第6話「New Abrupt Marvelous Ability-真斗視点-」

「違います………帰って、どうぞ………」

 少しだけ開いたドアから、聞き覚えのある小さな声が聞こえる。

 明らかに眠たそうな声に、俺は杏に聞こえないように溜息をついた。

『こいつ…もう昼なのに、まーた寝てたな?』

「あっはは、嘘はダメだと思うんだけど?杏」

 溜息をついたことを悟られないよう、笑顔で杏を見下ろす。

 杏はようやく、話しているのが俺だと気付いたようだ。眠そうだった目が少し見開かれている。

「貴方こそ…強引なところは直したほうが良いんじゃなくて?真斗さん……」

 ドアに身を寄せたまま、杏がじろりと俺を睨む。

 その刺々しい視線に苦笑しながら、俺はおどけたようにこう言った。

「うわ、そんなかしこまらなくていいじゃないか、とりあえず中入れてくれない?びしょびしょなんだけど」

 ほら、というように腕をかかげると、杏はあからさまに顔をしかめた。

 こう言えば、杏は無理に俺を追い出すような真似はしないだろう。

「雨やんだら……帰ってよ?」

 仕方ない…というように杏はドアを開け、俺に無言で中に入るよう促した。

「はいはーい、今日はみんないないの?」

「残念ながら私一人だよ……えいっ!」

 杏の掛け声と共に、フワフワとタオルが飛んでくる。

 掛け声の大きさからして、杏なりに思いっ切り投げたのだろう。

 飛んでくるタオルを手に取り、杏に目を向ける。

「サンキュー、にしても貧弱だな、ちゃんと食べてるのか?」

「別に……陽太のはメシウマだしちゃんと食べてる………」

『嘘をついている様子はなし、と。それにしても、警戒しすぎ』

 訝しげな視線を送る杏に笑いそうになりながら、借りていたタオルを畳む。

「じゃあ運動だな、食って走って強くなれ」

「脳筋は嫌い………へぶっ」

 俺の投げたタオルが杏の顔にヒットする。あんなに警戒してたのに、と思って、俺は笑いを必死に堪えた。

「まぁ、文スタの活動はよく見てるし、これからって感じだろ?やりすぎて倒れないように、俺が面倒見てやるよ」

 投げつけられたタオルに慌てている杏に言葉を投げ、文スタハウスをあとにする。

 上着の中にしまっておいた折りたたみ傘取り出…そうとして、やめた。

 雨が降っていない。

 顔を上げると、ちらほらと青空が顔を覗かせていた。

 どうやらもう雨が上がっていたようだ。

「…楽しみだな、これから」

 そう一人呟くと、口角を上げる。

 果たして、杏が俺の言ったことの意味を理解するのと、俺があの文スタハウスに再び訪れるのと、どちらが早いだろうか。

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文スタダイアリー @atumarunakamatati5

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