第11話「本日は色々と反省点が出てきました」

 一言でこのダンジョンを言い表すと、鬼畜。


 今回のツバキのパーティが例外なだけであって、恐らく他の人なら最初のリトルコボルド3体で戦力は削られるだろう。

 だがダンジョン内のモンスターと罠の配置はルーラーにはなぜか変えられない。

 こればかりはシスにしかできないのだ。


「一人しか死なんかったかあ。あのキラーアントめ、しくじりおって」


「あのクソアリ共には後ほど私が直接躾けてきましょう」


 こういう言葉を聞くとやはりコイツラは魔族だと再認識するな。


 帰還ロビーに行って、彼らが来るのを待とう。

 とはいえ、3時間は彼らは戻ってこない。

 暇だ。

 これは店舗運営方法を変えないと、非効率的だ。


「令司ーもう夜なんじゃが、ご飯はまだかの?余は働きすぎてお腹ペコペコじゃ。労働のご褒美として今日は豪勢な食事を用意してくれー!」


 お前のどこが働きすぎなんだよ。

 ただ突っ立って、画面みてベルゼとぺちゃくちゃ雑談してただけじゃねえか。


「おい、令司。お前は今日私達の高尚な胸をのぞき見たんだ。非礼の詫びとして相応のご馳走を作れ。私はパスタというものが食べたい」


「ダメだ。まだ客がいる。客が帰るまでは店から離れることはできない」


「なっ!ではあと3時間もこのまま突っ立っていろというのか!?あんな低級霊長類の方が魔族より大事だと言うのか!?」


「うるさいわ!俺だって腹減ってるが我慢してるんだよ!この時間だって店内の清掃やら今後の対応を考えたりと色々やることがあるんだよ!お前らも掃除を手伝え!」


「そ、掃除など魔王がするわけないだろう!副オーナーがこんな制服を着て探索者を迎えているだけでも有難く思え!」


「あーはいはい、そうですねー。じゃ、俺はまだすることあるんで」


 埒が明かないので無視して掃除を始める。

 シスがベルゼを落ち着かせている。


 このまま働いたら、俺何時間労働するかわかりゃしないな…。

 人員を増やしてシフト制を設けないと。

 あの見てくれだけしか取り柄のない魔族はてんで役に立たんし。



 3時間が経過した。

 ロビーの帰還ルームへと繋がる扉が開いた。


「おかえり。ダンジョンはどうだったかな?」


「すごかったよ!本当に魔法が使えるんだもん!また行きたい!」


 タンポポが元気溌剌に感想を述べた。


「すごいわ。この力ってダンジョンから戻ってきても使えるのよね?」


「ああ。レベルが1上がるだけで普通の人間の限界を超えた力を得られるんだ」


「私は死んで戻ってきたのですが、なにか、副作用のようなものはないのでしょうか?」


 ウメがじっと俺の目をみて問う。


「心配ない。ただ死ぬとその階で得た経験値の3割が消失する。ウメさんは2レベルになった後の取得経験値から3割がなくなったってことさ。あとはパーティが全滅すると、その階層で上がったレベルと取得経験値、アイテムは消失するから注意が必要だ。要は一人でも生き残って帰還すれば最小のデスペナルティで済むってことさ」


「そうなんだ。じゃああの時のウメの判断は賢明だったのね。ありがとうウメ」


「いえいえ、私ももう少しワークマンとしてTPの使い方を覚えていかなければいけません」


「では、アイテムボックスの中身を確認しよう。このうちの3割を探索手数料としていただくルールだからな」


 4人のアイテムボックスを表示する。

 そのうちの魔石をいくつか徴収する。


 他には……ない……。


 なんだこれ?

 ぜんっぜん儲からないぞ!?


「………これでオーケーだ。HP、MP、TPは一晩寝ないと回復しないから今日はこれで終わりだ」


「色々ありがとう。また挑戦したいけど、国に帰らないといけないから失礼するわ」


「あの…夜ですが、どうしましょう…?」


「そっか、もう夜なんだ。ねえ店長さん、宿泊施設は近くにある?」


 宿泊施設!

 これまたうっかりした!

 そうだよなーこんな時間になって帰るってなっても困るよな。

 また反省点ができた…。


「す、すまない…ないな…」


「そっかー。じゃあ仕方ないか。その辺りで野宿しようよ、ツバキん」


「そうね。店長さん、この辺りでちょっと一晩過ごすから土地貸してね」


「あ、ああ。こちらこそ不便をかけて申し訳ない…」



 翌日、彼らは国に帰っていった。


 さて、反省会をしよう。

 といっても、実質一人だけの、な!

