32話 神姫と俺と


 帝国軍のエースパイロット。ノーマン・ジュードとの死闘。お互いがボロボロになりながらの対決の最中、メルの魔法と思わせる火柱を確認した俺達。


 ノーマンがメルへと追撃しようとするのを阻止するため、俺は魔力を解放。

 ノーマン・ジュードを辛くも撃破することが出来たのであった。



─────────────────



 ピピッ


「こちらカナデ・アイハラ。シアン、ドラゴン野郎は倒した。このまま神姫お姫様の援護・回収に向かう」


「わかり、ました! こちらも早急に、終わらせて、合流します!」


 そう応えるシアンの声からは、鬼気迫るモノがあった。


「無理はするなよ。危なくなりそうになったら離脱、通信を入れてくれ」


「はい!!」


 ピッ


 強い返事の後に通信が切れる。レーダーを確認するともの凄い勢いで敵機を示す赤のマーカーの数が減っていっている。この調子なら問題なさそうだな。


 俺はノーマンの乗る【イージスⅡ】を横目に戦艦内へと歩みを進めることにした。



 ドーン!


「あっちの方か」


 艦内での戦闘の所為だろう。時折轟音と共に戦艦が揺れている。

 俺達の戦闘での被害もあるが、この艦が墜落するのも時間の問題だろう……。



__________________


 道中数機のARMEDとの戦闘があったが冷静に対処。レーダーと魔力の反応から戦艦の甲板へと続く扉まで来た。


 ドーン! ガガガガ!


 バケモノがぶつかり合っているのが扉越しでも俺の肌にヒシヒシと伝わってくる。


「行くか!」


 ガシャーン!


 俺は大剣バルムンクで目の前の扉を叩き切り、闘いの会場ステージへと足を踏み入れる。


 そこでは、二人が激しい空中戦を繰り広げていた。


「いい加減にしつこいよ! 私は誰のモノでも無いんだから! 皇帝だろうが神鬼オーガだろうが皇子だが知らないけど、そんな人のお嫁さんになんかにはならない!」


「んー! その反骨心、そしてその強さ! 堪らない。最初はただの生意気な餓鬼だと思っていたが、やはり俺の側にいて然るべき女です!」


 バキン!


 ミミがメイスを下から振り抜きガルゼンを吹き飛ばし、彼我との距離を取る。


「……どうなっているんだ」


 まさか戦闘中に「お嫁さん」なんてワードが出てくるなんて……。どう言う神経してるんだ。


 そんな謎な会話をしているガルゼンは、光の角度に寄っては青く見える、黒の燕尾服を纏い、その両手には一メートル程の手斧が一本ずつ握られおり。手斧の刃には虎のような獣の顔があしらわれており、その刃からも威圧感が放たれている。


 顔は俺の世界でもイケメンだと言われるような塩顔で髪は水色のマッシュ。随分と個性の強い見た目をしていた。


「さぁ! 大人しく降参して、俺と結婚しよう!」


 そう叫び求愛つつも、双手斧での連擊は止まらない。


「クソ、俺は無視って訳か」


 神姫しんき神鬼オーガの対決にARMEDで対抗出来るのかは分からない。だが、やる時にやらなければ、、後悔するだろう。

 俺は武器をライフルに持ち替え高速でぶつかり合う男へと照準を合わせていく。


「【加速弾スピードバレット】!」


 レクティルがガルゼンと重なる一瞬手前。神速の弾丸を放つために、俺はトリガーを引いた。



 バキン!



「やったか?!」


「ゴミが邪魔をするな」


 加速弾スピードバレットは直撃した筈だった。

 しかし、その弾丸は氷の結晶による自動氷壁オートガードによってその進行を妨げられてしまった。そして、ガルゼンがこちらを睨むと、その殺意だけで心臓が跳ね上がり心拍数が一気に上がり冷や汗が流れ落ち、心音が痛いほど耳に響く。



「なんだよ、この威圧感……! メル達はこんな化け物達とやり合ってるのか…… だが、怯んでいられるか!」


 ARMEDの操縦士とは比較にもならない殺意に俺は立ち向かおうとしている。普通なら一瞬で殺されてしまうであろう。だが、今なら。この相棒バルムンクとならやれる。何となくだが核心があった。


「いつまでも、怯えていられないんだよ!」


 ゴォォォォオ!


