君と、満月の下で。

笹山渚

第1話 月乃の憂鬱。

1度想像してみよう。

おばあちゃんに大真面目な顔で部屋に呼び出されて、ビクビクしながら行ったら『お前はかぐや姫の子孫だ』と言われたとする。

...突飛な設定すぎて信じられるわけないって?

同感だ。激しく同感だ。私も目、真ん丸にして何っ回も日付確認したもんね。エイプリルフールじゃないか何回も見たもんね。

でも...どうやらこれは冗談じゃないらしくて。

私がその話を知るのは...14歳の誕生日なんだけどさ。


これはごく普通の私...輝夜月乃の不思議な青春時代のお話でございます。



ピピピピピ...。


「んぁ...?」


耳障りな電子音に、私は顔を顰めながら起き上がった。

目覚ましか...ん?なぁんだ、まだ5時じゃん。

このポンコツ、またバグりやがったか。

やかましく喚き続けるポンコツな相棒にパシッと一発鉄拳を食らわしてから、私は大きな欠伸を漏らした。

...レッツ二度寝。おやすみ。


「月乃ぉぉぉぉ!!!!!起きんかいいいい!!!!!」


......おばあちゃんの声だ。

身の危険を感じた私はベットから抜け出し、思わず立ちすくむ。

ガラガラガラ...と引き戸が勢いよく開いて、私の無二の家族...祖母の美月が立っていた。


「5時に目覚まし時計を設定しておったはずだろ!全く、お前というやつは...」

「...今日、ナンカアリマシタッケ」

「何を言っているのじゃ。今日は墓参りの日だろ」

「墓参...あぁ!ごめんなさい、すぐ支度します」

「そうしろ。早急にな...玲紀も待っているぞ」


うぅ...そうだったわ。目覚まし思いっきり叩いてごめん。...ポンコツなのは私の方でした。

私は大慌てで支度を始めた。


はい、イマイチ人物構成がよく分からないはずなので紹介しておこう。

私は輝夜月乃。ごくごくごく平凡な女子中学生だ。

ただ...両親が幼いときに亡くなってて、私はずっとおばあちゃんの家で暮らしているのだ。

こんな話をすると皆揃って顔を曇らせるんだけど、私自身は両親の顔も朧気だから実感がない。

そしてさっきチラッと出てきた『玲紀』ね。

服部玲紀。我が家の同居人であり、同い年の幼馴染。

コイツの生い立ちはまぁまぁ謎だ。本人曰く山で暮らしていて私を守るためにウチに来たんだとか...はぐらかしてるってことはなんかワケありなんだろうと思って触れてないけどね。

家族みたいな存在。

今日は両親の命日...毎年学校に行く前の早朝にお墓参りに行くのが恒例なのだ。

あ、言い忘れてたけど...祖母の美月は神楽神社の神主。それ故にものすごーく厳しい。つまり私は神社の離れに住んでることになるんだけど...その実感もないんだよねこれが。


「月乃!おっせーぞ」

「ごめんって!うぅ...」


もうすっかり支度を終えていた玲紀に怒鳴られながら、私は荷物を抱えた。

お線香と、数珠と...お花は用意したし、あとは何かいるっけ?

新品のシャツワンピースの裾を直し、両側からおばあちゃんと玲紀に急き立てられながら、私は自宅を後にした。



お母さん、お父さん。私は...月乃は毎日元気ですよ!

来週には誕生日を迎えて14歳になる予定です。

ごくごく平凡なんですけど、まぁ楽しくやってますんで心配しないでね?



「ふぁ...」

「眠そうだね、月乃」


お墓参りも無事終わって...、3限目の授業後。

友人の梨聖が苦笑いを浮かべながら声をかけてくれた。


「ちょっと早朝から用事がね...」

「大変だねぇ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君と、満月の下で。 笹山渚 @39-39

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