乗客 編集者と漫画家

第25話 層雲峡に行きたいか!

「っはー~~雪がすっげぇ~~って。ダンマルちゃん」


 延々に降り止むことのない大雪に、俺は大きなため息を吐くしかない。

 こんな日は、家でのんびりとごろ寝しながら、くそみたいなニュースに、ツッコミをしながら、ネットサーフィンをして、ショッピングをしながら、ビールを飲みつつ、お風呂に浸かりたいってもんだよ。


 ――『今年は豪雪な上に、かなり寒くなるって言ってましたね。ついさっき』


「帰ろ――」


 ――『ほら。私の子供の為にしっかりと、稼いで下さいっ』


 弟のダンマルの奴は、こっちに居着いてあっと言う間に、彼女をとっかえひっかえと、モテモテになって、俗に言うところのヤリチンになった。

 小さいときの鬱憤か、何かが、吹っ切れたか爆発したかだろうが。

 この俺が口を出す日が来るとは、流石に、親父フムクロも思わなかったんじゃないだろうか。

 そのことで何度も、衝突して喧嘩ばかりだったが。

 それでも、落ち着いてようやく結婚をしてくれた。デキ婚じゃなかったことに、正直言って驚いた。

 もっと、驚いたのは産まれた子供が、本当に普通の人間だったことだ。

 ひょっとしてと、産まれたら《17丁目》に帰郷及び、説得させて、移住させるしかないなと。

 結婚相手には事情は話しておいたが。

 どうにも、のんびりとしていて、芯のある女の子で。

 割と尻に敷くタイプだったから、ダンマルの奴が浮気をする心配もないだろうとは思う。


「兄使いの荒いったらないねぇ。ダンマルちゃんは」


 俺は、そう言いながらハンドルをきって、愛車アウディを走らせた。

 11月にしては降ったり、止んだりとした天候で路は割と、ぐちゃぐちゃでタイヤもぐねぐねと、ハンドルもいうことを聞いてくれないのが、本当に辛いと思ったこともない。毎年のこととは言え、だ。


 ――『何を今さら。ほら。今日も、きちんと収入がなかったら、帰って来てもビールも携帯も、長湯も許しませんからね』


「……――いい度胸だな、おいっ」


 弟の家族と一緒に同居している身としては、それはあり得そうで流石に怖いものがある。しかも、ダンマルの奴はヤるといったらヤるタイプの異界人だし。嫁さんも同じく。ヤることは一貫してヤるタイプの人間だ。

 うん。こりゃあ、俺に勝ち目なんか、どう足掻いたところで、ないってことは明らかだ。

(お!)

 旭川駅に着くと、あっという間に乗客にありつけそうだっだ。


 ――『ああ。駅に来たんですね。初めからここに客待ちしてればいいのに。全く、本当に趣味程度に働くのは、異世界あっちだけにして頂かないと。正直、首を締めたくなるときがあるので』


 突然の告白に俺も「殺す気満々だな! おい!」と突っ込むと。前のタクシーが動いた。ああ。乗客を乗せたのか。次は俺の番だった。普通のいい天気なら、その次が来ないことも多いが、こんな天候だ。すぐに――……


「あ」


 俺は後部座席の扉を開けた。


「本日は有難うございます」


 若いひょろ長い男に、体躯のいい横幅のあるいい歳だろう男。

 親子並みに離れた、歳の差の2人に俺も興味が湧いたんだけど。

 各々と、話しをしていれば、分かって来るだろう。


「お客様。どちらに向かいますか?」


 にこやかにバックミラー越しに聞く俺に、耳を疑いたくなる言葉が聞えた。

 どうして、この駅でなんかで下車なんかしたのかと。


「層雲峡まで、お願いします」

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