36話 世界の守護者


 魔物の現れる森。その森をひたすら突き進み、その道中に現れた骸骨剣士に手こずっていた所を髭の老人に助けられた俺。


 その老人は、過去に出会った神姫【カルメン・アルフォンス】との知り合いだったようだ。


 そして、カルメンさんに会いに行く事が今回の目的だったことが発覚する。

 ミューちゃんもその老人と知り合いだったようで、カルメンさんの居るところまで一緒に行くことになったのであった。



──────────────────


   

「久しぶりじゃな。あれから精進しておるか?」


「はい。師匠の教えを守り日々研鑽に励んでおります」


 ミューちゃんが恭しく礼をしながら答える。


「そうか。したらば、今日は隣のソイツの件で来たのか……?」


 森の中にあるこじんまりとした小屋に到着した俺達。

 そこで再会した二人は玄関先で軽い挨拶を交わしただけで、カルメンさんは俺に鋭い視線をぶつけてくる。


「はい。師匠ならお気づきかと思いますが……」


「あぁ、こやつも【天使】を宿しておるのか……。しかも中々厄介なヤツじゃなぁ……」 


 なんだこのプレッシャーは……! 突如カルメンさんは俺に向けて凄まじい殺気をぶつけて来た。意識が飛びそうになるのを下腹に力を込めて必死に堪える。


「ふぅ」


 カルメンさんが息を軽く吐くと、俺に向けられていた殺気も無くなり身体が軽くなる。


「長旅ご苦労だった。ひとまず茶でも飲んで休んでくれ。修行はそれからじゃ」


「ありがとうございます」


 さきほどの殺意の説明は無いまま、カルメンさんは小屋の中へと入っていってしまった。


「なぁ、カルメンさんっていつもあんな感じなのかい?」


 ふと気になりミューちゃんに確認してみる。


「そうですね……。神姫や神鬼オーガ、魔物が絡むとピリピリとはしますが……。カナデさん、何か師匠にしましたか?」


「いやいや! 俺は何もしてないよ! 前回が初対面だったし、そこまで会話もしてなかったから何も」


 ミューちゃんがジト目で俺を見てくる。

 前のカナデは一体全体どんだけチャラかったんだよ。


「そうでしたか。まぁ、今回は【天使】が絡んでると思われるのでいつも以上に意識されているのかもしれませんね……。まずは中に入りましょう。外にずっといるのは暑くなってきました」


 そう言うとミューちゃんはカルメンさんに続いて小屋の中へと入っていくのであった。


「なんだろうか。よくないコトが起きるような気がする……」


 俺は胸騒ぎを感じながらも皆に続き小屋へと入るのであった。



──────────────────



 俺達は休憩を終え、森の更に奥にある丘陵地帯に来た。そこは一体が芝の様な草で覆われており、視界を遮る物は丘のみだ。

 そして、丘陵地帯の更に先は山が続いており見た目はアルプスの地のような観望をしておりとても綺麗だった。

 鬱蒼とした森の奥地がこのようになっているとは不思議で異世界に来たんだと実感する。



 「さぁ、カナデ。お前の本気を見せて貰おう」


 「分かりました。俺の全力、見てください!」


 カルメンさんは、両腕を広げまるで抱擁をするように俺の前に立ち、そう告げてくる。


 俺から二十メートル弱離れた位置にカルメンさんは居る。魔法で攻めるか? いや、やはり得物で行くのが良いだろう。


「バルムンク顕現! では行かせて貰います!!」


 俺は考えた後、大剣バルムンクを召喚し一息で間合いを詰め下段からの腰辺りを狙い大剣バルムンクを振り抜く。


「ほう? 人間にしては速いな」


「なっ?!」


 カルメンさんは俺の下段からの掬いあげを、右手の人差し指と親指の二本でつまみながら軽く呟く。俺は大剣バルムンクを引き戻そうとしたが全く動かすことが出来ない。


「天使の真似事なんかして、小童が何を企んでおるのだ? して、お主は何処から来たのだ?」


「企むも何も、俺は何もしていないですよ!」


「ほう、しらばっくれるのか? このワタシを前にして嘘を吐いたことを後悔させてやろう……!」


 ゾワッ。


 俺は掴んでいた大剣バルムンクを消失させ、その場から飛び退く。


 ブワァ!


 その瞬間俺が居た場所から突如竜巻が発生した。


「何をするんですか! 貴方は俺を殺しに来てますよね?!」


「あぁ。お主のその天使は、今揃ってはならぬものなのだよ」


 ん? 揃う? 俺以外にも七大天使ではない天使が居るというのか?


