33話 黒き焔



「カナデ。私のために、死んで」


 ガキン!


 俺は右手に持った日本刀で、眼前に迫ったレーヴァテインの振り降ろしを受け止めるる。


「それは無理なお願いだ。メル。一緒に帰るぞ」


 全身を黒のメタルアーマーで固めたメルに囁き、右脚でメルの腹部目掛けて前蹴りを放つ。


「カナデはいつもソレだよね」


 メルはその場でバク宙をし蹴りを避けた。


「使い慣れている技だからな!」


 俺は前蹴りをした勢いを殺さずそのまま右脚を地面に踏み込み、その勢いのままメルに刺突を放つ。


 ブワッ!


「おっと! それはいつもと違うね!」


 俺の刺突はメルの腹部を突き刺したかに思えた。しかし、刀が刺さっている筈の所が漆黒の炎になっており、こちらの攻撃は空振りに終わった。


「またそれか。そんなことされたらいつになっても俺は勝てないじゃないか!」


 刀を引き、その勢いで回転斬りを放つ。


「カナデならこの状態の私にもダメージを与えられる筈なんだけどねー」


 飄々と答えるメルは、俺の斬擊をレーヴァテインの腹で受け流しながらそう答える。


「今日もカナデの負けだね。これで二十九勝勝零敗。早く私を救ってね」


 背中に激痛を感じながら、俺の意識は闇に堕ちていくのであった。




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 ガバッ!


「夢……か」


 ベッドから飛び起きた俺は、背中に鈍痛を感じながら汗まみれになった顔を袖で拭きつつ呟く。


「また負けてしまった……」


 先ほどまで見ていた夢は鮮明に思い出せる位、現実味のある夢だった。そして、その夢は今回で二十九回目になる。

 普通に就寝した時は勿論、短時間の仮眠の時にでさえ見てしまうため、中々身体が休まらない。だが、それと同時に黒いメルとの戦闘の内容はよくなってきている。はずだ。


 一体誰が何のために……。


 コンコン。


「カナデさん。今日は休暇です。ちょっとお散歩しませんか?」


 思考していた俺に巫女の様なシスターの様な、白を基調とした服装に身を包んだミミがドアを半開きにした所で声を掛けてきた。


「あぁ……。分かった」


 ぼんやりとする頭をすっきりさせるために深呼吸を一つ。


「俺は何をしているんだろう……」


 その呟きは誰にも聞こえてはいないだろう。


「たまにはゆっくりする事も大事ですよ?」


 ベットから降り、身支度を調え始める俺にミミはそう告げるのであった。



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 帝国軍の巨大船艦での戦闘から一週間が経とうとしていた。

 俺とシアンは、神姫ミミ・パルミーの転移魔法によって【ルニアルマ宗教国家】へと移動、そこで生活をしている。


 そして二日前、シアンは所属するcrisisからの使者が来訪し帰還することとなった。


 残された俺はミミの提案から魔力操作の特訓をする事になり数日研鑽を積んでいる。


「よし、行くか」


 俺は寝間着から普段着に着替え、ミミとの散歩へと出かける為にドアノブへと手を掛ける。


 カチャリ。


 すると俺がドアノブを触れるより先にそれが動き部屋の扉が開かれた。


「あ、驚かせてすいません。もう準備出来た頃かなと思いまして」


 首を傾げながらにこりと微笑むミミ。その笑顔は世界を平和にする、そんな力を持っているかの様にも感じる程のモノがあった。


「あぁ、ありがとう。じゃあ出かけようか」


 そのまま俺はミミの手を取り、部屋を出た。



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「どうですか? 美味しいでしょ?」


「あぁ、美味しい。こんなにしっかりとした肉は初めて食べたよ」


「ふふ。よかったです、お気に召したようで」


 ミミと、この国の名物だと言う肉の串焼きを食べ歩きしている所だ。

 その食感は牛タンに近いけれど柔らかく、噛む毎に肉汁があふれ出てくる。そして肉に付いているソースもまた格別だ。

 照り焼きの様だけれど味噌の様な濃厚な深みもあり飽きさせない味になっている。


「でもいいのか? 宗教国家って言うのだから肉食の禁止とかは無いのかい?」


「その事はご心配ありません。この国の主神は【皆が幸せになるため協力し合い高めあいましょう】と説いていたそうです。厳しい戒律は争いを産む。だからこそ自由主義であり、その中で皆が一つになることを望んだそうです」