「ちょっと! 何でキミが!」


 俺の持てる全てを掛けて、ボロボロになってしまった相棒バルムンクと共に、ガルゼン・ファーントと言う強大な敵に立ち向かう為、左右の操縦桿と両脚のペダル。そして、俺の出し得る魔力を相棒バルムンクに込めて上空のガルゼンへ突撃をかける。


「人形如きで、この俺と相対するなんて死に急ぐだけのアホだな!」


 バルムンクの突撃の加速と全体重を乗せた振り下ろしを、右手の手斧で受けながらガルゼンが吠える。


「そうかもな。だが、お前は武器で俺の攻撃を防いだ! それが意味する事はなんなんだろうな!」


「チッ!」


 先の狙撃は自動氷壁オートガードで防いでいた。しかし、この一振りは。つまり、大剣バルムンクでの一撃が自動氷壁オートガードでは妨ぎきれない。そう思ったからだろう。

 それを指摘され、ガルゼンは舌打ちで返事をし、手斧での一振りで大剣バルムンクを弾く。


 傍目には巨人と小人の闘いに見えるだろう。しかし、そのパワーバランスは小人の方が上だ。その事実はこの世界の人間なら疑う事もしないだろう。


 だが今、確実に両者の力関係が圧倒的なものではないものになっている。だからこそ、俺はココで押し続けれなければ行けない!!


「余裕そうな口を利くな!」


 体勢を崩すバルムンクの懐にガルゼンが飛び込んでくる。


「【反射リフレクト!】」


「クソッ!」


 ガルゼンの双斧が胸部装甲に当たる寸前に反射リフレクトを発動。その巨大なパワーをガルゼンへと返す!


 ドーーーーン!


 目にも止まらぬ早さで、ガルゼンは甲板へと叩きつけらていった。


「ハァ、ハァ。なんて馬鹿力なんだよ……。魔力かなり持って行かれたぞ……」


 神鬼オーガの胆力を甘く見ていた訳ではなかったが、もう魔力が底を尽きそうな感覚になり手が震えている。

 このままなんとか終わってくれれば……。


 パキパキ!


 目の前に映る景色が白くなっていく。


「マジか……」


 これくらいではやはり倒せる訳がなかったか。



「名前を聞かせて貰おうか」


 メインモニターが凍っていく中、ガルゼンがユラリと近づきながらそう尋ねてくる。


「俺か? カナデ・アイハラ。お前を倒す男だ!」


「お前が…… ならココでお前には死んでもらう!」


 ガルゼンの姿が突然消える。


 ガキン!


 ほぼ直感だった。俺は無意識に大剣バルムンクを持ち上げガルゼンの刺突を防いでいた。


「見えては居なかったはずなのに…… 小賢しい人形がぁぁぁ!!」


 ガルゼンが雄叫びを上げ飛び上がる。

 俺は、好期とみて武器をライフルに持ち替え上空へと加速していくガルゼンへと狙いを付ける。


「【加速弾スピードバレット】!」


 残り少ない魔力を込め神速の弾丸を空へと放つ。


 パキン! パキン!


「ダメか…… 仕方ない!」


 自動氷壁オートガードに阻まれた弾丸達を追いかける様にブーストを点火し、垂直上昇する為に屈み込む。


 キューーーーン!

 

 ATドライブが今までに無い程に回転数を上げ甲高い音が響き渡る。


「行くぞ!!」


 限界まで圧縮された空気が辺りに暴風を起こし、遙か上空にいるガルゼンを墜とすための力となる。


 すると、急にガルゼンは上昇を止め精神統一をするように目を閉じた。


「これは、ヤバいやつがくるぞ……! その前に止めなければ!」


『氷棺に鎖されし魂よ 我に徒成す獣を喰らい 弱者を滅せよ  【アブソリュート・フェンリル】』


 ガルゼンの魔力が最大に高まり狼の様な氷塊が放たれた。


「させません! 【ライト・オブ・ジャスティス】」


ミミ・パルミーの声が響き渡る。

 その直後、俺の横を直径十メートル強程の

黄色い極太レーザーが通り過ぎて行く。



 ズドォォォォオーーーン!


 

 ガルゼンから放たれた狼の様な巨大な氷塊は、その光の渦に呑み込まれ爆発してしまった。


「くそおおおおお!! この俺が、この俺がぁぉぁぁ!」


 光の渦にガルゼンも呑み込まれた様で、その断末魔が辺りに響き渡っていく。


「やった……のか」


 俺はそう呟き操縦桿を握る手の力を抜い

た。

 神鬼オーガとは言え、神姫のあの一撃を喰らったのだ。まともに生きているとは思えない。


「アイハラさん! 撤退します! メルさんの事は今は諦めてください」


 ミミが唐突にそういうと、敵戦艦から膨大な魔力が膨れ上がっていくのを感じた。


「待て! まだメルを助けられて───」


「【スターロード】!」


 俺の叫びは不思議な感覚と魔力の奔流に吞みこまれかき消されてしまうのであった……。


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