小説規格にそった展開でお願いします

ちびまるフォイ

サブタイトルは小説規格に沿ってお願いします

きらめく剣筋が見えたと思ったときには、視界は鮮血の赤色でおおわれていた。


「えっ……?」


そのまま力なく後ろに倒れると、倒れた男の体に女がすがる。


「死なないで! 死んじゃいや!!」


美しい顔はくしゃくしゃに歪んで涙が倒れた男の体を濡らす。


「やっぱり……キレイだな……」


「何言ってるの!? こんなときに!!」


「いや空が……」


エルフの女にとどめを刺されると、男の意識は深い暗闇へと落ちた。

かつて、英雄と呼ばれていた男は静かに息を引き取った。

――――――――――――



第1話 神との会談




――――――――――――

目を覚ますとどこまでも広い灰色の場所に立っていた。

ひとりの白髭をたくわえた男が立っている。


「お前は、誰だ?」


「わしか? わしは神じゃ」


「奇遇だな、実は俺も神なんだ」


「なんだと。そうであったか、通りで動じなかったわけだ。納得じゃ」


「こんなステキ灰色空間で退屈であろう。これから世界創生と行こうじゃないか」


「やはり神か。その発想、神にしかできない」


2人の男は神の持つ杖を手にすると、下界を作り変えて自分たちの楽園を――

――――――――――――



『 規格違反です 規格違反です 』



どこからか聞こえてきた警告に男は当たりを見回した。



『 規格違反を検知しました。

  すぐに展開を元に戻してください 』


「て、展開?」


『 これは小説で、あなたは登場人物です。

  第1話のフォーマットに従った展開にしてください 』


「ええ!? 俺小説だったの!?」


ワープホールが開いたかと思うと、小説規格のガイドラインが落ちてきた。



第1話:神様との会話(状況確認)を済ませたら直ちに復活する。

    必要であればステータスなども数値で表示する。

    なお、転生は第2話から出すので伏せておく。

    最後は「視界が暗くなった」などの展開でしめること



ずらずらと細かい注意書きが書かれている。


「なんだよこれ……。これに従えってことか?」



『 規格に従わない場合、最悪消される可能性もあります。

  ルールと規格に沿った内容を守るようにお願いします 』



「そんな勝手な! こんなの知らないよ、そうだろ神様」


「うん、転生するしかないね」


「こいつすでに従う気まんまんじゃねぇか!!」


神様は思い出したように転生ステッキをぶん回した。

男の意識はそこで途切れて暗い闇の中へと放り込まれた。


――――――――――――



第2話 再開する地平



――――――――――――

目を覚ましたはずなのに、体は不安定な場所にあることに気付いた。


「ふぎゃああ! ふぎゃああ!」


声を出しても言葉にならない。

男は自分が力ない赤ん坊であることを自覚した。


「あらあら、ぐずっちゃったのね」


「しょーがーねーだろ、赤ちゃんなんだから」


「キャアアア!! シャベッタァァァァ!!!」



『 規格違反です 規格違反です 』



再び警告が頭の中に響いてきた。


『 第2話ではバブみを求める読者のための赤ちゃんパートに注力してください。

  不要なボケや、赤ん坊パートを省略するような展開は規格違反です 』


「ふぎゃあ! ふぎゃああ!」


男は規格の理不尽さに泣いた。

――――――――――――



第3話 الشروع في مغامرة العنوان لا تأتي



『 規格違反です 規格違反です 』


「またか!!」


『 タイトルは作中の展開を端的に表現する内容にしてください。

  規格違反のタイトルをつけた場合、自動設定されます 』




第3話 仲間



――――――――――――

なんやかんやで成長した男は食事の買い出しに出かけていた。

親元を離れてひとりで修業の旅に出てからは料理に凝っていた。


『 規格準拠を確認しました。

  主人公は家庭的な設定でお願いします 』



「ア、アレハナンダー」


なんと!! 人通りの少ない道に少女とガラの悪い男がいた!!