 カウンターで反省点を精査しよう。


 この店の名前。

 探索料の設定。

 探索者がダンジョンに入っている間の業務調整。

 宿泊施設。

 そして儲からない!ということ。


 反省点を書き連ねていく。

 店の名前?どうでもいい。

 こんなのは後回し―


「この中じゃ、最も大事なのは店名じゃな!」


「ちっげーよ。んなのどうでもいいわ。ってかお前は向こうで料理本読んでろよ」


「シス様、店名はシスベルゼとかいかがでしょう!?非常に厚かましく申し訳ないのですが、やはりシス様の家臣である以上、私の名も入れるべきではないかと!」


 俺の真横で二人で店名談義か。

 なぜ一人で考えたいのに、こういう時に限ってしゃしゃり出てくるのか…。


「なぁなぁ、令司ー。店名を決めようぞ。なぁなぁ」


「ええい、俺の袖を引っ張るな。決めるから、他の反省点の解決策を考えたら決めるから。だから協力してくれ」


「よ、よし!では早く他の反省点を解決するのじゃ!」


 この世界には5カ国ある。

 単純計算で通貨は5種類あるということだ。

 一人日本円で1000円くらい取りたいな。


「シス、世界の通貨早見表とかないか?」


「そんなのないぞ。適当でいいじゃないかの?壮絶な力と能力を得ることができるダンジョンなんじゃ。それなりの対価を要求しても問題ないじゃろ。ふっかければよい」


 まあ、極論ではあるがもっともな話だ。

 コイツ、たまにはいいことを言うな。

 ただ現時点で高い料金設定をするのはよろしくない。


「ベルゼ、人型の魔族を各国に忍び込ませて、通貨価値を調べてもらえないか?」


「おい、ミジンコ。私はお前の下僕ではない。私に願うのなら、相応の態度を示せ」


 コイツに頼むといつもこうだ。

 だ、だがこれは重要なことなんだ。

 俺が億万、いや兆万長者となるための!


「べ、ベルゼ様、どうか何卒お願い致します…」


 頭を下げて頼む。


「はは、はははははは!そうだ!私は魔王ベルゼ!ようやく私に対しての口が聞けるようになったな!まあまだまだ足りないが今回はいいだろう!よし、すぐに部下を送り込んでやる」


「ベルゼ!お前すごいの!あのひねくれイジワル男を平伏させるとは!さすがは余の忠臣!」


 ベルゼはにこっと微笑み魔界へ戻っていった。


「よし令司!この余にも平伏すが良い!余は大魔王!ベルゼの主であるぞ!あっはっはっは!」


「ええと、次は業務調整だな。シフトをどうするかな…」


「お、おーい!令司!早く平伏すのだ!」


「うるさいわ!ベルゼ以外の他の魔族を動かせないお前に平伏すとか、ないわー!大人しく料理本でも読んでろ!この穀潰しが!」


「ふぁあああああ!!なんでじゃああ!!なんでなんじゃああ!!」


「だあああ!抱きつくな!俺は忙しいんだ!!平伏してほしければ、店舗運営に必要な人員を確保してこい!」


「だってええ!だってえええ!!平伏してほしいのじゃああ!!お願いしますうう!!」


「お願いしますって言われて平伏させるとか、なんかおかしいぞ!!痛い痛い!わかったから平伏すから!今回だけだからな!」


「うん!!」


「シス様~ははぁ~」


 膝をついて頭を下げる。

 ベルゼには膝をついてなかったからシスも優越感に浸れるだろう。


「ふぁああああ……いいのう…いいものじゃのう~最高、じゃ!」


「さて、シフトシフト……ってだめだーー!人が足りない!俺このままじゃ24時間オールデイじゃねえか!どこかで人を集めないと俺、死んでしまう!うん、営業時間を決めよう、そうしよう。いやーダメだ!ダンジョンから探索者が帰還してくる時間に制限はつけられない!あーどうしたらいいんだーー!」


「あっはっはっは!困っておるの、令司!そんな時は余に頼るがよ―」


「そうだ!ヘイさんに相談してみよう!」


「ちょ!ちょっと令司ー!余は!?余はああ!?」



 結果は、ダメだった。

 建築にしか興味ないんだって。

 そりゃそうだよねー。


 どうする?

