15話 大いなる力




 緊急招集の通信が切れるとみんなの動きは迅速だった。


「メル、ちょっと良いか? 」


 ウリエルの装備を展開し、今にも飛び立とうとしているメルに声を掛ける。


「うぉっと! 何?? 急いでるから手短にね! 」


 前につんのめりながらメルが答える。


「『魔法』ってどうやって使っているんだ? 」


「魔法?! んー。師匠から教わったのは、お腹のここら辺に全身の魔力を集めて、その流れを一気に手とか魔法陣とかに動かす感じかな? 私は神姫になって感覚で使ってきたから、頭で考えて魔法を使おうとすると上手くいかなくて」


 メルは、はにかみながらヘソの辺りをさすって答えてくれた。


「魔法の使い方なんか聞いて急にどうしたの? 」


「いや、なんでもない。ふと気になってさ。教えてくれてありがとう」


 疑問に思われるのも当然だが、自分の中にも魔力があることを知られるのも今は良くないも思い、メルの頭を撫でて誤魔化す。


「そう? じゃあ先に戦地に行ってるね! 早く合流してね!! 」


「おう! 」


 飛び立つメルを目で見送り、言われた通り丹田に意識を集めてみる。


「……。魔力らしきものは感じられないんだよなぁ……」


 俺がいた地球でも『気』を操りマッサージやら気功術やらをしている人々がいたが、彼らは気の流れを感じていたのだろうか……。


『チカラガモドッテキテイルナ ヤットヒトノタマシイヲクラッタカ』


「何のことだ」


『トボケテモムダダ ワレニモオマエカラチカラガナガレテクルノガワカルンダヨ』


 俺の記憶が抜け落ちている間に何かがあったようだ。

 だが、俺が人殺しをしたのか……。


「もし、本当に殺していたとしてもそれは俺の意思では無い!! 俺は人は殺さない!! 」


『オマエノイシダロウガソウデナカロウガワレニハカンケイノナイハナシダ』


「じゃあ、何のために現れた」


『オマエガマリョクヲネロウトシテイルノヲカンジタ チカラヲカシテヤロウ』


 謎の声がそう言うと、身体が一気に熱くなり始めた。


「くそっ! なんだよコレは!! 」


『ソレガオマエノマリョクダ セイゼイノマレナイヨウガンバルノダナ』


 俺が叫ぶのに気にも掛けず、謎の声は聞こえなくなった。


「こっちに来てから振り回されてばかりだな……」


 痛む頭を押さえながら、正面をみる。

すると、今まで見えなかったもやが見えるようになっていた。


「なんだこれは? まさか、この靄が『魔力』なのか? 」


 ぼんやりと視界に色が付いているように観じられ、空気にも重みが産まれた気がする……。


 ふと、自分の右手を見てみるとその輪郭に沿って白いオーラの様なモノが纏わり付いていた。


「これが俺の『魔力』なのか。メル達と同じ力……」


 開いていた掌を握り込み、力を込める。


「はぁぁぁぁぁぁぁあ!! 」


 丹田たんでん魔力オーラを集めるイメージで叫ぶ。


「うぉぉぉぉぉお! 」


 すると、身体の周りに纏わり付いていた魔力が見えなくなる。それに合わせて身体の内側から力が込み上がってくるのを感じた。



『魔力を関知しました。セーフモード解除。ウォーリアー2ndシークエンス起動』


『操作アシスト起動。頭部・腕部にインターフェースを装着します』


『インターフェース装着完了。同期開始。続いて機体状態チェック開始。…………同機及びチェック完了。ウォーリアー2ndモード【ゼルエル】起動します』


 よし、無事魔力を押さえ込む事が出来たみたいだ。なんとなくだが魔力のコントロールのコツが分かったかもしれない。


 ピピピ。ピピピ。


 魔力コントロールに成功したことに喜んでいると通信が入る。


『カナデさん。ウォーリアーの真の力を解放したようですね。しかし、それはまだみんなにはバレてはいけません。なので、魔力は背面ブースターに収束させるようにしてください。今のままでは機体表面に魔力が集まってしまい目だってしまいます』


 アイン先生からの通信だった。しかも『閉鎖通信クローズドチャンネル』である。ウォーリアーの機能変化を知っているようだが信じていいものか……


「先生。みんなにバレたくないのは俺も同じ気持ちですが、そこまでして隠す理由は何かあるのですか? 」


『はい。シンプルに仲間内での情報の抑制。そして、君の二つ名『ナイツ・オブ・レディアント』を再び取り戻すため。です。貴方の攻撃には白いオーラが出ていることから敵軍からそう呼ばれていて、我が軍内でもそう呼ばれるようになったのです』


