6日目

将棋やオセロなど一緒にやったおかげで、とても楽しい雰囲気になっていたのだけど、敦君が私のことを真剣な眼差しで見てきて、

「話しがあるんだ」

と言われたところから私達の間は、真剣な雰囲気になっていた。

「話しってなに?」

「神林も知ってのとおり俺の命は、あと僅かしかないんだ」

「うん」

「それで、俺は医者にあと2週間ですと

余命宣告されていたんだ。で、その余命宣告されてから、2週間目にあたる日が明日なんだ」

……明日か。

私は、明日が敦君が死んでしまう日であると、またこの時間軸にいることのできる最後の日であることを分かっていながら、必死に忘れようとしていた。

でも、こうして明日と言われてしまうと忘れようにも忘れることができない。

「うん」

「それで、神林にお願いがあるんだけどいいかな?」

私は、明日は来ないでくれないかと言われると思った。でも、敦君が言った言葉は全然違う言葉だった。

「明日までに、小説1作品作って、小説投稿サイトにあげてくれないかな?」

「え?」

「ああ、無理だったらいいんだけどさ、俺神林の小説好きだからさ、だから最後死ぬ前に読んでおきたいなと思ってさ」

私は、素直に嬉しかった。

最後に自分の書いた小説を読んでおきたいと言われたことが。

「うん、わかった。無理かもしれないけれど、頑張ってみる」

「ありがとう」

それから私は、敦君の家を後にした。

学校に着くと、職員室を訪ねて、斎藤先生を呼んでもらい、そして部室を開けてもらった。

斎藤先生は、私になにか言っていたようだけれど、今の私にそれを答えている程余裕はないのだ。今は、時間が欲しい。とにかく時間が欲しい。

でも、いくら時間を欲しいと思っても、時間は増えるわけじゃない。

………今からいくら早く書けたとしても、せいぜい書けるとして5000文字ぐらいだろう。

でも、そんだけでいいのかと思ってしまう私がいた。

………できるだけ、いいものを見せてあげたい。

それは、私が思うことだった。

私は、その時ふと、もう既に書き終わったいる小説があることに気づいた。

そのことに気づくと私はすぐに行動した。

まずは、wordを開いて、『君に私の想いが届け!』という短編小説を開いた。

文字数にして、2万文字。

ひとまず、私は、斎藤先生にあと今日何時に学校が閉まるのかを聞くことにした。

「斎藤先生、今日って何時に学校閉まりますか?」

「18時ぐらいかな」

今時刻は、17時。学校が閉まるタイムリミットまであと1時間しかない。

斎藤先生は、私が急いでいる姿を見て不思議に思ったのだろう。

「なにをそんなに神林は急いでいるんだ?」

「今日中に新作をネット小説であげないといけないんです!」

「おう、そうか。じゃ頑張ってくれ。・・・・・・・それといつになったら俺にネット小説での神林の名前を教えてくれるんだ?」

「自分で頑張って見つけてください!」

「はは、そうか。まあ、頑張ってみるよ」

私は、斎藤先生のその言葉を聞き終わると、『君に私の想いが届け!』を読み返すことにした。

文章と文章を繋ぐ部分とかがところどころおかしなところがあったりはしたが、だいたいの内容は、しっかりとしていて、しっかりと1つの作品としてできていた。

おかしなところだけ修正して、これをそのまま投稿していいと少しだけ思ってしまったけど、それじゃあ意味がないんだ。

だって、敦君は

・・・・・・私が書いた小説がいいって言ったのだから。

確かにこの『君に私の想いが届け!』だって私が書いたものではあるけれど、この小説はの私が書いたものじゃなくて、の私が書いたものだから。

だから、『君に私の想いが届け!』を今のまま投稿したところで、それは私が書いた小説ではなくなってしまう。

今から完全に私が書いた小説を投稿することはできないけれど。でも、昔の私が書いた小説を修正し、また新たに文章を足すことができれば、それは、少しは私が書いた小説に近づくんじゃないかって思うから・・・・

「私が、頑張って書かないと!!」

『君に私の想いが届け!』は、もう既に1つの作品と完成していて、終わりだって綺麗に終わっている。

だから、今からなにか文章を足すことをしたら、良作を駄目にしてしまうかもしれない。でも、文章を足すことで、良作をさらに良作にできる可能性だってあるのだ。

なら、私は、書かないわけにはいかない。

・・・・・でも、どうすればいいんだろう。この続きって・・・

いくら、書きたいと思っても私は、書き出すことができなかった。

その理由は、『君に私の想いが届け!』という作品の終わり方ものすごく良かったからである。

「どうしよう・・・・・・」

私が困っている姿を見たからなのか、ずっと教室の扉の近くにたっていた斎藤線先生が、

「神林はなにを困っているんだ?」

と聞いてきた。

「・・・・・小説の続きが思いつかないんです、あまりにもいい終わり方をしていて」

「そっか。終わり方が良すぎてね。そのままでいいじゃんと言うところではないということは分かっているよ。だって、そのままでは良くないから今こうして書こうとしているんだもんな。・・・・・・これは俺からの提案なんだけど、終わりの全てを変えればいいんじゃないか?」

「そう、終わり方ごと変える」

「どんなふうにですか?」

「そうだな、例えば────


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