サイバーQ

石渡正佳

サイバーQ1 サイバーニュース編

1 東京アンドロイドル計画

 2038年、歌舞伎町に彗星のごとくデビューした美少女ユニット「あまてらす瑠璃懸巣」は、メンバー10人のあまりの美少女ぶりにヲタクたちの間に激震が走った。とくにボーカルを担当する瑠璃4姉妹、瑠璃エンジェル、瑠璃ミク、瑠璃ローズ、瑠璃シトの完全美少女ぶりは圧巻だった。

 彼女たちはデビュー3か月にしてワンマンライブ「瑠璃色のファーストGIGS」を催行、歌舞伎町地下アイドル界の聖地とされるライブハウス「新宿PARCO」を満場にしてさらなる話題をさらった。

 あまてらす瑠璃懸巣のデビューを契機に、アイドル界では旧勢力のアキバ(秋葉原)と新勢力のカブキ(歌舞伎町)が対抗するアキカブ戦争(AKW2038)が勃発した。しかし、この戦争は大会会場の放射能汚染問題の発覚によって延期されてしまったオリンピックの2040年リベンジ開催の準備が進められる首都の地下で繰り広げられている陰謀の一端にすぎなかった。その陰謀とは東京アンドロイドル計画である。


 不思議なことにワンマンライブの直後から、あまてらす瑠璃懸巣のバックダンサーが一人また一人と消えはじめた。彼女たちが全身整形のハイブリッド人造アイドルではないかという噂も流布されはじめた。そしてついに瑠璃4姉妹の一角、瑠璃ローズが消えた。その数日後には、中国人の中年男性とロールスロイスに乗り込むローズをシンガポールで目撃したという情報が歌舞伎町のヲタクたちに届いた。

 さらに瑠璃シトが抜け、瑠璃ミクも抜けて、ボーカルは瑠璃エンジェル一人になった。

 3か月前、ファーストワンマンを催行した新宿PARCOのステージに立った瑠璃エンジェルは、あまてらす瑠璃懸巣の解散を宣言し、自分たちが東京アンドロイドル計画によって全身整形されたサイボーグアイドル(アンドロイドル)だとカミングアウトし、消えた仲間を探して欲しいと懇願した。

 とうとう東京アンドロイドル計画の陰謀が暴かれる時がきたのである。

 翌日、瑠璃エンジェルも姿を消した。デビューからたった半年で、あまてらす瑠璃懸巣は消滅した。


 アイドルサイボーグとは、歌も踊りも性格も完璧な完成されたアイドル、しかしどこかしら作り物感もただよう胡散臭いアイドルを賛美するヲタク用語である。20年以上も前のアイドル草創期、AKB48の渡辺麻友や板野友美、松浦亜弥、Juice=Juiceの宮本佳林なんかがそう呼ばれていた。

 東京アンドロイドル計画のサイボーグアイドル(アンドロイドル)は、かつてのアイドルサイボーグとは無関係で、全身整形術によって生み出されるスードアイドル(捏造アイドル)またはオートメーションアイドル(量産アイドル)である。

 アンドロイドルの素材は五体満足でありさえすえば普通の見た目の少女でよい。年齢は中高生限定である。手足が長く肌がきれいであればそれにこしたことはない。量産されるサイボーグアイドルは、観光庁が密かに推進するインバウンド・セクシャリティ・イニシアチブ(ISI、外国人向け性風俗開発プロジェクト)に投入されることになる。

 日本のAV嬢はアジアの富裕層に大人気で、すでに外国人専用の高級コールガールと化して久しく、愛人輸出も重要な外貨獲得源になっている。しかし良質のAV嬢は玉不足が著しい。そうかとって昨今のメジャーなタレント事務所のアイドルは、昭和のアイドルのようにいきなりコールガールとして使い回すことはできない。まずサロン(キャバ嬢)デビューさせ、それからホテル(デリヘル嬢)デビューさせ、さらにスタジオ(AV嬢)デビューへとステップアップしてから、愛人輸出へともっていかなければならない。そこで需要に供給が追いつかないAV嬢に代わる新たな愛人供給源として、外国人にも人気が出ている地下アイドルに目をつけたのである。

 地下アイドル愛人は、セックスマシーンとして完成されたAV嬢愛人とは一線を画した魅力がある。未熟な育成型愛人なのである。幼女を大人の女に育てあげていくプロセスを楽しむ光源氏計画の現代版であると言える。

 しかし良質の地下アイドル愛人もまたAV嬢愛人以上に玉不足である。そこで普通の中高生をハイブリッド全身整形してアイドルに仕立てあげる東京アンドロイドル計画が立案されたのである。

 東京アンドロイドル計画は、韓国のプラドル(プラスチックアイドル)がモデルであり、韓国からはすでに多くのプラドルが愛人輸出されている。鶯谷の韓国系デリヘル嬢も大半がプラドルである。韓国のプラドル愛人は育成型愛人ではなく、セックスマシーンとして完成されており、むしろ日本のAV嬢愛人に近いものである。

 東京アンドロイドル計画は、地下アイドルのライブを企画するイベントプロモーション会社が仕掛人となり、AV配給会社、美容整形手術の資金を貸し付けるヤミ金、エステティックコンサルタント、美容整形外科病院、愛人輸出シンジケート、さらにオリンピック景気やインバウンド景気を利権とする複数の右翼政治家や秘書までがからむ巨大な陰謀である。

 歌舞伎町では、あまてらす瑠璃懸巣解散後も、アンドロイドルユニットが次々とデビューし、行方知れずとなった瑠璃4姉妹はたちまち忘れ去られた。

 リベンジオリンピック年(2040年)に向けて東京アンドロイドル計画は着々と進行しており、アキカブ戦争もさらに熾烈を極めている。インバウンド・セクシャリティ・イニシアチブの経済効果は2兆円を超えると目されている。

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