 随分大層な二つ名で呼ばれていたんだな……。光り輝く騎士様か……。


「分かりました。助言ありがとうございます。帰還したら先生には色々と話しをしたいです」


『……分かりました。お待ちしてます。その前に死なないことを祈ってのおります』


 プツン


 会話が終わると、アイン先生は通信を切った。あまり長く通信をしていると傍受やら気になることがあったのだろう。

 俺自身も聞かれたくは無かった事だし、早く戦場へと向かいたかったからちょうどよかった。


『システムオールグリーン。ウォーリアーセカンド、発進できます』


「良し! ウォーリアー! カナデ・アイハラ出る! 」


 操縦桿を前に倒し、加速し空に跳ぶするイメージをする。

 それに応える様にウォーリアーは、ブースト全開で曇り空へと飛び立った。



____________________



「カナデとミラ、カルカルは、右舷から来る敵に対応! 俺とパックは正面でメルの援護をする! 他のメンバーは左舷の王国軍をカバーしてくれ! 」


 大正門前は混乱を極めていた。敵神姫がステルス迷彩のような魔法を使い、突如大正門前に出現。王国軍の防衛機『ガードナー』の軍隊が対応していたものの、攻撃力にかけていた為打開出来ていなかった様だ。


「了解! メル! さっきは済まなかった!! 今回の作戦は俺が前衛になるからカバーを頼む!! 」


「かなり怖かったんだからね!! しっかり私を護りなさいよ!! 」


「分かった! 全力で行く! 」


 メルがいつも通り反応してくれてよかった……。さすがは軍人と言うか、切り替えが早くて助かった……。


「俺もいるからな!! 忘れるなよ! 」


 カルカルの事は忘れていなかったが、あえてスルーしていた。


「分かってるよ。援護よろしくな! ウォーリアー行くぞ!! 」


 ブーストを点火し、手始めに前線にいたミラージュの前に上空から飛び込む。


「うわっ! なんだ急に! 」


 驚く帝国の兵を無視し、振動刀を下から振り上げる。その一撃は簡単にミラージュを斜めに切り落とす。


「さすが、カナデちゃん! 太刀筋が戻って来たわね! 」


 俺の先ほどの一撃には、魔力が込められていた。その証拠にミラが言ったように、斬擊に白い痕跡が出ていたようだ。セカンドモードの繊細な操作性のおかげで、駆動部を破壊しない程度の攻撃をする事が出来る。

 今のところ魔力の暴走みたいな感覚はしない。このまま制圧する!!


「ありがとうございます! 引き続き援護お願いします! 」




「お前は暴れ過ぎッス」


 10機程帝国のARMEDを機能停止したころだろうか。突如上空から声が響き渡る。


「やはりお前は神姫だったのか! 」


 上空からの槍での突きを振動刀の腹で受ける。


「くそっ。お前何か隠してるな?! 」


「なんの事だ?! 」


 2槍での連擊を振動刀で捌きながら言葉を返す。


「普通のARMED如きで『神姫』の一撃を普通に耐えられるワケが無いっス! 」


「そう思うなら勝手に思っていな! 俺は俺だ!! 」


加速弾スピードバレット! 』


 中槍での突きを右に跳んで避け、がら空きになった脇腹へと銃弾を撃ち込む。

 

「それッスよ! その銃弾もなんかおかしいッス!! 」


 ドーン!

 

 3発撃ち込んだ銃弾の内、2発は弾かれたが、最後の1発が命中し爆発を起こす。


「痛い、痛い、痛い!!!! 」


 神姫が悲痛な叫び声をあげる。


「まさか、神姫にダメージが通ったのか……?! 」


 この世界の常識では、『神姫』には『神姫』でしかダメージを与えられない。

 と言うのが常識になっていた。

 しかし、今の『ウォーリアーセカンド』の『魔法弾マジックバレット』は、神姫の装甲を焼き焦がしているのであった。


「これなら……行ける!! 」


 身体を抱き込んでいる神姫へと、追撃をするため吶喊する。

 

「喰らえぇぇええええええ!! 」


 振動刀の射程内に入ったのを確認し、振動刀を上段から打ち下ろす。


『舐めるな。人間風情が』


 先ほどまでと違い、重みのある神姫の声が俺に重圧プレッシャーを与えてくるのであった。

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