第49話 不死鳥とメイドの夜 その5

「今なんて言いました?」

 私は聞き間違いをしたかと思い聞き直す。

「ですから、ライトは今私の家に居ますと、言ったのです」

「……嘘でしょ?」

「情報屋が嘘ついたら終わりですよ」

 彼は笑いながら手を広げた。

 私は立ち上がった。

 テーブルに手をつき、コーヒーが揺れて少しこぼれる。

「会わせてください!お金ならいくらでも払いますから!」

「そう言うと思いました」

 彼はテーブルの上にあったスマートフォンを操作した。

「言質取りましたからね」

 笑顔のまま、操作したスマートフォンを私に見せる。

 彼が向けたスマートフォンの画面には録音マイクのような物が写っていた。

 嘘っ!まさか、これを想定して録音していたと言うの!?

「そ、そんな」

 これで、法外な金額を請求されたらどうしよう。

 内臓でも売られるのだろうか?それとも売女として一生を過ごすのだろうか?

「安心してください、お金を取るつもりはありません」

 私があなたに保証して欲しい言葉は、『彼に会わせる』という方です。

 そう言った猫屋敷さんは、立ちながら震えていた私の手を取った。

「彼もあなたに会いたがってるのです」

 私は頭の中が真っ白になった。


「ここが、猫屋敷さんの家ですか?」

「そうですね、賃貸ですけど」

 喫茶店を出た私は、猫屋敷さんの車で少し離れたアパートに到着した。

 車から降り、彼の後ろをついていく。

 階段を登る時には、いつもの倍の速さで心臓が脈打っていた。

「それにしても、本当に会ってくれるんですね」

「あ、いや、その…」

 私はしどろもどろになりながら返事をする。

 確かに私は会いたい、と言った。

 だけど、それは答えとして合っていたのだろうか。

 普通に考えたら、私の立ち位置は殺人現場の目撃者なのだ。

 本来なら口封じされてもおかしくない。

 ただでさえ、殺人者に会うという時点で頭がおかしいはずなのに、殺し屋として実力は折り紙付きだというのだから、私は最早殺されに行くようなもんだ。

「でも、私は会いたいと思っているんです」

 理屈抜きに何故か会いたいという心があの時からずっと残っているようだった。

「そうですか」

 猫屋敷さんは、安心したように前を向いた。

「まさか、ライトに恋をしているんじゃないですよね」

「そんな事はない…はずです」

 確かに、そう言われるとその可能性もあるかもしれないが、そんなものではないと確信している。

 本当に不思議な感情だ。

「さあ、着きましたよ」

 彼が扉の前で止まり、鍵を開けてドアノブを捻る。

「おかえりなさい、猫兄さん」

 聞き覚えのある声がした。

「おう、ただいま」

 明るい声で返事をした。

 靴を脱いで廊下を歩く。

 猫屋敷さんの後ろを進み、一番大きな部屋に出た。

 そこには、私が今一番会いたい人が居た。


「えーっと、誰?」


 お玉を持ちながらエプロンを着て。

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キルユー キルミー! 汐崎晴人 @thekey3

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