一本の楽園

 あまりの日差しに、巣鴨の駅を出てすぐに数時間が限度だと考えて、文京の方へ歩くことを決意した。千石、白山、小石川。よく知っている白山通りを避けていたら、住宅街がずっと続き、何処から何処へ通ったのかいまいち覚えていない。西片に辿り着いた時にはもうすっかり体力を使い果たしてしまっていた。ここらで終わりにするかと東京大学をぐるりと回り、向丘、弥生、池之端と歩いたところで一台の自動販売機が目に留まった。いや、正確にはその中の一本、カルピスソーダが妙に気になって仕方がなかったのである。私は徐に財布を取りだし、百円硬貨を投入した。するとどうだろう。お目当てのカルピスソーダに品切れを示す赤い表示が点いているではないか。がっくりときた私だったが、まあ、大した違いは無いだろうと隣のカルピスウォーターを購入し、喉を鳴らして缶の半分ほどを一気に飲んだ。その美味かったことと言ったら! ソーダだったなら炭酸が邪魔をして一気に飲めなかったに違いない。そう考えると売り切れていて良かったとも言える。私は残りをちびちびと飲みながら、不忍池を通って帰路に着いた。

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