第10話「本日はダンジョン屋としてちゃんと仕事しました」

◆◇ダンジョン探索者ツバキ視点◆◇


 ロビーから25メートルくらいの通路を渡り、扉を開ける。

 すると割りと広い部屋に大きな木の両開き扉が立っていた。


 あの店長の言うことはすごく胡散臭いけど、探索者カードの仕組みとか手から火を出していた事実をこの目で見ると、真実にも思える。


「みんな、準備はいい?」


「オッケー♪」


 妖精族のタンポポの緊張感の無さには毎度毎度苦労させられるけど、今回はいいムードメーカーとして役立ってくれてる。


「ほ、ほんとに…行くんですか…?」


 エルフ族のレンゲは救護員としてずっと一緒にいる。

 内気で自分に自信がないのがたまにキズだけど、医者としての腕は確かだから、今回のダンジョン探索では期待してる。


「皆さん、慎重に行きましょう」


「ええ、そうね。ウメ。冷静な状況判断をいつも通り期待してるわ。じゃあ行くわよ!」


 私は民主国家コチョウの戦士。

 ここでその人知を超えた力というものを習得し、侵略を続ける帝国クシャーを打ち倒す!



 ダンジョンに入り、オープンと言う。

 すると本当に目の前に不思議な絵と文字が表示された。


 これがウィンドウというやつなんだ…。


「あの店長の言ったことは嘘じゃなかったってことね」


「うわあ、あたしのステータス低すぎ!」


「もう私の理解を超えてて……」


「ふむ…ということはモンスターという怪物も本当に出現するということですね。レベル1では探索スキルという能力は使えませんので、ゆっくりと前後上下に目を配らせながら進みましょう」


「まっほっう!まっほっう!」


「ダメよタンポポ。静かに進まないと」


 石造りの通路を歩いていくと、聞いたこともない耳をつんざきたくなる叫び声がこだました。


「「「グギャギャギャギギギ!」」」


「何か来たよ!?」


「私とウメは前衛!タンポポとレンゲは下がって、チャンスと見たらダガーで攻撃!」


「敵は三体!ツバキ殿、槍突きへの対処を!」


 醜い緑のモンスターめ!


 槍先の動きをしっかりと捉えて鉄の小盾で突きを流す。

 そして敵の腕を剣で切り落とした。


「いける!槍の動きは単純よ!懐のナイフに気をつけて攻撃!」


 ウメはワークマンというクラスを選択したが、本来は戦士。

 こんな素人の武術なんて容易く対処できるわ!


 3体のモンスターは死に絶えた。


「あの…死体の上に文字が表示されてて、『ゴブリン』って…」


「これって名前じゃないのかな?」


 死んだら名前が表示されるんだ…。


「え!?光の泡が!」


 死体が消え、赤く柔らかく輝く小さい宝石が現れた。


「うわ!これって宝石かな!?」


「魔石、というものではないでしょうかね」


 触ると消えて、目の前に『魔石を入手。アイテムボックスに収納されました』と文字が浮かび上がった。


 ヘルプを読む。

 魔石は魔力の結集体。

 モンスターの素材で製作する装備や道具に魔力を付与することができる。


「貴重なもののようね」


「あの店長の言っていたことは本当なんですね……これで死んでもちゃんと生き返る…よかった……」


「そうね。さあ先を行きましょう」


 向かって右に扉を見つけた。

 静かに開けると、正方形の大きめの部屋につながっていた。

 石壁にはランタンが灯され、明るい。


「左右にも通路がありますな…。この部屋は挟撃されやすく、長居は無用です」


「そうね―あっ!タンポポ何をしてるのよ!」


 タンポポが部屋の角の木箱を開けていた。

 すると遠くで走る足音が聞こえた。


「何か来ますぞ!」


「みんな、扉から通路に戻って!敵よ!」


 急いでもと来た通路に戻り、扉を締める。

 途端、モンスターが扉に体当たりをし始めてきた。


「みんな耐えて!」


 私達全員で扉を開けさせないよう必死に力を入れる。


「ツバキーー!何とかしてーー!」


「誰のせいで…こうなったと思ってるのよ!」


「ツバキ殿、ツバキ殿は一旦離れてくだされ!私達が少し力を緩め、扉が開きモンスターが体を出したところを剣で!」


 さすがウメ!

