7日目

今日は、私がこの時間軸にいることができる最後の日。

今私は、美姫と一緒に巫女の家に来ている。

敦君の家に行くということもできたけれど、私はそうはしなかった。

「ねえ、琴葉、本当に良かったの?私たちと一緒にいて?」

美姫がそう聞いてくる。

「うん、良いの。…………私が敦君に伝えかったことは、もう昨日のうちにしっかり伝えたし、それに、最後に敦君に伝えたかったことはしっかりと、自分の想いを込めて書いた、小説があるからさ」

「そう、ならいいけど…………」

今日の天気は雲が1つとしてない、快晴だった。

私は、今日敦君の家に行かないと決断したことは後悔はしてないけれど、私は少しだけ思うのだった。

…………キスしたかったな………

と。

今日の目覚めは、とても良かった。

俺の命は、あと1日で尽きる。いや、正確に言うならば、あと10時間ぐらいだと思う。

10時間あれば、なにができるのだろうか?

ゲームをしたり、読書をしたり、外でスポーツをしたりなどいろいろなことができるだろう。

俺が、起きてから数分後にお母さんとお父さんが俺の部屋に入ってきた。

お母さんとお父さんの表情は、やはり暗かった。

………それは、そうだよね。自分の息子が今日死ぬんだから。

自分の知り合いが死んでしまうことは、とても悲しいことだ。それが、家族となればなおさらなことである。

………今日は精一杯、感謝の気持ちを伝えないといけないとな。

俺は、あまり両親に、もっと言えば他人に感謝というものを伝えることが苦手だ。

なんか照れ臭くて。

でも、今日はなんとしてでも感謝を伝えないといけない。照れくさいとか言っていないで。

「普段なにもしてやることができなかった俺だけどさ、敦。俺になにかしてもらいたいこととかあるか?」

お父さんがそう俺に聞いてきた。

俺のお父さんは、あまり俺に関わることがなかった。お父さんの仕事は忙しくて、それに出張なども多くて。

「別にいいよ。でも、約束して欲しいことはあるかな?」

「約束か」

「うん、約束。しっかり仕事を続けること、あと、きちんと家族の時間を作ってあげること。そうしないとお母さんが悲しむからね」

「おう、分かった。約束する」

「それと、お母さんにも約束してもらいたいことがあるんだけどいいかな?」

「ええ、勿論いいよ」

俺のお母さんは、お父さんは反対で俺との関わりが家族の中で1番だったと思う。

「もっと、お父さんに甘えること。お母さんは、自分1人で抱え込むことが多いと思うから。だから、お父さんにもっと、甘えて欲しいんだ」

「わかった。もっとこれからは、甘えるようにする」

お母さんは、とても38歳には見えない屈託のない笑顔でそう言ってくれた。

「それと、最後に、今まで俺のことを育てきてくれてありがとうございました」

俺は、精一杯の感謝の気持ちを込めてそう言った。

お母さんは、その言葉を受けるともう、それこそ赤ん坊みたいに泣きじゃくった。

お父さんは、泣き顔を息子に見られることが恥ずかしいのか、そっぽを向いていた。

でも、それが、逆に泣いているってことをよく表していた。

俺は、とてもいい両親を持ったな、そう思った。

こんなふうに、息子の最期を見届けてくれる。

それは、当たり前のようなふうに見えて当たり前ではないこと。

子供を育てることはできなくて育児放棄してしまう親だっているし、自分の子供の死を悲しまなず、むしろ喜ぶ人だっているのだから。

俺は、お母さんたちに、仕事あるなら行ってきてと言った。

お母さんもお父さんもそんなことはできないと言ってくれる。

でも、俺は、行ってと言った。

お母さんもお父さんも、悲しそうな顔をした。

でも、最後の息子からのお願いだと、そう理解してくれるとお母さんもお父さんも素直に仕事に行ってくれた。

俺は、お母さんたちが仕事に行ったことを確認するとスマホを出して、小説投稿サイトを開いた。

昨日琴葉と約束した、小説を見るために。

ログインをし、マイページに飛ぶ。

そうすると、未読小説は、少し深い青色なる。

でも、俺のマイページに少し深い青色になっているところなどなかった。

俺は少し不安というよりも悲しくなった。

書いてはくれなかったのかなと。

別に彼女が書く義務なんてものはないのだから書かなくたっていいのだけど、でも、俺と約束した。そして彼女は、頑張ってみると言った。だから、悲しかった。

………仕方がない、なにか他のものでも読もう。

そう思って、ホーム画面に戻り、画面をスクロールし、新着おすすめレビューのところに翠という作者の作品があった。

たまたま彼女が、使っているペンネームと同じだけなのかもしれないと思ったけど、もしこの翠という名前が、神林ならと思って作者も名前を押した。

そうすると、作者ページに飛び、作品一覧が出る。

そこで、俺は確信するのだった。この翠という作者が神林であることを。

そして、『君が私の想いに気づくまで』という名前も下にある、『君に私の想いが届け!』という小説をタップした。

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