第11話 誤解

「にゃはは! 本能には逆らえないよね! さぁ、どこから触る?」


 く、悔しい。明らかに俺で遊んでいるのに本能が拒否しない! それだけ桃ヶ池の身体は魅力的であり、触りたいと思うのも仕方ないのである。


「あれー? お手てからいくかー。初々しくていいね♡」


「う、うるせぇ」


 逃げで触った桃ヶ池の手は柔らかくて、サラサラだった。俺がいきなり胸や太ももを触るとでも思ったか、童貞心舐めんな。


「でもさ……本当に触りたいトコってあるでしょ?」


「え、いやそれは……」


「いいんだよ別に。ボク、どこを触っても怒らないからさ♡」


 どこを触ってもいいってお前安直に言うなぁ。年頃の男子高校生は性欲魔人なんだぞ。ちょっと煽るだけで『ぐへへ、もっと喘げ喘げ』とか言い出すエキゾチックモンキーなんだぞ。


「ほらほら、はーやく」


「ってもなぁ……」


 手まで握ってしまいもう後に引けない状況だが、どこでもと言われると迷ってしまう。後悔のないように触りたいが、かと言って胸とか触るってのもなんかうーん……あ


「おっ、遂にその気になった?」


「……」


 俺は空いてる右手で桃ヶ池に迫った。胸より上の場所で黒く輝く物。さっき見た瞬間からずっと気になっていた場所を俺は触ろうとしている。どこでもいいって言っていたし、これくらい大丈夫だよな…… 


「えっ、ここ?」


「なんか気になってな」


俺が触った場所は首に付けられたチョーカー。胸でも太ももでもなくチョーカー、という意外な場所に桃ヶ池も少し驚いていた。


「へー、珍しい所を触るんだね」


「何故か気になってな。痛くないのかこれ?」


「最初は違和感があったけど慣れれば平気だよ」


「そうか……」


 首もとを撫でてるとチョーカーの隙間から締め付けられた跡が見えた。赤くはなっていないが、かなり長い時間付けられていた事がわかる。チョーカーなんて設定を書いてしまった俺は何だか申し訳ない気持ちになってしまった。


「なんか悪いな。その……大変だろ?」


「別にいいよー? 要望に従う方がボクも楽だしさ」


「でも……」


「いいの、今のボクはそれで楽しいんだから」


 自分自身、桃ヶ池をここまで変えてしまった責任はあった。ちょっとしたアクセサリーならまだしも、髪の色やスカートの長さ等女の子のデリケートな部分まで弄らせてしまったからだ。しかし、この通り本人が楽しそうにしているならそれでいいのかもしれない。なんか桃ヶ池に甘えてるみたいで申し訳ないが……


「ねえねえ、首以外もいいんだよ? ほらほら」


「あのなぁ、お前はもっと恥じらいをだな……」


「えー、でも、ボクを淫乱にしたのは主様でしょー?」


 なんか無理やり淫乱にしたみたいな言い方だ。確かに間違ってないがそれでは俺が淫乱にしたみたいで色々誤解されるだろうが。俺は設定として書き込んだだけだ!


「え、淫乱って、えっえっ?」


「あ……」


 ヤバい、他人に見られた。左手をつなぎ、右手で首元を触り、おまけに桃ヶ池の淫乱にされた発言。どう考えても俺が桃ヶ池を襲ってる風にしか見えないだろう。しかし、心配する所は別にあった。


「ふ、二人が付き合ってる事は知っていたけどま、まさか学校でこんな事……!」


「お、落ち着いてくれ……これは誤解って奴で……」


 休憩室の扉にいたのは俺達もよく知る人間だった。しかも付き合っている事を知っている奴なんてこの学校でも限られている。1年生で最も有名な人物であり、変わり果てた桃ヶ池にも好意的に接した人物……枚方舞だ。


「ねえ、これ誤解じゃないって否定したらどうなるの?」


「お前は黙ってろ!」


「や、やっぱり!」


 ああ、またややこしい事になった! 口開けば余計な事しか言わねえなお前。多分、放置していたら余計ややこしくなりそうなので桃ヶ池の口はしばらく閉じさせて貰う事にしよう。


「よく、見てくれ。俺が何か変な事すると思うか?」


「そんな事言われても無理だよ!」


 顔を真っ赤にしながら枚方がこちらに迫ってきた。ごもっともである。俺でもこの状況を見たら誤解と言われても信じない。しかしどうしようかなぁこれ。


「ねぇ、二人とも。まずは話、そこから始めない?」


「そうだな……」


「えー主様続き……むぎゅ」


 桃ヶ池の口を抑えて黙らせる。わざわざ話し合いの機会をくれた枚方は本当優しい感謝しか出てこない。これが普通の人なら『ヤバ! 写メ取ってTwitterに上げよ!』となるだろう。とにかく、この話し合いで誤解を解かなくてはいけない。なるべく発言は慎重にいくことにしよう……。

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