 コチョウで長年戦士長を務めていただけのことはある!


 3人が扉への力を少し緩める。

 扉が少しずつ開き、モンスターの顔と手が出てきた。


 そこを剣で突き刺す!


「ギギャーーー!」


「よし!いけるわ!」


 何度も突き刺す!


 2体が扉にもたれかかりズルズルと倒れていった。

 名前がリトルコボルドと表示された。


 死んだようね。


 すると扉に大きな衝撃が走り、3人が転げた。

 どうやら勢い良く体当たりしてきたらしい。

 次々と扉から出てきたリトルコボルド。


「だけど私はこの瞬間を逃さない!」


 扉から出てきた瞬間は隙きがある。

 それを狙って、斬撃!


 ウメもたちまち起き上がりそのまま戦闘に移行した。


「ハァ!ハァ!ハァ…!どうやらこれで全部のようね」


「6体もいたんだね。危なかったー…!」


「タンポポ、ここでは勝手な行動は慎むこと、いいわね!?」


「ごめんなさい……」


 突然眼前に『レベルアップ!』という文字が表示された。


「レベルが上がったの!?」


「あ…私も上がってます」


「あたしもだ!」


 どうやら全員2レベルになったようだ。

 レベルが1上がることでステータスとスキルにポイントが入ると言っていた。


「ちょっとステータスとスキルポイントを使ってみようかな」


「そうですね。ここは使い切って戦力の底上げを図りましょう」


 私は筋力に3、俊敏に2振ろうかな。

 闘気も捨てがたいんだけど、でも最初は敵の攻撃を避けることも必要だし。


「あたしは…魔法を使いたいから……魔力に全振り!」


「私は……精神力に3と魔力に2にします」


「ふぅむ。ワークマンとしては第六感は外せませんな…ただ器用と俊敏も…2、2、1ずつ振りましょう」


 次はスキル。

 サークルスラッシュとラピッドスタブの2つ取ろうかな。

 ステータスに新しく【TP】という項目が追加された。

 ヘルプを読むと、TPは技を使うためのポイントらしい。


「あたしはファイアーボールとアイススパイク!ふふふふふ!あたしのことを今から両元の使徒と呼ぶがいい!」


 タンポポ…いたい…。


「じゃあ…私はヒールとキュア」


「罠感知と敵感知ですな。これでこの先の危険察知は任せてくだされ」


 技や魔法を使用するときはその名前を言うだけで発動するらしい。


 皆を集めてここで少しこの先の作戦を立てることにしよう。



◆◇宮洞令司視点◆◇


「こやつらは前の4人と比べると明らかにまとまっていて戦略に長けているの。ああ、こういう奴らの負感は非常に美味なのじゃ。どう死ぬか楽しみじゃ!」


 エミールで映し出されている画面を見ながら、シスが恍惚の表情を浮かべている。


「この下等生物らはリトルコボルドが襲い掛かってきた時にあの大部屋で戦わず、扉からちまちま攻撃してましたね。やはりゴミ生物だけあって戦い方が卑怯です。さっさと殺されればいいものを」


 言うことが辛辣すぎだよ、ベルゼさん…。


「確かにあんな戦い方をするとは意外じゃった。あそこで2人は死ぬかと思ったんじゃがの。あのリーダーのツバキという人間はなかなかやりおる。これはひょっとして勇者クラスを発現するやもしれんな」


「ん?ちょっとまってくれシス。そんなクラスはルールブックには書いてなかったぞ。初級、中級、上級クラスの3クラスだけだったはずだ」


「ふっふっふ、何事にも例外と応用はあるのじゃぞ、令司。クラスにはスペシャルクラスが存在する。一定の条件を満たすと発現するのじゃ。個人によって発現するクラスは異なり、スペシャルクラスは持って生まれたその者の素質に大きく影響するのじゃ」


「マジかよ。その例外と応用が記載されたルールブックはないのか?」


「ないぞ。例外と応用など無数にあるからの。まあ余は全部覚えているけどなぁ~?」


 ドヤ顔で俺を嘲り笑うシス。

 くっ。


「じゃから令司!余を敬え!余を甘やかせ!余に贅沢をさせよ!ルーラーとしての知識を余に今後も教授されたくば、今までの態度を改めるがよいわ!あーはっはっはっは!」


 この女!