「クソッ!」


「何をボーッとして! ワタシ如きに本気を出すつもりなぞないと言う事だな!!」


 俺が思考をしていると、その隙を逃す訳もなくカルメンさんが両手足に武装を展開し殴り掛かってきた。

 とてつもない速度のコンビネーションを躱し続けていく。すると、ワンツーの後に神速の右フックが来た。それを後ろにスウェーをし回避したが、その後さらに加速した左ストレートが俺に襲い掛かってくる。


「一体何のことだか分かりませんが! この力が! 何かなんて! 俺にだって分かりませんよっ! 【反射リフレクト】」


「舐めた魔法なぞ使いおって! 小賢しぃぃい!!」


 バキッ! メキメキュ。


「ぐふぅあっ!」


 俺は神速の左ストレートを躱すことが出来ないと悟り、瞬時に【反射リフレクト】を発動した。しかし、その魔法障壁をものともせず、カルメンさんの拳は俺の腹へと深く突き刺さる。


「キャーーー!」


 俺の意識は少女の叫び声と共に何処かへと消え去っていってしまうのであった。

 



──────────────────




「コレは随分と手ひどくやられたな。かなでくん」


「んぁ……。兄さん……」


 どうやら例の精神空間的な場所なようだ。俺の前にボロいローブのような物を全身に纏った兄がいた。


「やっぱり声で分かるかー。まぁ、いい。奏、お前あの神姫から【何を】聞いた?」


「何って、俺の【ゼルエル】以外の天使が揃うとなんかマズいらしい。って事くらいだよ」


「そうか。なら何も問題は無いな。ラファエルの神姫には気をつけろ。アイツは【俺達兄弟】にとって最大の敵になる存在だ。常に警戒しあまり関わるんじゃないぞ」


 確かに俺を殺しにきてはいたが、そこまで警戒する相手なのだろうか……。


「分かった。自分なりにカルメンさんを見極めてみるよ。忠告ありがとう」


「あぁ、分かって無いようだが、アイツは危険だからな。お前を心配してるのは俺だけだ」


 兄はローブの下の顔を一瞬顰めたが、直ぐにその険しさは無くなりそう告げるのであった。




──────────────────



「チッ。死ななかったか」


 俺の意識が戻ると、側にいたらしいカルメンさんが舌打ちと共に部屋を出て行くのが視界の端で確認する事が出来た。


「うっ!」  


俺はベットに寝かされていたようで、身体を起こそうとしたものの、腹部の激痛のせいで再びベットへと逆戻りしてしまった。


「カナデさん! 無理してはダメです。まだ治癒魔法が上手く効いてませんので……」


 そこへ、ミューちゃんが手に水の入った桶を持って部屋に入ってくる。


「そ、そうなのか。ミューちゃんは治癒魔法が使えるんだね?」


「はい。ですが、私の魔力性質的に中々難しく、まだまだ綺麗には治すことが出来ません」


 そうは言っても治癒魔法なんて普通には出来ない芸当だ。確かメルは治癒魔法は使えないって言っていたはずだし、そう誰しもが使える魔法ではない。


「いや、きっとミューちゃんがいなければ俺は、あのままカルメンさんの一撃で死んでいたよ。ほんとありがとう」


「あ、は、はい……。どういたしまして」


 ミューちゃんは俺にそう言われると、顔を赤らめて俯いてしまった。


「カルメンさんは本気で俺を殺しに来たのだろうか……ミューちゃんはどう思う?」


「きっと、師匠はカナデさんの実力を知りたかったんだと思います。だからこそ出会ってから直ぐにプレッシャーをかけ続けていた。

 でも、コレは流石にやりすぎです。私の治癒魔法程度では傷が癒えるのが遅くて申し訳なくて消えてしまいたいです……」


 しかし、俺の【反射リフレクト】をものともせずに左ストレートだけであの威力。マジで俺を殺しに来ていたに違いない。確実に内臓の幾つかは潰れていたはずだ。

 今は痛みはあるものの、吐血や違和感はほぼほぼ感じていないのだ。ミューちゃんの治癒魔法は確実に効いている。

 そんなに惨めになる必要なんてないのに。


「ミューちゃんは、カルメンさんの事をほんとに信頼しているんだね。でも、ミューちゃんが居てくれたから俺は生きていられるって事は分かってほしいな。ありがとう」


 俺はベット脇に座っていたミューちゃんの頭を撫でてあげた。


「っ!」


 バシッ!


「あっ、ごめんなさい!」


 ミューちゃんは、俺の手が頭に触れると直ぐに、その手を払いのけてきた。が直ぐに謝ってきた。


「ごめんよ。いきなり頭を撫でられたらそりゃあ驚くよね。不用意に撫でてしまってごめん」


「いえ、こちらこそ、お手を叩いてしまい申しわけありません……。つい昔の記憶が蘇ってきてしまったもので……」


 そうなのか……。ミューちゃんは過去に何かあったのだろう。


「いいんだ。辛いことがあったんだよね? これからは気をつける」


 そう言って俺は目を閉じる。


「お気遣いありがとうございます。明日の朝には傷、怪我共に治っていると思います。師匠の方に改めて修行の件お願いしておきますので、お体をお休めください。では、失礼します」


「ありがとう。じゃあおやすみなさい」


 ギー、バタン。


 ドアが閉まる音が部屋に響いた後、静寂が部屋を包み込む。



 この小屋に漂う魔力の重みを感じながら俺は眠りへと誘われていくのであった。

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ナイツ・オブ・レディアント ~光り輝く浄化の騎士~ 朝霧草 @peony-coffin

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