第5話

仕事をさくっと終わらせて帰る支度をする。

まだ碧さんは来ない。

んー、迎えに行こうか。


碧さんの部署まで行くと、碧さんのそばに男の人がいた。

楽しそうにおしゃべりしてるように見える。男は。

碧さんは若干ひいている。

すごく迷惑そう。

強く出ればいいのに。


「桃園さん!」

「!?あ…、田井中さん……。」

「帰りましょ、一緒にご飯行く約束ですし。」

「…というわけなので、失礼します。」

「お疲れ様です、お先に失礼いたします。」


碧さんの腕をつかみ、半ば強引に男の人から引き離す。

大人しくひいてくれてよかった。

まぁ、なんか叫んでた気がするけど。

てか誰だっけ?飲み会で顔を見た気がするけど、思い出せないや。

割とイケメンで、なんだろ、なんか、むかつくやつだった気がする。

碧さんの方を見ると、顔が若干青ざめていた。

あのクソ野郎。

絶対に許さない。


「……すいません、もう少し早く来るべきでした。」

「……私も払いのければよかったんだけどね。」

「無理はしないでください。私は呼べばいつでも来ますよ。」

「……ありがと。」


少し碧さんの顔色も戻ったのであの男の子と聞くことにした。



碧さんの話を要約すると、あの男の人は同じ部署の同期で、あの飲み会の日から碧さんにずっとアプローチしてきているらしい。

散々断っても何回も言ってくるし、一人のところを狙ってくるから助けを呼べなくて困ってるらしい。

なんだそれ。最低な奴だな。

胸の奥がもやもやする。


「汐織ちゃん来てくれて助かったよ。ありがと。」

「そんな、無理して笑わないでください。」


笑顔が痛々しかった。

どうしたら、碧さんを助けられるだろう。

ない頭をフル回転させる。


恋愛経験が少ない私。

少女漫画とか参考にすればいいのかな……。

最近何読んだっけ……。

あー、そういえば……。


「指輪!!」

「え?」


道中でいいことを思いついた。

つい大声を出してしまい、恥ずかしいと思うが、それどころではなかった。


あの男に、大切な人がいるんだってわからせればいいんだ。

だったら、指輪してみればいいんじゃない?!

左手の薬指とかにしてしまえば、諦めるんじゃ?!

幸いうちの会社、華美じゃなければおしゃれOKだし!!


「なるほど……。でもそんな指輪、持ってないよ?」

「じゃあ買いに行きましょ!!いいとこ知ってます!!」


こんなに物事がトントン拍子に進んでいいのだろうか……。

なんて思ってしまったけど、まぁいっか!

碧さんからあの男が離れれば私的にはなんでもいいし!!

碧さんにあの男が近寄ってるのむかつくし!!!


商店街の中にそのお店はある。

ちょうど歩いているところ。


「ここです!」

「天然石のお店?」

「です!でも普通に指輪売ってますよ。ペアリングとかもありますし。」


学生の時に先輩がペアリングをしてるのを見て、私もしたくなって、お店を聞いておいてよかった。

ずっと覚えてたんだよね。

あの頃の夢は叶わずじまいだけど。


「可愛くて安いのねここ……。」

「そうなんですよ。これぐらいだったら、おしゃれにも使えますしいいと思いますよ!」


碧さんがじっくり探し出したので、私は私でペアリングを眺める。

可愛いなあ。

「love 」とか、「forever」とかほってあったり、二つ合わせてハートのマークになるやつだったり。

いいなあ、欲しくなっちゃう。

まぁさすがに買わないけど。


「汐織ちゃん!」

「なんでしょう!!」


ぼーっと眺めているところに、いきなり呼ばれて大きい声で返事してしまった、恥ずかしい……。

あれ、デジャヴ……。

碧さんの方を見るとキラキラした目でこっちを見ている。

かわいい。なにあれ。


「どうしたんですか?」

「これ!!かわいい!!」


碧さんが見せてきたのは、可愛らしいデザインの指輪だった。

パッと見ペアリングだということがわからない。


「かわいいですね。いいんじゃないですか?」

「安いし!!……汐織ちゃんはしないの?」

「え?しませんよ〜。」


私がする意味は無いし。

碧さんからあの男が離れていくのが今回の目的だし!