 すぐに調子に乗りやがる!


 だが、ここは華麗にスルーしよう。

 今はそれどころではない。


 そう。


 おっぱい、だ!!


 俺の両サイドには前傾姿勢でダンジョン画面を見ている美女がいる!

 前傾姿勢、つまり、おっぱいがチラチラ見えるのだ!

 チラッ、チラッ。

 先端は見えずともシスの小ぶりなそれなりに柔らかいおっぱいがいっちょ前に谷間を作っている!


 そしてベルゼ。

 うん!いい谷間だ!

 胸元が大きく開いているからギリギリのところまで見―


「お、おおおいい!!この異常者が!また胸を見ただろおお!!」


 ベルゼのやつ!

 気づくのが早すぎだ!


「な、なななんじゃとおお!?このクソルーラーが!不届きにも程があるわ!!」


「み、見てないし」


「嘘じゃ!その言い方は嘘に決まっておる!」


「み、見てないし!シスのちっぱいなんて見てないし!」


「ぬあああああああ!?今なんて言った!?ちっぱいと言ったな!?ちっぱいじゃないわ!これから成長する高貴な胸なんじゃああ!!」


「さーて、俺はコーヒーを入れてくるからー!」


「あ!逃げおった!!なんてやつじゃ!」



◆◇ダンジョン探索者ツバキ視点◆◇


 タンポポが開けた木箱には小瓶が3本入っていた。

 アイテム名は小ヒールポーション。

 これを飲むとHPが一定量回復するらしい。


 木箱のあった部屋から左右の部屋には何もなかったため、通路に戻り先に歩みを進めた。

 少し進むと今度は円形の大部屋に差し掛かった。


「いかにも、という部屋ですな。私の罠と敵感知スキルを使います」


 そう言い、ウメは目を閉じた。


「どうどう?ウメしゃん?」


「この部屋の上に穴が空いてますね。あの穴に10匹のデビルコウモリというモンスターがいます」


「10匹!?なんなのよ、その初見殺し的なやつは!」


「か、帰りましょう…今度は無理そうですよ…?」


「ヤだよ!あたしの魔法がまだ火を吹いてないし!」


「そしてこの先の扉には罠が仕掛けられています。恐らくは開けた瞬間に作動するものかと」


「どんな罠なのかはわからない?」


「はい。罠感知スキルレベルが1だからなのでしょうか。スキルもレベルがあるので上げればわかるかもしれませんが、現状既にポイントはありませんので…」


 思案する。


「多分だけど、あのリトルコボルドを倒してレベルが上がったってことは、ここのデビルコウモリもそれに合わせた難易度だと思うの。うまくいけば倒せるんじゃないかしら。レンゲのヒールもポーションもあるし、うまくやればいけるはず」


「あたしの攻撃魔法もあるよ!」


 攻撃魔法には詠唱時間が必要らしい。

 タンポポの今習得している魔法は10秒。


「行くわよ。作戦はこうよ―」


 何だか興奮してる。

 こういうの、嫌いじゃないみたい!


「行くわ!作戦開始!」


 私達は一斉に左の扉前に走った。

 穴から翼音と共にデビルコウモリが飛んできた。

 扉前に身を構える。

 タンポポの詠唱が始まる。


「今よ!」


 私の合図と共にウメが扉を開け、私達は一斉に扉から離れた。


 突如大きな鋭い木杭が扉から勢いよく突き出し、扉前に飛んできたモンスターを数匹貫いた。

 あぶなっ!


「我は両元の使徒!この身から溢れ出るは炎の妖精!燃えつくせ!ファイアーーボーール!」


 何か余計な一言二言があったんだけど!?


「「「ビギャアアアア!」」」


 3匹が焼け死んだ。


「次は私、ツバキが相手よ!」


 ああ、私もなんだかんだでノッてるなあ。


 足に力を入れ踏み出すと、うそのような早さでコウモリの前に出た。

 これがレベルアップした力なの!?


「サークルスラッシュ!!」


 剣を片手に大きく腰をひねって繰り出す回転斬り!


「「プギャアアア!」」


 ウメは軽やかに身を躱しながら、モンスターを切りつけていく。


「そして!ラピッドスタブ!」


 だが突きは躱される。


「なっ!突きはだめなの!?」


 なら、私の俊敏と筋力で倒す!

