ハロワールド 灰色の男の家
What are little girls made of?
最悪だ。
「死にたい。あー、死にたい。死にたい」
今日は、探し求めていたクラガリを連れ帰って、素晴らしい日になるはずだった。
それが、どうしてこうなった。
「くっそ、あの
作業机に埋もれていた
喉が焼けるが、死ぬことはない。
ただ悪酔いするだけだ。
「俺のクラガリをよくもっ」
腹立たしさに黒い扉に瓶を投げつけても、ガラスの破片が飛び散り、琥珀色の液体で汚れるだけだ。
マントを脱ぎ捨てて、寝椅子に体を投げ出してから、八つ当たりしたことを後悔する。
あの
「死にたい」
いつからだ。
いつから、天井が汚れてしまったのは。
前はもっと作業机の上も整頓していたはずだ。
この
移ろう季節もない
だが、時を数えるのもやめてしまうほどの歳月が、過ぎ去ったはずだ。
少なくとも、女王さまの面影をまぶたの裏にはっきりと描けなくなるほどの歳月が、過ぎ去ったはずだ。
埋められるものなどないと泣き叫んだ喪失感も、いつの間にか忘れてしまった。
残されたのは、女王さまが託してくれた妖精の卵と、この世界に呼び出した女神ナージェに与えられた最強の
卵から孵ったのが、
「クラガリのやつ、どうして地球なんかに……」
死のうと思えば、簡単に死ねた。
この
だが、無数の異界から転移してきた住人たちまで巻きこんでしまうのが、恐ろしい。
無数の命を奪う罪の重さに、俺は耐えられない臆病者だ。
「臆病者だったから、ジャネットと結婚したんだよなぁ」
思うのは、過去ばかり。
未来のことなど、考えなくなっていた。
所詮、未練がましく終わりを待つだけの世界なのだろうか、
一度は女王さまから離れ、女王さまの気まぐれによって妖精界に呼び戻された俺が、妖精界も失ってまだこうして生きているのは、臆病者だからだ。
「死にたい」
だが、他の命を犠牲にするのは嫌だ。
「クラガリしかいないのに、あの小娘……」
クラガリをふざけた名前で呼んでいた東洋の小娘。あのとぼけた顔を思い出すだけで、腹立たしい。
どんな手を使って、
地球に帰還するまでは、アルゴの庇護下にいるだろう。
変態のフリをするよ機械じかけの脳みそは、非常に厄介だ。
変態のフリしていた奴が、俺ですら本物の変態だと勘違いしてしまうようになったのも、いつからだっただろう。昔はもっとまともなやつだった。それがフリをし続けているうちに本物の変態になってしまったということか。そうでなくとも、アルゴは厄介な奴だというのに。
「小娘が帰還したあとで、またクラガリを回収しに行くのが無難か」
めんどくさい。
「めんどくさすぎて、死にたい」
どうせ3日後には帰還するのだから、待ってもたかが知れている。
だが、クラガリがあの小娘に懐いていることが気がかりだ。また無理やり連れてきたらきたで、この世界への順応を拒むかもしれない。
「あの小娘、なんなんだ……ん、小娘? 小娘、女、それも若い……あっ」
なぜ、もっと早く気がつかなかったのだろうか。
「そうか、小娘の純潔を奪ってしまえばいいのか!」
クラガリがあの小娘に懐いているというのなら、いっそのこと小娘ごとものにしてしまえばいい。
俺なら、小娘を妻にして
「多くの乙女たちの純潔を奪ってきた俺なら、あんな小娘など……。よし、念には念を入れて、惚れ薬も用意しておくか」
そうと決まれば、ダラダラと寝ている場合ではない。
はずみをつけて勢いよく飛び起きたのは、久しぶりだ。
「What are
What are
正直、小娘は俺の好みではない。だが、それはそれで好みのレディに育て上げる楽しみがある。
「What are
What are
緑の扉の向こうには、ホコリをかぶった薬草やガラス瓶、羊皮紙の魔女のレシピに、妻の親族たちのホロスコープなどを押しこんだ棚が、並んでいる。
「
惚れ薬などを使わなくとも、いかにも恋もしたことなさそうな小娘くらいイチコロだ。
第二の結婚生活もなかなか楽しいかもしれない。
楽しい、だと?
「馬鹿か俺は。クラガリのためだろう」
死ぬためだというのに、何をワクワクすることがある。
ふと、緑のマントが目にとまる。
「……That
女王さまの面影は忘れてしまったというのに、表情豊かで気の強いジャネットの幻影が目の前を横切る。
そもそも俺はなぜ――
「死にたいんだ?」
また、くだらないことを考えてしまいそうになる。
強く握りしめた小瓶の中の紫色の
小娘の純潔を奪い、モノにするのも手段。
「俺は、死にたいんだよ」
あの
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