第4話 くっ殺


「えい」

「きゃっ!」


 クラリネットの前脚により頭部を挟まれたまま、ずいっと前方に頭突きしてみた。

 ただでさえ俺の頭部を掴むために半身を起こしているクラリネットの体は仰け反り返り、見るも無残に背中から倒れた。必然的に俺がクラリネットを押し倒す形となる。


「あ……大丈夫? 痛いとこない?」

「くっ……好きにすればいいの。私の体は好きにできても、心までは好きにできないの!」


 何この女騎士御用達の台詞。俺一応心配してあげたよね? ありがとうぐらい言ってくれてもいいじゃないか。今から襲われること確定みたいな態度取りやがって。

 

 とはいえ、


「ん? 今、好きにすればいいって言ったよね?」

「……言ったの。早くすればいいの」


 ご本人が望むのならこちらとしてもやぶさかではないというか、寧ろ襲ってあげたい。

 逆にここで襲わないのはクラリネットに対して失礼なのではないか? 据え膳食わぬは男の恥という言葉もある。雄として雌に恥をかかせる訳にはいかない。


「……そうか。じゃあ遠慮なく」


 覆いかぶさった状態のまま、左前脚で床ドンしながら右前脚でクラリネットの頭を撫でくり回す。

 さながらDJのスクラッチの様に。


「ふぁっ! あっ、んんっ! ……なの……だめなのぉ!」

「だめ? 好きにしていいって言ったのはクラリネットじゃないか」


 抵抗するクラリネットに俺は残る中脚と後脚で全体重をかけ押さえつける。そして左前脚をクラリネットの口中に突っ込み、右前脚は引き続き頭を撫で続けた。


「ふぼっ!? んんっ……じゅぱっ……じゅぼぉっ……ぢゅるる」

「俺の足はそんなに美味しいか? やれやれ、なんて変態な妹なんだ」


 うわークラリネットの口の中ぬるぬるであったけぇ。向こうも無意識に、反射的に、仕方なしにしゃぶってるって感じだな。

 とてつもなく背徳感が凄い……。取り敢えず一旦抜くか。


「ぷはっ……! はぁ……はぁ……。ま、負けないの……お兄様になんて……っ! ふぼっ!」


 抵抗の意志を見せるので再び俺の左前脚をクラリネットの口の中に突っ込んだ。

 もがき、抵抗しながらもクラリネットは俺の足を噛まないようにしている。寧ろ一生懸命にしゃぶっているように見えないこともない。

 ずっと咥えさせるのも可哀想なので、抜いたり突っ込んだりを繰り返した。


「ちゅぱっ……じゅぽっ……んんっ……ぢゅるる……はぁん……」

「そんなしゃぶったら俺の足がふやけちゃうよ。まったく、いけない妹だ」


 ここでまた足を抜く。

 俺の左前脚にはクラリネットの唾液がぬめぬめに絡まり、銀糸を引いていた。

 その足をクラリネットに見せつけるように、「これ、お前がやったんだぜ」と眼前で揺らす。

 恥ずかしいのか、クラリネットは顔を反らして見ないようにした。だが、俺の右前脚はクラリネットの頭を撫でることを忘れていない。

 どっちにしろ、クラリネットには恥辱の道しか残されていない。

 次第に抵抗するクラリネットの力が緩くなってきた。

 この何の部屋かも分からない部屋で、クラリネットの嬌声は虚しく響く。

 彼女は『アントリア』のメンバーとして常に最前線で戦っている。そんな彼女のプライドやその他諸々の事情を思うと、なかなかどうして胸に来るものがある。

 だが、それでも俺の足は撫でることを止めない。それは男の本能から来るものなのか、それとも、背徳感を楽しむ俺の歪んだ心から来るものなのか。


「なぁどう思うよアリス」

「何の話しですの! それよりも早急にお止めになってくださいませ! 妻であるアリスの前で堂々と行為に及ぶとは一体全体どういうことですの!!」

「え、そこ? てかさっきから言ってるけど俺はアリスの旦那でもないし、アリスは俺の妻でもないんだって」


 アリスは俺をクラリネットから引き離そうと足を使って懸命に引っ張るが、如何せんこいつも力が弱い。クラリネットよりも弱いかもしれない。

 アリは自身の体重の百倍重い物を持ち上げることが出来る力持ちな昆虫として有名だ。しかしこいつらときたら非力にも程がある。


「はひぁ……もう……だめなのぉ……! んっ! んんんんんっ!!!」


 クラリネットの体がビクンと跳ね、へなへなと脱力し、微弱だが抵抗していたその六本の足は完全に抗うことを止めた。


「あ、やべ……」

「……お兄様には……勝てなかったの……」


 別に必ずしもそういう台詞言わなきゃいけないというルールは無い。

 いやしかし、立派なくっ殺だったぞ。あっぱれ。


「妹に、ク、クラリネットにカムイ兄さまを寝取られましたわ!! あぁ……アリスはこれから一体どうすればいいのでしょう……!」

「落ち着け。ただちょっと……クラリネットはエクスタシーしてるだけで……」

「エクスタシーって何ですの!! う……うぅ……うわあああああああん!!!」


 結果的に、俺は『アントリア』の一匹であるクラリネットを戦闘不能にしたわけだ。これはデカいな。

 感知系から潰せたのは最早ラッキーとも言える。

 しっかしこんな弱いのにどうやって戦っているんだ? もしかして外の外敵バリアーって奴らは実は滅茶苦茶弱い説あるぞ。


「よし、行くぞアリス」


 他のアリが来てもらっちゃ困る。

 まだ『アントリア』は三匹いる。特に【創造】とかいう特異能力を持つジェンヌとだけは遭遇したくない。


「クラリネットはどうするのですか! まさかこのままヤり捨てて行くなんてことは……」

「ご名答! さあ行くぞ!」

「カ、カムイ兄さまはアリじゃないですわっ!! 鬼畜! 強姦魔! 露出狂!」

「露出狂はお前もじゃいバカタレがッ!」

「ひゃいぃっ!! 辱められますわ……妹達の前で恥辱の限りを尽くされますわぁ!! はぅ!?」


 流石に殴った。間違えた、蹴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る