 明らかに人の能力を超えた身体能力で少し傷を受けながらも残りのモンスターを討った。


「やったーーー!!勝ったーーー!」


「お見事です!皆さん!」


「ハァ…ハァ…怖かったぁ~…」


「ふぅー!なんとかやったわね!」


 デビルコウモリからは魔石と翼が3個ドロップした。


「レベルは上がらなかったわね」


「あ、ツバキさん、怪我してます…。私ヒールしますね」


「ありがとう、レンゲ。よろしく頼むわ」


 ここにも常識を覆す神秘をみた。

 ヒールで傷が癒え、HPも回復したのだ。


「すごいわね、このダンジョンって。あの店長とかわいい店員は何者なのかしら…」


「……そうですね。人外か悪魔の類といっても言い過ぎではないでしょうな…」


「ちょっとウメしゃん、怖いこと言わないでよー」


「ま、今は先に進もうかしら。みんな行ける?」


「問題ないよん!」


 そこから先は迷路が続いていた。

 ウメの罠と敵感知を使いながら進んでいく。

 モンスターはゴブリンやリトルコボルドが数匹道中に現れた程度だった。


「む、この先は罠が3つあります。そして言いにくいことですが、私のTPはもう切れてしまいました…」


「そっか…じゃあここからは感知スキル無しでってことか…」


「も、もう帰ってもいいのではないでしょうか……何か嫌な予感もします…」


「えーー!まだあたしは進みたいなー!危なかったら帰還アイテム使えばいいんだし」


 私は……進みたかった。

 血が騒ぐのがわかる。

 危険だとわかってはいるんだけど、抑えられない何かが自分を突き動かす。


「もう少し…進んでみましょう。大丈夫よ、帰還アイテムもあるんだし」


「ツバキ殿がそう申されるのであれば、私はついていきましょう」


 罠が3つ。

 大きな丸石をそこに投げてみる。

 ズシャン!

 下から何本もの槍が飛び出てきた。


「こ…怖いです…」


「これまた物騒な罠ね…」


 罠を避け、作動しながら進むと、途中から石壁がはがれ落ちており、そして荒い土壁の部屋が見えてきた。


「うわー…何かでてきそう…あたし詠唱の準備しておくね」


 私とウメが忍び足で進むと、突然キキキキッという声が発せられた。


「こ、これはまずいですぞ!!」


 そこには10匹以上はくだらない巨大な人型サイズの黒いアリがおり、そして襲い掛かってきた!


「な、なんて数なの!!ラピッドスタブ!!」


 瞬速の突きを何度も巨大アリに浴びせるが、それだけでは倒れなかった。


「甲殻が固すぎ!」


「我は両元の使徒!炎の妖精として命ずる!灰となれ!ファイアーーボーール!」


「だからその余計な言葉はいるのかな!?」


 大きな火の玉が直撃したが、1匹しか倒れなかった。


「こ、こここれは無理ー!みんな撤退!撤退!」


「このアリは足が早い!私が囮となりますので、皆さんは脱出を!」


「ウメ!!ダメよ!あなたも逃げるの!」


「逃げても追いつかれます!早くこの場から帰還を!」


「ウメしゃん!死んじゃうよー!」


「心配無用です!死んでも生き返るようですからの!さあ早く!」


「ウメ!ごめん!私が先に進もうっていったばかりに!」


「ツバキさん、ここは逃げましょう!全滅したらどうなるかわかりません!」


 レンゲの言う通りだ。


「わ、わかったわ!帰還する!ダンジョンバック!!」



 帰還した先はダンジョン屋の建物内だった。


「レンゲ、タンポポ、いるわね…よかった」


「あーどうなるかと思ったーあのアリやばいよ」


「あの、皆さん、この青い玉に数字が表示されてます…残り179分って…」


「これは…死んだら復活に3時間かかるって意味かしら。時計なんて国の時計台にしかない巨大なものだからわからないけど、1時間は確か60分って聞いたことがあるから、計算も合ってるわね」


「では…ウメさんは死んだということですか…」


 そうらしい。

 もっと私は周りを見て状況判断力を養わないと…!


「ご丁寧にこの部屋には椅子もあるし、待ってようよ」


 私はレンゲとタンポポで3時間この部屋で待つことにした。


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