決着


 ≡≡≡≡≡≡≡


「ぶっ潰せぇ!」


 ニコルの率いる3番艦隊が先頭となり、メッザニアに展開したルギアス艦隊。

 デーヴィット艦隊の意表を付く形で出てきたと同時に、その砲門を一斉に光らせた。


 一番槍を飾ったのは、3番艦隊旗艦であるフレバトス級重戦闘艦[ルクスレギナ]である。


 フレバトス級重戦闘艦は、中・遠距離戦を得意とする、攻撃力に優れた戦艦である。

 防御性能や機動性能は接舷戦法と近距離戦を得意とする攻航艦には及ばないが、それを補って余りあるほどの砲門と兵装を備える強力な攻撃性能を持つ艦級である。

 53型4連装オーラス・マグネタルキャノンを主砲とするルクスレギナは、対艦兵器である主砲副砲合わせて700門を超える砲門を有し、火力においてはデステリカ級を上回るほどである。


 デーヴィットの艦隊にとっては奇襲の形で出現した3番艦隊は、所在が判明されることを想定していなかったために迎撃体制ができていなかったバラフミアの艦隊に対し、初撃を叩き込むことに成功する。

 前衛に展開していたバラフミアの駆逐艦や軽巡艦が多数被弾。特に、弩級戦艦の等級に分類されているルクスレギナの主砲を受けた駆逐艦などは、その装甲を大きく抉られ一撃の元に撃沈に追い込まれた。


 しかし、デーヴィットの対応も早い。

 3番艦隊が一番槍を務め出現してきたことに対し、生き残りの敵艦隊が各々適当な空間跳躍を敢行したうちの1つの艦隊が偶然出てきたことだと決めつけ、数で勝る艦隊を持って潰すよう命令を出した。


