第40話 この胸の高鳴りを

 地理はダンマルの奴が脳内に送ってくれたし。

 おおよそではなくて確実に大丈夫だ。

 しかし。でもだ。


(俺の、……娘か)


 40手前で知っちまった現実だ。

 怖い見たさってのはあるにはあんのな。

「どうかしたのか!? フジタっ!」

 和泉が少し遅くなった俺に、心配そうに聞く。

 この王女様は、一刻も早く――統治している王国ここから逃げ出すんだ。

 俺なんかと添い遂げる為なんかに。実の娘を身代りにだぜ。

 なんて非道な母親もいたもんだよ。


 虎視眈々と、この機会を待ってたんだろうな。

 俺が来ると――踏んでだぜ?


「別っっっっにぃい。きちんと掴まってなさいよぉう、和泉ちゃんンん‼」


 なんの保証も、確証もないってのに。

 その日を夢見て少女だった彼女は、大人になった訳だ。

 なぁ。

 どんな気持ちで娘を育てたんだよ。


 女王陛下様は。


 俺の娘を。

 なんだって思ってんだよ。


 こう胃がムカムカと沸き立つような、この感情はなんだっていうんだ?

 今までに味わったことのない――なんかだ。

 

 苛立ったまま、俺はタクシーへと着いた。

 後部座席に和泉を放り投げた。

「ちょっと。待ってろ!」

「!? んな゛っ‼ ぉ、おぉい!?」

 驚きの表情で俺を見て、腕を伸ばす和泉を無視して。

 俺はタクシーのドアを閉めた。


「ダンマル! 自動走行だっ!」


 俺は耳に装着したイヤホンで、遠方にいるダンマルに指示をした。

 聞えたダンマルも、何も聞き返さずにエンジンを掛けてタクシーを走行させた。

 動き出したタクシーと、残る俺を窓から目を大きくさせて俺を見て。

 大粒の涙を流す和泉ちゃん。

 俺もバイバイと指先を振ってやった。

 するとだ歯もむき出しにタクシーの窓を叩きやがった。

 まぁ、どんな力にも決して割れない窓ガラスだ。

 存分に叩きゃあいいさ。


「さぁー~~てっと」


 俺には俺の仕事があんだ。

 この先も、ここで仕事をする為にさ。


「挨拶に参りましょうかぁ~~新女王陛下様の元にさ」


 ああ。

 ぞっくぞくすんねぇ、こんな気持ちは――……


「っふ、……っはっはっは!」


 皆殺しにした、あの一件以来久々だ。


 肌がザワつくったらねぇのな。

 武者震いなのか、それともこれは。


「小娘相手に、この俺ともあろう40手前の男がだぜ? あー~~おっかしぃい~~」


 まぁ。どうだっていいさ。

 逢えば分かるさ。


 なぁ、そうだろう? ダンマルちゃん、親父……


 ◆


 しかし。

 割と王宮内ってのは警備が厚いのな。


 そりゃあ、そうだよな。


「○×△‼」

「◇$#×△っっっっ‼」


 悪いんだけど、ちょっとばっかし寝ててくんねぇかな。

 でもって反撃なんかしてくれんな。俺ぁ、手加減が出来る程の平常心ってのが、今はねぇんだわ。

 痛みすらそこそこで、針先が肌に当たる感覚程度の人間なんだよねぇ。

 宣戦布告をしたのはあンたの頭かしらの小娘だ。


 そこんとこの認識を頼むわ。


「退けってんだっよぉうぅううっっっっ‼」


 入り口から一気に蹴散らして。

 俺はダンマルを口説き落として送ってもらった城の地図を頼りに、女王陛下がいるであろう部屋に向かった。恐らくはそこだと思う、ただの俺の勘だよ。

 

 俺が通った道に、兵士が血まみれで倒れているのは目を瞑ってくれよな。


「おい。開けろよ」


 大きくも聳え立つ扉の前で、俺は声をかけてノックをした。

 まぁ、こんなの蹴飛ばすか吹き飛ばすか。どうとなく出来るんだが。流石に、そこンところは礼儀をしといてやんねぇとな。なんって思っちゃったりしてさ。

 俺も、いい歳した大人の男だもんね。


「父さんだよ? パパって言った方がいいのかねぇ?」


 うんともすんとも言わない。

 扉の向こうに、俺は足の運動を始めた。

 そんで、どう蹴飛ばすかを考えていたときだ。


 ギィイイイ――……


「なぁんだ。やっぱし、居るんじゃねぇの」


 無駄な体力を使わなくて済んでよかったってもんだわ。

 また無駄な武勇伝が出来ちまうところだったぜ。


「さぁ。ご対面をしょうぜ?」

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