『 規格からそれています。真面目に展開してください 』



「やめて! 離してください!!」


「へへへいいじゃねぇかよ、減るもんじゃないし」


「減ります! SAN値が減るんです!!」


「そんなこといって、こっちは準備万端じゃねえか」


少女はガラの悪い男のふんどしを上げると太もものつけねあたりを触り始めた。


「ら、らめぇ! すね毛はえてきちゃうぅぅ///」


「良いから楽になっちまえよ。ほらほら」



『 規格からそれています。いい加減にしてください 』



ワープホールが開かれると、異次元から巨大な生物が落ちてきた。

イチャコラしてる男と女の頭をつかむとぎりぎり力を込めた。


『 規格に沿わない登場人物は規格管理者の手により

  合法的かつ一方的な削除の権限が認められています 』


「ご、ごめんなさい……」

「私もちゃんとヒロインします……」


一部始終を見ていた男はがくがくとヒザが震え始めた。


「お、お前ら、その子を離せ!」


「はい!! 仰せの通りに!!」


ガラの悪い男は何かにおびえるように少女を解放し去っていった。


「ありがとうございます、親切な冒険者様。

 どうかお礼をしたいので近くにある私の家に来ませんか?」


「いや、俺は帰って夕方アニメを――」



『 規格から逸れています 』



「喜んでお邪魔させていただきます」


男は首が落ちるほど早く縦に振った。

女はワープホールが開かないかドキドキしながら周りを見ていた。


――――――――――――



第4話 最終回



――――――――――――

水のしたたる音が壁ごしに聞こえてくる。

男はいったいどうしてこうなったのかを思い出していた。


「思い出す必要あるのかな……」



『 規格から逸れています。

  状況説明をかねての回想をしてください 』



「そう、あれは数分前。

 彼女の家についてお茶をご馳走になっていると

 最大深度7の大地震が襲ってきてお茶をかぶってしまって

 まだ余震が続く中、お風呂に入ることにしたんだった」


大変わかりやすい解説を壁に向かって話していると、

男は次に自分が取るべき行動がわかりはじめてきた。


男も小説企画にだんだんと毒されているのに気づく。


「ふんふんふ~ん♪」


壁を隔てた風呂場からは機嫌のいい鼻歌が聞こえる。


「くっ!! 誰が覗くか!! 俺は紳士なんだ!! 覗いてたまるか!!」



『 規格から逸れています 』



「いやだ!! スケベキャラにされるくらいなら、この小説を終わらせてやる!!」



『 規格に合わせてください 』


ワープホールが開くと、再び巨大な生物が現れた。

男の体を大きな手でつかむと強引に風呂場へと運んでいく。


「やめろ!! 離せ!! いやだ!! 俺はこんな展開望んでない!!」


『 規格違反です 規格に沿ってください 』


男の騒ぐ声は風呂場にも届いてきた。

姿は見えなくとも男の状況は女にもわかっていた。


「お願い! 規格に合わせて!!

 あなたがラッキースケベしないと、私お風呂から出られないの!!

 もう足とかだいぶふやけ始めてるの!!」


「だからって、覗くわけにはいかない! まだほかに展開があるはずだ!!」



『 規格違反です 興がそがれる発言は控えてください 』



男の頭を抑える力がいっそう強まる。


「なんで逆らうのよ!? さっさと扉開けてせっけんで滑って

 胸のひとつの感触を描写するだけで終わるのよ!?」


「俺は……俺は自分の意思で行動したいんだーー!!」


男は腰にさしていた剣を抜くと規格生物を切り裂いた。

生物はちりのように消え、男の体は自由になった。


「消えた……消えたぞ!! やった! 自由になった!」


「どういうこと?」


女は風呂場から出てきてはしゃぐ男に驚いていた。


「規格管理者をやっつけたんだ!

 これでもう小説規格にしばられて展開する必要はない!」


「本当!? 私たち、これで自由なのね!!」


男と女はお互いを抱きしめて、やっと手に入れた自由をかみしめた。


「でも、規格を倒してしまったら、この小説に続きはないんじゃない?

 規格に従わない小説は削除されるみたいだし……」


「かまうもんか。規格に沿って自分を殺して生き続けるくらいなら

 自分の思い通りで短く生きたほうがずっと幸福だ」


「そうね、私もよ」


永遠の愛を誓っていた2人の前にワープが開いた。




『 新しい人気作が登場しました。

  小説規格も人気作に合わせて変化します 』




――――――――――――



第5話 風呂場の血の惨劇



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『 規格準拠を確認しました

  引き続き、ハードグロテスクな復讐物語で進行してください 』

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