 それに従い、バラフミアの艦隊が数の優位を持って押しつぶすように距離を詰めてくる。

 3番艦隊は25隻。対するデーヴィットの艦隊は80隻。

 奇襲の攻撃で3隻を撃沈、8隻を戦闘不能に追い込んだが、まだ数においては圧倒的にデーヴィットの艦隊が優勢である。


 だが、広い宇宙空間で押しつぶすように距離を詰める艦隊の展開は悪手である。

 それに、近距離戦闘はむしろクラルデンの攻航艦が得意とする距離。

 数で上回ろうとも、個艦性能で勝るクラルデンを相手に、その指揮は奇襲から立て直すのには有効であっても、戦術的には完全な悪手であった。


「……バカ」

「押し返せ!」


 ニコルはその稚拙な指揮を嘲笑い、3番艦隊の次席指揮官はすぐにその対応を指示する。


 それに従い、3番艦隊の各艦艇は加速、押し潰さんと迫る敵艦隊の中に自ら飛び込んでいく。

 周りは敵だらけ。

 その中で、装甲に、速力に、攻撃に、連射性能に勝るクラルデンの艦艇が砲を光らせる。

 バラフミアの艦艇も応戦するが、密集する艦隊は回避行動もできず、その上味方艦艇に対する誤射が続発した。


「デーヴィット司令! 味方の被害が拡大しています!」


「まともな判断もできねえのかよ、無能が! 近距離戦で光学兵器を使うな! 誘導ミサイルで応戦しろよ!」


 明確な指示をしたわけではないが、想定と違う展開を配下の艦隊が起こしたことにデーヴィットは苛立ちを露わにする。

 ただちに指示は伝達され、光学兵器に比べ速度で大きく劣る代わりに高い命中率のある誘導兵器に切り替えた戦闘を展開する。

 だが、そこでデーヴィットに取っても想定外の事態が起きた。


 3番艦隊を潰そうと、密集体型をとったために、誤射などで被害が拡大するバラフミア艦隊。

 それと交戦する3番艦隊は数で劣りながらも、軍帥の仇を討つと奮戦し、バラフミア艦隊を押し返しつつあった。

 それにより、戦場は偏る。


 そこに、バラフミア艦隊を包囲するように次々にルギアス艦隊が集結してきた。


 オラフ29に展開していた1番及び11艦隊、5番艦隊、8番艦隊、9番艦隊、10番艦隊の合計5個艦隊、艦艇119隻が空間跳躍により集結した。


 さらに、ここでルギアス艦隊のもう1つの戦力であるオラフ29に展開していた艦隊も集結する。

 ガルフ率いる2番艦隊を筆頭に、4番艦隊、6番艦隊、12番艦隊、13番艦隊、15番艦隊、16番艦隊、17番艦隊、合計艦艇数231隻の増援が加わったのである。


『奮起せよ!』


 ガルフの号令に、音のないはずの宇宙にルギアス艦隊の答える大声が轟く。


『待たせたな、ニコル』


「エギル……」


 参陣を伝える通信の中には、タルギアの前任のルギアス艦隊の旗艦であるルビタートからの物もあった。

 かつてはその艦長を務め、ルビタートを旗艦とした10番艦隊を率いるエギルの姿もある。

 兄弟子の1人でもあるエギルに、ニコルも頷きを返す。


「行こう」


「「「了解ですクァンテーレ!」」」


 ルギアス艦隊の増援により、戦況は一気に逆転した。




 ≡≡≡≡≡≡≡


「敵艦隊多数!」

「総艦艇数……300隻以上!」


「な、なんじゃこりゃあ!?」


 自らの決めつけが完全に崩された事態に、デーヴィットは錯乱した。

 デーヴィットはアルフォンスと違い、オラフ26に集結していた艦隊も確認していた。100隻を超える大艦隊をクラルデンが派遣していたことも把握していた。


 だが、リフレクター・バスターによる被害を、レギオが旗艦であるタルギアを犠牲にしてまで抑え込んだことを分かっていなかった。

 オラフ26にも大艦隊が集結していたことを把握していなかった。


 ソルティアムウォールを知らなかったということもあるだろうが、知っていたとしても旗艦がそんな行動をとるはずがないと、敵に対する勝手な評価に基づいて敵艦隊に対する被害を過大に想定していた。