「これ、かわいいよ?」

「……しませんよ?」


上目遣いで目をキラキラさせてこちらを見てくる。

一瞬揺らぎそうになったが、ここで揺らいじゃダメだ……。

そもそも私の入るサイズないだろうし……。

一応スポーツをやっていたから、関節が太い。

だから、指輪なんて入らないし、したってカッコ悪いだけだろう。

ずっとそう思ってきた。


「よし、指輪のサイズ図ろう。」

「へ?」

「すいませーん。」


こう!と思ったら行動の早い碧さん。

さっそくお店の人を呼んで図るための道具を持ってきてもらう。

その行動力をあの男のために生かしてください……。


「お姉さんは7号ですね。」

「こっちの子は?」

「こっちのお姉さんは、13号ですね。」


うわ、案の定私の指ふっといなあ……。

関節のせいだけどさ……。

碧さんと比べたくない……。

こんなんだから、指輪とかしたくないし、女物じゃサイズなさそうだなあ。


「じゃあ!!私と同じやつかえるね!!」

「え??女物ですか?」

「うん、同じやつ。あるよ!」


ほら!と言って見せてくれたのは、さっき碧さんが持っていたヤツと同じもので13号と書かれたタグが付いたもの。

あるんだ、私のサイズで……。

ちょっと感動。


「一緒に、買お?」

「……いいですよ。」


可愛さに気圧されました。

上目遣いに涙目はずるいと思うんだ……。


結局二人で同じ指輪を買った。

碧さんは左薬指に。私はチェーンを買ってネックレスにした。

ネックレスにすることに若干碧さん不満そうだけど。

私が指にするのはちょっとね……。

碧さんのファンに殺される……。


「これでもう、言い寄られないといいですね。」

「そうね!付き合ってる人がいるって言わなきゃね〜。」


すごく楽しそう。

キラキラ、ルンルン、している。

何この可愛い生き物。


「あ、お弁当箱。」

「おうちにあります?」

「あるよ!それ取りに行かなきゃね〜」


二人してたくさんの荷物を持って碧さんの家に向かう。

あの日以来、行ってないなあ。

というか、正直素面で行くのは初めてだから場所をやっと知れる。という感じだ。

内装は覚えてるんだけど、外装いまいち覚えていない……。


「着いたよ!ちょっとここで待っててね!」


そういって碧さんは家の中に入っていった。

…………すごいセキリュティっぽいんだけど。

もしかして、お金持ち?

……まじかよ。

ていうか、近いな。

私の家から。

五分くらいで私の家着くよ。


数分してから碧さんが降りてきた。


「おまたせ!これでお願いします!」

「はい!」


ずいぶん可愛らしいお弁当だ。

碧さんらしい。

けど、大きさが……。

私のよりでかい。てか、一般女子が食べるようなちっちゃいやつじゃない。

この小柄な体にこれだけの量が入るの……?

これは、しっかりつくらなきゃな。


「じゃあまた明日持ってきますね。昼迎えに行った方がいいですか?」

「うん!お願いしていいかな?」

「わかりました。あの男がいても嫌ですからね。」

「ほんとね……。」

「それでは、また明日。おやすみなさい。」

「またね!おやすみ!」


今日は帰ってから、明日の準備しっかりしなくちゃなあ。



家に帰り、首元の違和感を嬉しく思いつつ明日のお弁当の下ごしらえ。

明日のお弁当はマイメ〇ディ。

碧さんリクエスト。ピンクのうさぎってところが好きらしい。

あのピンクを何でするか迷ったけど、桜でんぶですることにした。


ご飯を炊いて、お弁当箱洗っておいて、あとなに入れようかな〜。

ガッツリ食べるみたいだし、唐揚げとか定番かな。

お肉の下ごしらえをして、魔法の粉を入れまして、つけておきまして〜。


そら豆は卵焼き。

あしたばの白和え。

あとは、若鶏の唐揚げ。

マイメ〇ディちゃんのおにぎり。

ピア〇ちゃんのおにぎり。

あとウィンナーと、いちごとー……。

こんな感じかな?


明日の準備は割とすぐに出来た。

それに、楽しい。

あ、ご飯食べてない。

夕飯は、あ、何も作ってない。

やべ、何作ろう。


簡単にぱぱっとオムライスとスープ。

こーゆーとき、料理できるっていいなあ。

困らない。


-碧さん-


今日はありがと♡

おかげで可愛い指輪が買えて良かったよ〜♡(❊´︶`❊)。۞·:

明日のお弁当楽しみっ!⑅•͈ ·̮ •͈⑅

おやすみなさい!



碧さんからLINEが来ていた。

律儀だなああの人。

そして相変わらずかわいい顔文字。

女子力の塊だなあ……。



『お疲れ様です。

こちらこそありがとうございました。

これであの男が近づかないことを願います!

楽しみにしていてください。

おやすみなさい。(\(\ ( *ˊᵕˋ)ɢᵒᵒᵈ ɴⁱᵍᑋᐪ ✩』


この圧倒的顔文字の少なさ。

女子力の低さ。

でも、これが私なんだ。


さ、早く寝てしまおう。

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