第5話

 カンナは疲れていた。警察からの帰りだった。


 6時間待たされた挙句、捜索願いは受理されず。理由を聞いても「お答えできません」の一点張りだった。係員の対応に違和感を覚えたもののあまりの疲労に追求する気力すら起きず警察署を後にした。


 家に戻るとおじさんはまだ帰っておらずフィアがひとりで本を読んでいた。


 カンナに気づくとフィアは近寄り、「おなかすいた」と言って食べ物をせがんだので、カンナはキッチンに向かい自分の分と彼女の分の夕飯を手際よく作った。


 新聞にはカンナの家の火事の件が小さく出ていた。お母さんは無事なのだろうか。家があった場所に戻れば何かわかるかもしれない。カンナはそう考え支度を始めた。


 「カンナお姉ちゃんどこか行くの?フィオも行く!」


 自分の小さなかばんをたんすから出しながらフィオがそう主張したが、「すぐに戻るから」と言い、家を出た。




 家があった場所の地面は黒く焦げていて、同じく黒くなった家の残骸があった。家の周りを囲うように張られている進入禁止のロープをくぐり、中に入った。自分の部屋があった場所にはなにも残っていなかった。


 お母さんの部屋があった場所に行くと石でできた小さなたんすが残っていることにカンナは気づいた。石でできていたので火事があっても大丈夫だったのだろう。そういえば、お母さんにこの中を見せてと頼んでもいつも断られていたっけ。そんなことを思い出しながらカンナはたんすをあけようとした。


 しかし、たんすは引いても押してもうんともすんともいわない。鍵穴はないので鍵がかかっていることはないだろう。そうなると、火事の影響でたんすの部品同士のかみ合わせが悪くなってしまったのかもしれない。明日街にある石細工のお店に聞いてみよう。


 カンナはそう考え、たんすの表面についていた埃を落とそうと軽くなでだ。すると、ゴゴゴという小さな音とともにたんすが開いた。びっくりしてしりもちをつきそうになったがなんとかこらえたんすの中を覗き込んだ。中には数冊のノートが入っていた。ノートを1冊取り出し、中を見ようとした。


 「そこでなにしてる?」


 声がしたのでノートを持ってきたかばんの中にいれた。


 「わたしはこの家のものです。火事のあった日から母親と連絡が取れないのでここにくれば何か手がかりをつかめるかもしれないと思い来ました。ロープをくぐって申し訳ありません」


 カンナはそういいながらロープをくぐり外に出た。


 声の主は背が低く、白髪混じりの短髪とひげをたくわえた初老だった。


 「ここは危険だからもう二度と入らないように。ここで何か見つけたか?」


 老人がカンナの頭の先から足の先までじっくり観察しながら尋ねた。


 「いえ。何もありませんでした。わたしはこれで失礼します」


 そういい残し、おじさんの家に向かった。

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