第36話 喜々たるフジタ

 宙には似つかない機体が飛んでいたね。

 それ祝賀の日に飛ばすようなもんなんかじゃないのは俺の目から見たって明らかだよ。

 探査とか生温い行為の為じゃない。


 捜索するための軍が所有する機体だ。


「……あのぅ? 帰ってもらってもいいでしょうかぁ」


「っはぁああ!? 臆したのか! このうつけ者が‼」


 流石に俺だって命は惜しいじゃないですか。

 こんな場所で死んだりなんかしてみろ、ダンマルちゃんになんて言えばいい。

 家族が出来たってのに、俺がこんな場所で死んだりしたら。


 馬鹿みてぇじゃねぇか。


「俺は墓参りに来ただけですからw 嫁なんかを貰いに戻った覚えなんかねぇんですけどぉ?」


 笑い話しにもなんねぇわ。


「‼ っそ、それは、……そぉうじゃがァ……っつ!」

「でしょ?w」


「私はお前に抱かれ! お前を夫に決めたときから! この日の為に、娘に教育を施し待っておったのじゃ!」


 割と酷い言われ方と、割と酷い娘の言い方に。俺は、ちょっと苦笑しか出せなかった。

 完全に拗らせちゃったのは俺の責任だ。

 ただ、責任をとるとかは、また、別の次元だろう。

 一言、言葉を間違えれば。


 俺は、一生――この異世界での仕事は出来なくなっちまうな。


 なんて、ご都合的なことばかりを考えていた。


(本当に、俺ってば――身勝手野郎だわなぁ)


「これ以上! 私はっ、お前と離れたくなんてないんじゃ!」

「っつ??」

「私の知らん間に、どこぞの馬の女とつがいになっとらんかとか、何故に心配をしなければならん‼」

 

「……んなことを、申されましてもねぇ?」


 押し問答をしていたときだ。

 恐らくは、この女王陛下様の声が、割と大きかったせいもあるんだろうが。


 チカ! チカチカ‼


 機体からの閃光が、俺と和泉を差した。


「!? っや、っべぇええ!」と俺も、和泉の腕を引いて勢いよく走った。

 取りあえず愛車アウディへと行かなきゃ、帰ることも難しいったらない。

 軍相手に、政府相手に身体1つってのは流石に無茶なのは分かる。


「あの人たちさぁ? 武器なんて物騒なモンとか所持しちゃってないですよね!?」

「はぁ? しておるに決まっておろう? 伊達に、新女王の戴冠式ではないのだぞ?」


「しれっと当たり前みてぇに言わないでくんないかなぁ!?」

 

 現女王陛下である和泉を、拉致誘拐している犯罪者化している以上は。

 どうにも、恐らくは和泉を盾に進むしかない訳だ。

 それが最も、卑劣であれ最高の防具なのは確かだ。


「あまり。そういうことを言われるとさぁ? 俺だって――反撃ってのをしちゃうよ?」


「……お前は娘の晴れの日すら壊そうというのか? 酷い父親だな」

「俺に娘はいませんよ? 女王陛下様?」

 同じ回答をする俺を和泉が目を細めて睨んだ。

 うん、確かに可愛いし好みだ。股間も苦しく張ってしまうくらいに。

 女は気が強いくらいが丁度いいもんだし、活きがよければ尚のこと。


 愉しめるってもんだ。


「ったく。口論は北海道あっちに戻ってからってことでいいか?」


「! ぁ、ああっ! いいぞ‼ 勿論じゃ♡」


 大きく、何度となく頷く和泉に俺も肩を竦めて、抱きかかえた。

 流石に昔みたいにか弱くも軽くもない。身長もあるしな。

「あのさ? 大きくなれんなら、小さくなんかも――」

「出来ないぞ? 馬鹿なのか、お前は」

「っそぉー~~っすかぁー」と俺は舌打ちをした。

 そして、そのまま和泉を背負った。この方が走りやすいからだ。

 密着される背中には柔らかい胸が当たる。


「女王陛下様は。Bカップかな?」


「? なんじゃ、そのBカップとやらは?」

「いいですから! お口を閉じて下さいよ~~舌、噛んじゃいますよ!」


 和泉からの問問い掛けを無視して、俺は振り向くことなく駆け出した。

 同時に、考えることにした。


 火の海にならないように、力を加減して戦う方法を。

 相手は軍と政府と――娘である、新女王様だ。


「っどぉ~~しょっかなぁあぁあ~~‼」

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