 またベルゼに頼むか?

 いやいやいや、これ以上あのハエ女に頼んだら、上下関係が逆転してしまう!

 料理は武器だ。

 だが、人材がいないと俺が死ぬ!

 そして儲からない!

 以上から導き出される結論はただ一つ!


「辞めよう」


「ちょーーー!何言ってるのじゃ令司!!何が不満なんじゃ!?」


「全部だよ!人材もいない、儲からない、過労死シフト!どうすれってんだよ!このまま24時間ワンオペとか、ブラック飲食よりひどいわ!日本の闇を異世界にまで持って来るとかないわー!」


「全く、頭を使えばいいじゃろう。お前は何じゃ?ルーラーじゃ。ルーラーの能力を応用できずどうする。要は営業時間の問題じゃろ?まず開店時間は調節できるな。だが探索者の帰還時間が調整できないと。じゃったら、帰還ルームに出入り制限結界を使えばいい。出入りできる時間を設定すれば、自由に帰還ルームから出入りすることはできんじゃろ?」


「な…なんだと……?あの食っちゃ寝優勝候補のシスが…すげえ策を提案してくるとは…」


「く、食っちゃ寝は余計じゃ!」


「た、たしかに俺の能力に結界魔法がある。そうか!それで乗り切ればいいんだ!」


「あっはっはっは!余に感謝するがよい!!さあ!今宵は余を称え、ご馳走を振る舞うのじゃ!そして膝まづき頭を垂れよ!あーーっはっはっは!」


 ぐっ!

 コイツはまた調子に乗りやがる!

 それさえなければ俺は素直に感謝の意を表するのに!

 だがしかし、まあ今回はいいだろう。


「ありがとうございますぅ~シス様~」


「ふぁあああああああ!!ぞ、ゾクゾクするのぉおおお!そうじゃ!余は偉いのじゃ!大魔王なのじゃ!今後も忠義に励めよ、令司!あーーっはっはっは!」


 うん。

 いつか仕返ししてやろう。


「おおおおおおお!シス様もこのスケベ類人猿を平伏させたのですね!!素晴らしい!さすがは私の絶対主様です!!」


 くああああ!

 よりによってこんな時にベルゼが戻ってきやがったあ!


「おい、下等生物、そのまま平伏せ。調査してきたぞ。これが調査結果資料だ」


 ベルゼは資料を無作法に投げ飛ばした。

 このクソバエが!

 ちょーっとばかし役に立つからっていい気になるなよ!


「あ、ありがとうございますぅ。ベルゼ様」


「はははははは!やっとまともな生物に進化してきたな!はははははは!」



 ヘイさんに宿泊施設建設やダンジョン屋店舗拡張を相談する。


「ヘイです!」


 すっげえやる気だ!

 さっきの接客のお願いとは段違いだ!


 看板に営業時間を追記する。

 営業時間は10時から17時まで、と。

 聖魔の大樹に至る一本道の所に出入り制限結界を張る。

 これで営業時間外に客が来ることはない。


 で、帰還ルームにも結界と張り紙を張る。

 帰還受付時間は9時から18時まで、と。

 時間外に帰還した客はそこの上階に仮宿を増設。

 一晩過ごしてもらうことにする。


 従業員を雇うレベルになるまではこれで頑張るか!


 銭湯の工事進捗について確認する。

 どうせなら思い切って温泉にするのだ。

 露天風呂に檜風呂、サウナもいいなあ。

 現在の進捗は60%程らしい。

 初めての施設だからかなり苦労しているという。

 だが楽しいらしい。

 楽しいならいいや。


 そしてシスとベルゼの住居だ。

 どうせ小さいと、「こんな家は余に相応しくない!馬小屋にも劣る!」とか「魔王である私を舐めているのか、この下等生物が!」とか言われるからな。

 時間がかかってでもいいから、高級な造りにしてほしいとヘイさんにお願いしている。


 ってか、ベルゼの奴、魔界に戻れるんだから帰れよな。

 毎晩毎晩俺の部屋で寝やがって!

 ああ、あれが性格超かわいければ言うこと無しなんだがなあ。

 俺の部屋は魔族に占領され、少し前からはカウンター裏の従業員スペースで寝てる。


 だが!

 現在建設中の俺の住居はもうすぐで完成する!

 ……

 …………

 今日は客、来なかったなあ…。


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