14話 暴走




 ボルカノの魔法を直撃食らい辺りが真っ白になった数分後。

 視界が戻った私の前に2人の姿が現れた。


「今の光のせいか…… 運が良かったな」


「そのようじゃな。感謝せねばな。だが、アレはアレで厄介な事が起きているようじゃな……」


 ……!! よかった……。師匠無事だった!

 でも、さっきの爆発は一体……。変な魔力の残滓が流れて来たから、師匠達の戦いで出来たモノじゃないみたい……。


「メルよ。ココはワタシ1人でなんとかする。だから、先ほどの爆発の原因を調べてきてくれぬか。胸騒ぎがさっきから止まらぬのじゃ」


 あの師匠が胸騒ぎが止まらない程の事が起きているの? 確かにさっきの爆発の威力は経験したことの無いものだったけど……。


「わ、分かりました! 何があるか確認してきます!! 師匠もご無事で!」


 疑問はあるけど悩んでいる暇もないから、急いで装備を展開して、爆発があった方角へと向かうことにした。



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 そこは何もない荒れ地になっていた。




「何コレ……。 確かココはまだ木とかがあったはずなのに……」


 私の目の前に広がるのは、直径100メートル前後深さもそれくらいはありそうな大穴だった。

 魔力の残滓を辿って、濃度の濃いところに着いたらこの有様……一体誰が何を使えばこんな穴が出来るんだろ……。


「もう人は居ないみたいだね……。 向かった先は……メインの戦場になってる大平原……!!」


 こんな化け物がみんなの元に向かっている?!

 似た魔力を知ってはいたけど、信じたくない気持ちと焦りが全速前進で大平原へと飛び立たせた。


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「あの機体は……」


 大平原に到着した私の目に映ったのは『バックラー』や『リザードマン』などのARMEDが大破した光景だった。そして、その残骸の上空で見たことのある『ARMEDアームド』が『神姫しんき』と闘っている。しかし、その機体は純白に色を変え光輝いていた。


「中々やるなぁ!! ガキの癖に歯ごたえ抜群じゃないか!! 」


 公開無線オープンチャンネルから、聞き覚えのある声が流れてくる。しかし、その声は私の知っている優しい声じゃなかった……。


「さっき会った時よりも強くなってるッスね!! このボクが押されるとは……!! 」


 神姫の子は右手に1メートル位の中槍、左手には70センチ位の短槍を持っている。肩で息をしているその子の眼はまだ死んでいない。


「そうか……なら、このまま敗北も味わうといい!! 」


 そう言うと、振動刀を構えて神姫に突撃をする白いウォーリアー。神姫まで一気に距離を詰めると、左から右へ横薙ぎをするが短槍で刀での一撃を受け、滑るように受け流しながら白いウォーリアーの腹部へと潜り込み中槍を打ち込んだ。


しかし。


「いいねぇ。でもそれは届かないんだなぁ」


反射カウンター


「なっ!! 」


 男が呪文の様な一言を呟くと、中槍が装甲に触れた瞬間反対方向に吹き飛ばされた。


「まだまだだなぁ! こんなもんで俺に勝とうとか笑えるな! 」


 白いウォーリアーは、吹き飛ばされていった神姫に追撃を入れに突撃していく。


「これはどう捌くのかな!? 」


 言いながら連続の突きを繰り出していく白いウォーリアー。神姫はその連撃を紙一重で避けていく。


「おらおらぁ! まだまだぁ! 」


「いい加減にしろぉ!! 」


 振動刀の刀身を上に避け、それを踏み飛ばしながら神姫が叫ぶと、その身体から紫色の電流が放出された。


魔法却下マジックキャンセル


「危ねぇ……良い技持ってんなぁ! 」


「ちっ。これならどうッすか!! 」


 神姫が右手に持っている短槍を振りかぶって投げた! でも、それは白いウォーリアーには当たらなかった。


「攻撃はちゃんと相手を見てするんだよ! 」


『我が前で荒ぶる獣を彼の地まで移したまえ! 』


 神姫が呪文を唱えると、外れたはずの短槍が白いウォーリアーの足下で回転を始めて、魔方陣が展開された! その大きさはARMEDを取り囲む程の大きさになる。


転送テレポート! 』


加速弾スピードバレット! 』


 魔方陣が輝くと同時に、ARMEDが右手に持ったライフルで魔方陣へと弾丸を撃ち込んだ。


「正気ッスか!! 魔方陣が起動中にそれを壊したらどうなるか分かってないんッスか?! 」


「ふん! 俺を心配するのか。面白」


 男の声が途中で消えたかと思うと、そこに居たはずの白いウォーリアーも消えていた……。


「……よし、脅威は去ったッス。 残っている者はいるか!! このまま王国城下町へ攻勢を掛ける!! 先遣隊が既に動いている! そこへ援軍しこのままヴァーミル王国を捕るぞ!!」


