第38話 殺し屋と1人目の同業者 その5
「ただいま」
「おかえりなさい、少し遅かったですね」
玄関を開けると未来の声が聞こえる。
靴を脱いで廊下を歩く。
水滴の落ちる音が聞こえる。
リビングのドアを開くと安堵していた未来の表情が驚きのものへと変わる。
「どうしたんですか!?そのお腹の傷は!」
「ああ、ちょっとやられてね」
リビングを見ると珍しくアリスさんが台所でココアを入れている。
「こんなに時間かかったんだから何かあったんだろうと思ってたよ」
とりあえず止血はしたんだ、とアリスさんはココアを3つに増やして炬燵に置いた。
「ちょっと手当てしてくるよ」
「手伝いましょうか?」
「いや、心配するな。これぐらいの怪我なら殺し屋をやり始めた時に何度もしてる」
俺は手を振って洗面所に向かった。
「でも、ナイフに毒とか塗ってなくて良かったですね」
「まあ、毒は結構使いにくい所もあるし、殺し屋って結構自分のポリシーみたいなのを持ってる人が多いからな」
しっかり手当てをして俺はリビングに戻った。
未来もさっきより安心した表情に戻った。
多分、アリスさんがなんか言ってくれたんだろう。
こういったケアを出来るところはやっぱり召使いなんだな。
「そういえば、アリスさんが変態さんについて調べてくれましたよ」
「変態さんって……」
もう少し言い方があったと思うけど。
「ていうか、よく身体の特徴だけで分かったな」
「それだけ有名だったんだよ」
「まあ、あの見た目だったらな」
有名になっておくのも、あの戦法では必要なことなのだろう。
「腕も確かだってサイトにはあったし、ちょっとこれは用心した方がいいって話そうとしたんだけどね」
「それを今言われてもな」
どっちにしろ俺が仕事をする時に油断する事はない。
「でも、ちゃんと殺してきたから大丈夫さ」
「死体は?」
「……手口は分からないから発見されても多分バレねえよ」
「やっぱり余裕無かったんですね」
心配だから、今度は付いて行こうかな と未来はココアを飲みながら言った。
「その今度が無ければいいんだけど」
「次もありそうだね」
アリスさんはパソコンを打ちながら続ける。
「彼女、『鉄の処女』こと荒木梨花に依頼した人は誰かって話でしょ?」
「殺し屋の俺のことを知ってるところは一つしかないね」
「恐らく研究所でしょう」
「じゃあ、また刺客は来るでしょうね」
未来は考え込んでいる。
まあ、俺が蹴散らせばいいんだけど。
おれは右手を握り締めながら決心した。
もっと強くならないと。
未来を研究所から守るために、ここで死ぬわけにはいかない。
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