 そういった認識を、目の前に出現したデーヴィット艦隊の実に4倍以上のルギアス艦隊が一気に覆したのである。


「し、指令……どうすれば……!?」


 混乱に陥るバラフミア艦隊。

 密集形態の陣形もさらなる悪要因となった。


 もはや、デーヴィット艦隊の壊滅は確実となった。




 ≡≡≡≡≡≡≡


『蹴散らせ!』


 ガルフの指揮の元、反撃に出たルギアス艦隊。

 ガルフが率いる2番艦隊は、攻航母艦を主力とする機動艦隊である。

 艦載機を多数飛ばし、次元転移機構を用いて一気にメッザニアの地表基地を攻撃する。

 それによるミサイル攻撃の一部が、巨大な砲塔であるクラフト・バスターの機関が攻撃を受け暴走。

 大爆発を起こし、地表のバラフミア軍の部隊もろとも、デーヴィットの持つ最大の攻撃手段を消しとばした。


「敵砲台沈黙!」


「今!」


 ニコルの号令に、3番艦隊は一番槍の務めを果たすべく、一気に敵の旗艦に向けて突撃していく。


『支援するぜ!』

『雑魚は任せておけ!』

『軍帥の仇を!』


 そして、3番艦隊の背中を押すように、デーヴィットの前衛艦隊に対して5番艦隊、6番艦隊、8番艦隊が突撃して引き離した。

 それに続くように、他の艦隊もそれぞれの敵艦隊と激突し、3番艦隊の道を作る。


『貴様も行け、エギル! 我が甥の仇、その艦で果たすのだ!』


『……了解ですクァンテーレ! 俺も参加させてもらうぞ、ニコル!』


 ガルフの命令に、ルギアス艦隊の中からもう1つ、エギルの率いる10番艦隊が前進する。

 ニコルやエギルなどの、レギオと同世代で、彼の艦隊に従ってきた将達にとっては、タルギアよりもルビタートの方がルギアス艦隊の旗艦としての思い入れが強い。


 レギオの仇を討つ。

 その思いとともに、敵艦隊を振り切って2つの艦隊が敵の中核に突撃していく。


 狙いはデーヴィットの旗艦である、ヴァゼラード級航宙戦闘艦[シャグランドー]ただ1つ。


『狙うは敵旗艦ただ1つ!』

「逃すな!」


 僚艦を前に出し、単艦で艦首を回して逃げようとする姿に、ルクスレギナとルビタートは加速した。


『我らの旗艦に敵を近づけるな!』

『やらせるかよ!』


 そして、突出する艦隊旗艦を狙うバラフミアの艦艇に、後続の艦艇が突撃し、艦体をそのものを盾にして、砲撃を防ぎ道をこじ開ける。


 もう、ルクスレギナとルビタートの障害はなくなった。


『報いを受けろ!』


 若干、ルクスレギナを追い越したルビタートが、その重装甲そのものを武器として、体当たりをする。

 艦体後部に激突し、シャグランドーに大きな衝撃が走る。


 逃げの選択をしていたシャグランドーは、圧倒的に巨大な艦艇の体当たりという戦法がなす衝撃により艦体の制御を失い、一気に速度を失った。

 同時に、衝核砲が光り、放たれた砲撃がシャグランドーの上面装甲と砲塔を後部から破壊し尽くす。

 攻撃手段を失い、シャグランドーは無防備に陥った。


「くそがぁ!」


 ルギアス艦隊に圧倒され、デーヴィット艦隊は壊滅状態である。

 旗艦であるシャグランドーが大きな被害を受けたことに、デーヴィットは苛立ちをぶちまけて叫び声をあげた。

 しかし、状況は打開できない。


 ならばと、デーヴィットは迷わず逃げることを決意する。


「俺は、こんなところで死ぬような男じゃねえんだよ! くそがぁ! 最後くらい役に立て雑魚ども!」


 徹底抗戦を命令するコードを艦隊に打ち出し、デーヴィットはシャグランドーに命令を出す。


「フォトンラーフだ!」


「な!?」


 旗艦が撤退命令も出さずに、それどころか徹底抗戦命令を発した部下の艦隊を見捨てて逃げる。

 将としての責任を完全に放棄する命令に、シャグランドーの乗組員たちも驚愕から思わず言葉を詰まらせる。


「お待ちください! 旗艦が撤退命令を出さずに–––––ぐっ!?」


「黙れぇ!」


 しかし、デーヴィットは拳銃を取り出して反論しようとした部下を撃ち殺した。

 目を血走らせて、ヒステリックな表情で再度怒鳴りつける。


「いいから、フォトンラーフしろッ!」


「ひっ……!?」


 その鬼気迫る形相に圧され、シャグランドーの乗組員たちも味方を見捨てて動き出す。

 だが、まるで天がその所業を見ているかのように、デーヴィットにその不運というか、ある意味報いが訪れた。


「機関が損傷して、フォトンラーフができません!」


「はあ!?」


 ルビタートが放った衝核砲が、旗艦にも直撃しており、出力不足と故障に陥ったシャグランドーはフォトンラーフが実行できなくなっていたのである。

 これにより逃げる手段を失ったシャグランドー。

 そこに、上部から急速接近する艦艇があった。


「敵フレバトス級、急速接近! 本艦直上!」


「!?」


 八つ当たりに、フォトンラーフを操作している部下に銃を向けていたデーヴィットが、引き金にかけていた指を外して反射的に見上げる。

 そこには、ニコルの指揮する3番艦隊旗艦であるフレバトス級重戦闘艦[ルクスレギナ]が接近していた。


「くそがぁ! は、反撃しろ!」


「主砲は全て破壊されています!」


「何なんだよ!?」


 旗艦もやられ、主砲もやられたシャグランドーに抵抗する手段はない。

 目の前であれだけ艦艇を撃沈させてきたルクスレギナの接近に、デーヴィットは顔を真っ青にする。


「こ、降伏だ! 白旗を上げろ!」


「な!?」


 クラルデンに降伏するとは、捕虜待遇、つまり奴隷を受け入れるということである。

 死んだほうがマシな目に遭うと言われているクラルデンの捕虜になりたい者などいない。

 しかし、部下たちの意見を一切無視して、デーヴィットは怒鳴る。


「うるせえ!」


「ま、間に合わない!」


 だが、ルクスレギナは止まらない。

 警報を鳴らしまくっている正面モニターには、接近する巨大艦艇の姿が見える。


「や、やめ、待って欲しい!」


 最期にデーヴィットが叫んだのは、盛大な手のひら返し。

 散々見下していたクラルデンに命乞いを叫ぶ。


 だが、そんなものルクスレギナに聞こえるはずもなく、聞こえていたとしてもニコルが止まるはずがない。

 仇を目の前にしたニコルは、もはやその仇の無防備な姿しか見えていなかった。


「沈め!」


 自ら砲手を務め、その砲火を放つ。

 もちろん1発で気が済むはずがない。

 それはシャグランドーの艦橋から生き残っていた機関まで、上部装甲を次々に砲撃が貫いていく。


「沈めぇ!」


 オーバーキル。

 これでもかというほどに装甲を撃ち抜かれ、炎を上げたシャグランドー。

 そのボロボロとなったヴァゼラード級航宙戦闘艦に、ルクスレギナはトドメと言わんばかりに突撃。

 その艦体を真っ二つにして、宇宙の藻屑にした。







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