「「おーーー!!」」


「コレはヤバいよ……!! 私も本隊へ合流しなきゃ!」



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 全てがスローモーションだった。



 1機目の『リザードマン』を墜とした所までは覚えている。

 それから先は自分じゃ無い感覚の中で動いていた。

 1機、また1機とARMEDを破壊していくとその感覚は更に加速していった。

 でも、その中に快感と覚醒と滾る何かが俺の中を駆け巡っていく。



「……。邪魔だ。どけ」


 目の前に居る『クラッシャー』へと告げる。


「カ、カナデちゃん? 急に現れたと思ったら武器なんて向けて、どうしたの? それに、その真っ白な『ウォーリアー』は一体……」


 女の声が困惑している。

 この声は聞いたことがある気がする。それにしても『真っ白なウォーリアー』? ウォーリアーは薄灰色であって白ではない。

 不思議に思いながら両腕を見ると、そこには見たことの無い純白な装甲をした両腕があった……。


「なんだ……コレは……。俺は一体……。くっ! 」


 突如頭痛に襲われる。視界がチカチカと明滅し眩暈がし頭を押さえる。


「カナデちゃん、大丈夫? 苦しそうだけど? 」


 女の声が遠くに聞こえる。俺は一体どうなってしまったんだ……。


「……黙れ。……ダマレ!! 」


 徐々に意識と感覚が元に戻ってきている気がする。あと少しだ。


「ちょ! ダメだよ! ウチらは仲間だよ!! 」


 バキッ! バキッ!


 何かが割れる音が聞こえる。


「クソ! カナデてめぇ何やってるんだ!! 」



 ドンッ!



 不意に機体に衝撃が走った。



「カナデさん! それ以上はボクも貴方のことを許せなくなる! その手を早く離してください!! 」


 少年の声が俺に語りかけてくる。だが、手を離すってなの事なんだろう。


 頭痛のする頭を上げ、モニターを確認すると『クラッシャー』の顔面を『白いウォーリアー』の左手が握り潰している所だった。


「うぁぁぁぁぁあ!! 」



 目の前で起きた事が俺を現実に無理矢理引き戻すのであった。



____________________



「カナデ!! カナデ! 起きて!! 」


「痛っ! 痛いよ!! 」


 誰かにほっぺたをビシビシと叩かれて無理矢理起こされた。


「メル!! しつこいぞ! 」


 何度も叩いてくる犯人の名前を呼びながら両手を優しく捕まえる。


「よかった……。全然起きないから死んじゃったのかと思ったよ……」


「大丈夫だ。心配かけてごめんな……」


 メルの頭を撫でながら今の状況を整理する。


 確か『ウォーリアー』が別形態になって3機の『リザードマン』を撃破したはずだ。その後は……。


「うっ! 」


「カナデ! 大丈夫?! 無理しないで……」


 ズキッと頭痛がして思考を邪魔される。それをメルに心配されるが、それよりも今の状況の方が大事だ。


「大丈夫だ。それより今どうなっている? なんで『クラッシャー』が破壊されている!? ミラは無事なのか?!」


 目の前に頭部が破壊された『クラッシャー』が横倒しになっていた。


「なんでって……。カナデ覚えていないの? 」


「まさか……。俺がやったのか……? 」


 さっきから嫌な胸騒ぎがしていたのはコレが原因だったのか……


「そうか…… すまない…… ミラは?! ミラは無事なのか……?! 」


「ミラは無事だよ。今別の機体を取りに格納庫へ行ってる所。でも一体どうしちゃったのさ? ミラは仲間なのに……! 」


 涙声になりながらも、しっかりとした口調で話してくる。


「分からないんだ…… 記憶が曖昧で。『リザードマン』を3機倒して、それから……そこからの記憶が……」



『緊急招集! 緊急招集! 敵神姫の到来を確認! 城下町前大正門に、敵新型ARMED部隊約40機程と見られる機影を確認! 速やかに対応を! 第2部隊は裏からの侵入を防ぐため半分を北側の防衛に当たってください! 』


 どうやら運命は俺を休ませてはくれないようだ。

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