31. 追いつけないとわかっていても 

「そっか……仮想地球のルール・アップデートを怠ると、こうなるのか……」

 女性・が言った。


「人の行動が、管理能力をはみ出しまくるわけか。……しっかし、大岡越前と暴れん坊将軍を合体させて、チート能力を与えたみたいな感じ? 削除人は」

 男性・も言った。


「そんな感じかな。誰が作って誰が管理する超越者なのか、まではわかならないけれど」

 優は軽く首をかしげた。


 削除人は、密室の壁を無効化して出現、退避ができるのだ。

 実際、仮想地球でシミュレートされている物理法則を超越した存在でなければ、そんな芸当は出来ない。

 ノックスの十戒などどこ吹く風の、ミステリーを成立させない超越能力。


「超越者の削除人に頼っての交通整理、秩序維持か……外からの存在に判断丸投げで、大丈夫なんかね?」

 男性・は言った。

 その目には、「ハッカーは自律行動だろ?」とでも言いたげな、不満そうな色が浮かんでいた。しかし――。


「外からの、ではなく、内から、かもしれないわね」

 と優が言い、圭はハッとした。


「仮想地球の外から来てるわけじゃないもんな。インスタンスが、仮想地球の内側に生成されているだけ」


「そうそう。現実世界の私のように……」

 頷いて言った優は、左半球ヘミスフィアに向かい、現実一致リアリティレベルをはじき出した。


「60%ね。仮想立法事実としては、今は使えなさそう。でも……」


「でも?」


 彼女は、表情を消して言った。


「この現実世界で、これ以上、技術と法律の差が開いてしまったら……80%を超える未来もあるかもしれない」

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入瀬インワンダーランズ(仮) にぽっくめいきんぐ @nipockmaking

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