。

 たかがかけ算が逆になっただけでなぜ戦争が起こるのか。訳が分からない。

 自分なんかは、百合で逆になったらそれは二粒で二度美味しい、都合四倍というか。どうしてそういう風に考えられないんだろう。


 なんだろう、持って生まれた性質なのかねこれ。男女平等って子供の頃から教えられてきたしずっとそう信じてきたけれど、やはり生物学的にいってもそもそもホルモンバランスとか全然違うわけで、これは差別とかでは全然ないんだけど、やはり女性は感情に走りがちな性質を持つというか。

 まあ、だからこそ現実の女より架空の百合のほうが愛するに値するわけで。

 なんだろう、架空の薔薇を愛している時点で、構造は同じだと思うんだけどな。どうして順序にこだわるんだ。自分らみたいに博愛主義が持てないのか。

 そんなわけで、自分は魔法使いに突入しても一向に構わないし、そうなる覚悟はできているし、そのほうが幸せ。

 そういうのを草食系男子とか名前をつけて喜ばないでほしい。それだけ。



  †



 飽くまで腐女子文化の極端な一例に過ぎない、その統計的根拠も全くない現象が、一部の男性のオタク(ネットユーザーと言い換えても良いかもしれないが、少なくとも過度のネット消費を行う層とオタク層は被っていると考えるのが妥当)らによって盛んに流布され、自己肯定の道具とされてしまう現実。自己肯定だけに留まれば良かったのだが、女性専用車両叩き、痴漢冤罪への過度なこだわりといった現象にまで発展し、ヒステリックなかたちでフェミニズムの全否定に走る。

 この転落の経路はもはや、見たい情報だけを選択的に見てその濃度を強めるのが実に容易なネットというツールでブーストされてしまったという印象が強い。こうして仕掛けられた偽りの〝正義の〟戦争の中に潜む悪意を自浄するのはもはや不可能と言って良い。

 ネットそのものが、新たなより発展的な性格を持つ何らかの発明によって上書きされていかない限りこれは改まらないという諦観と、それは学問の放棄であるというせめぎの中で、明日へ進むべき方向を探っている。



  †



 おいおい……何なのこの短文の中にここまでツッコミだらけっていうのは、一種の芸だとは思うんだけど、統計的根拠の欠如を批判の根拠としながら、その流布されているという情報については、まずその「過度の消費を行う」ネットユーザー(随分恣意的な修飾だよな)、オタクを定義した上でそのどの程度の割合に流布されているのかっていう数字を出さないと大ブーメランだと思うんですけど……ネット層とオタク層をガッツリ同一視してますけど、大部分被ってるとか、当然のように断言しないでその根拠は何だよ。んでこの文章の中にヒステリック・全否定・転落・戦争・悪意などといったずいぶんと過激な挑発用語仕込んでますけど、やはり正義の戦争したいんですかね。あと堂々と印象という用語を使っておいて事実みたいに断言するのやめてください。さすがに最近のセンセイの言説の劣化ぶりは大変に目が余るというか、やっぱ見たいものだけ見てるっていうところだけは賛成しておきますわ。ネット向いてないんじゃない?



  †



 最近、新しいナマモノジャンルにハマってるんです。アカデミック・ナマモノ。略してアカナマ!


 いや、最近某センセイと某先生が凄く怪しいのよ……。いや、名前とかはググられるとアレだから、そこは心得てるから。基本はセンセイが世の中を憂えるのに先生が根拠がズタボロだって散々批判するんだけど、その過激な口調の端々がどう見てもこう実質LOVEとしか思えないわけ。

 愛の反対は憎しみではなく無関心っていうけど、まさにそれ。この観察眼そのものが愛なのよ!

 センセイのほうは基本無視してるんだけど、本人にしかわからない、私たちにもわからない言葉をきっと仕込んでいるに違いないわけよ。間違いない。

 でもまあ二人とも世のため人のためみたいな感じなんだけどとにかく石を投げ合うのがとっても面白い。その石が双方向じゃないのもまた面白くて。センセイは別方向に投げた反動で心だけ先生のほうに投げてるわけです。この表現、伝わります? 伝わります? わかって。

 目下の関心事は、結婚式はいつかなぁっていうところかな。



  ◆



「よし、ループの形成に成功したぞ!」

「何ですかこれ」

「システムに散在させたAIに〝愛〟を装備しようとしたんだが、その定義は不明確なんでそれを〝観察〟というアクションに置き換えたのだ。ループが作られれば、自らアクションを再生成して凄い勢いで〝愛〟が育つことになる」

「そういう強引な解釈で世の中をなぞらえてわかったつもりになる姿勢は好きではありません」



  †



「研究室の教授と助手の関係が怪しいの」

「そうやって腐った妄想を聞かされる男友達としての俺の立場は」



  ◆


Eternal loop up to heigher dimension.


(了)

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