 随分と寛大な神様だな。前世の宗教家に聞かせてやりたいものだ。


「そうなんだな。神様に感謝だ」


 俺はそう言いながら手を合わせ神様に祈りを捧げた。



「ふー。お腹もいっぱいになりましたしどうしましょうか?」


「そうだな……。休暇なのに申しわけないのだけど、【アーミング】についてちょっと見て欲しいんだ。あと少しでコツが掴めそうなんだ」


「分かりました。では、教会の訓練所まで行きましょう。近くにあるのでそこで訓練をしましょう」


 ミミは俺のお願いを素直に聞き入れてくれた。休むのに慣れてないとこうなってしまうんだよなぁ……。


「では、転移します!」


 シュン!


 ミミがそう言うと俺達の身体が浮遊感に襲われ、そしてその場から居なくなるのであった。


________________



 そこは、ヨーロッパのコロシアムの様な施設だった。

 ただ、外観こそ石造りの様に見えるけれども、入り口には認証端末がありミミの虹彩で入り口の鍵は開けられていてきちんとしたセキュリティーが施されていた。


 そして、俺達はコロシアムの中に設けられている中央訓練所へと足を運ぶ。


「【アーミング】ですが、私達【神姫】が武装する際に魔力を意識的に表面化させ武装として顕現する能力です。神姫によって呼称が違うと思いますが、起きる現象・原理は一緒だと言うことは忘れずに。

 

 そして、カナデさんのソレゼルエルも、どうやら我々神姫と同様な存在だと言うことが教会本部の見解だそうです。その件についてはまた後にしますが、同様と言うことはカナデさんにも【アーミング】が可能と言うこと。


 今までは【反射リフレクト】等の単発的な魔法のみ利用してきたかと思います。

 ですが、【アーミング】が出来る様になれば武器や耐久性等、神姫と同等の戦闘能力を有する事が可能になると推測されます。

 まぁ、能力的な面からみるとどうしても異質なのでどのような武装が最適なのかは、カナデさん自身で発見してくださいね」


 俺はミミの正面に立ち【アーミング】についての説明を改めて聞く。


「あぁ、分かってる。まだ個性も何もないからね。【力の天使ゼルエル】その能力を遺憾なく発揮出来るよう頑張るよ。

 再確認したいんだけど、魔力は出すんじゃやくて、染み出す様にするんだよな?」


 この国に来てからの特訓と座学の知識を照らし合わせる為に尋ねる。


「はい。私は始めの頃はそうしてました。魔力の維持を無意識で行わないと戦闘に差し支えがありますから」


「分かった。よし、やってみる!」


 俺は意識を集中する為に深呼吸を始める。


 薄くじんわりと肌に魔力を流していく。


「良い感じですね。そのまま続けてください」


 ミミの声がわずかに聞こえてくるが、返事はせずに集中を続ける。

 足先から頭頂部まで、全身に魔力が行き渡って行くのを感じながら更なるイメージを膨らませていく。


『ナ二チンタラヤッテルンダ』


「?!」


 突如俺の頭に声が響いた。


「カナデさん! 今すぐ魔力を切って!」


 俺の視界に入ったのは、装備を展開しメイスを振り上げているミミの姿だった。


 ドーーーン!!


「え!?」


 俺の右をメイスが通り抜ける。その衝撃で地面が抉られてしまった。


「これなら!!」


少女は、メイスを地面から引き抜き横薙ぎに払ってくる。


 ヒュン。


 しかしその一振りは俺に当たることはなかった。


「さっきから何をしているんだい? やるならしっかり攻撃しないと」


 俺はおもむろに、右腕を上げ少女へ手を翳す。


「そーれ」


「なっ!!」


 少女が突然後ろに吹き飛ばされ、訓練所の壁にぶち当たった。


「神姫なんだからしっかりしないと」


 土煙を上げている壁へと跳ぶ。


「カナデさん! 大丈夫ですかっ!」


「俺はいたって通常通りだっ!」


 姿は見えないが、俺の心配をする少女の声目掛けて蹴りを放つ。


 ガスッ!


 右のローキックを少女は両腕で受けこちらを睨んでいる。


「さぁ、続きを楽しもう!」


 気分が高まってきた。右手に相棒が使っているのと同じ大剣バルムンクを握りしめ、少女に向け振り下ろした。



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