新人歌手

新人女性歌手 20代前半

それはXmasパーティーの時でした


お客様の1人が余興にと

新人の女性歌手を呼びました

カラオケで盛り上がってた最中に

歌手到着


アンプとかいろんな機材を店内に運ぶのでカラオケは一時中止

まだデビューしたてらしく本人とマネージャーの男の2人だけ


機材を運ぶのはマネージャーただ1人…

ママに挨拶をしたのもマネージャー

歌手は隣りで頭を

ペコッと下げただけ


セッティングにはかなり時間を費やしていた

ママちょっとイラつき始めた


さてやっと歌手登場

歌の前にご挨拶


「今日は呼んで下さってありがとうございます年末のお忙しい中…こんなに沢山のお客様が集まって下さってお店も大繁盛ですね」


すると静まり返った店内に独り言の様なママの声が響いた


「お前に言われたくねーよ」

全員固まる


しかし歌手さん

聞こえないふりをして歌に入った


曲は昔流行った歌のカバー曲

歌詞を変えて歌っている


これ…絶対売れない

素人でもわかるよぉ

曲名出したぁい


事務所のこの歌で売りだそうという主旨がわからない

それも…

正直言って…


歌…

上手くない


お情けの拍手の中

2回歌いました


と…ママ…

「うちのキャサリンの方が上手いんじゃないかい」

言ってはならぬセリフを言ってしまった

凍り付いた空気などお構いなしのママ…


「あんた歌ってごらん」

キャサリンに同じ曲を歌えと命令


さすがのキャサリンも

これには戸惑いを隠せない

ここで同じ歌は歌えないでしょ……


が…

ママの暴走は止まらない

「NaNaカラオケ入れな」


この歌はダムに入っている

歌手さん自ら

「ダムに入ってるので機会があったら歌って下さい」

と 言ってしまっている…


ママの命令は逆らえません

カラオケ入れちゃいました


曲が始まった…

仕方なく歌い出すキャサリン


確かに…キャサリンの方が上手い

伊達に某素人のど自慢の予選までいったわけじゃない(笑)

店も盛り上がってるし

歌手さん苦笑い

歌手を呼んだお客も苦笑い


曲も終わり拍手喝采

さすがのキャサリンも苦笑い

ついでにNaNaチャン苦笑い

みんなが苦笑いの中

歌手さんも引上げの時間


良かったこれでこの凍り付いた空気から解放されるわ

と…肩をなで下ろしたのも束の間


マネージャーさんからご挨拶

「今日はありがとうございました

楽しいパーティーの最中

お邪魔してすみません

あのぉ~もしよろしかったら…今日CDを持って来てますのでいかがでしょうか?もちろんサインもおつけ致します」

CDと色紙を持った手を上にあげた


店内…シーン

誰も何も言わない


えっ

誰も買わないの?

いくら何でも可哀相だよね


それよりも呼んだお客さんの

顔 つぶす事になっちゃうよね

ど…どうする?

この場の雰囲気悪過ぎ


「あたし1枚買おうかなぁ」

1番に声をかけたのは

キャサリンだった


キャサリン優しいね偉い!

続いて私も手をあげた


その声をきっかけに

お客様達も

「記念に貰おうかな」

何人か言い出した


と…また悪魔の声が

「無理に買うんじゃないよ」


はい

ママです


「心に響いて いいなぁ と思ったら買えばいいさ!だけどお情けで買うんじゃないよNaNaたかが千円位かも知れないが…千円稼ぐのが大変だって事あんた達がよぉーくわかってんだろ」


「大体ね入って来た時から気に入らないんだママに挨拶もろくに出来なくてさ、歌って買って貰うのはあんただろ?」


ついに歌手さんに説教を始めてしまった

誰かママの口をふさいで下さぁい


たまらずマネージャーが詫びを入れる

が 酔ってるママは聞くはずもない


「マネージャーだかなんだか知らないが売り出したいなら回りの人間がもっと教えてあげなきゃダメだろ」

歌手を見るママ


「歳とった歌手ならふざけろ!で終わるけど

あんた若いから教えてあげるわ!」


「買って欲しい!

売れたい!稼ぎたいなら!自分で挨拶をして自分からお客様に頭を下げて頼むのが常識だよ」


「他では買って貰ったのかも知れないがうちの店では無理だねこれも勉強だよ!ママにむかついているだろうけど

こういう時もあるんだと諦めて帰りなさい」


もう…誰もママを止められない



「もうひとつ教えてあげる

この写真見てみなさい」

指をさしたのはママと写っている大物女優


「この人通りすがりに店に1度来たきりなんだけどその年の暮に店にディナーショーのハガキが来たの

もちろん何万もするのよタダじゃないわよ」


「店に来てくれたお礼にと

行ったらテーブルを回って来た時に(あら○○さん来て下さってありがとうございます)ってママに挨拶をしたのよ

それも(ママ)じゃなく1度教えた名字でね」


「それ以来何十年も年一回行ってるわ

その度に挨拶をしてくれる…フラリと立ち寄った場末のスナックのママでも覚えてくれている

たったそれだけの事でもうれしいもんなのよ」

ママ…涙ぐみ話し始めた…

早く誰かママをとめて~


その思いが通じたのか

やっと中に入って来た男

それはシャル・ウィー・ダンス男

そうママの親戚の人でした


「ママもうわかったから

これ以上ほっとくとドンドン昔話になっちゃうからな」

と 割って入ってくれました

ブッブッ言いながらも素直に引き下がったママ


そしてシャル・ウィー・ダンス男

CDを1枚買いました


結局

さんざん説教されてたった1枚しか売れなかったCD…

これも芸能界で大物になる為の試練だと思って我慢して下さいね


すみませんでした

でもね

買ったCDとサイン


今でもちゃんと店に飾ってありますよ

「あんなに文句言ったのに

口答えしなかったから

飾ってやる」

byママ


こんなママですが

良い所もあるんですよ


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