第4話

 簡素な夕食を終えた後、百目鬼先輩の耳打ちにこくりと頷いて、俺は乙茂内の隣の部屋で薄くドアを開けて暗闇の中を待つ。やがて音が鳴り、俺は飛び跳ねるようにドアを開け、壁のスイッチを入れてリビングの明かりをつける。

 作り付けの金庫に向かっている三人の少年がいた。

「動くな!」

 キッチンに隠れていた百目鬼先輩が釘バットよりもっと危ない包丁を向けて叫んだ。少年たちはヒッとなって動けなくなる。見れば中学生ぐらい、そんなにがっちりした方じゃないが、一人だけ背の高い男がいる。そいつだけは高校生ぐらいかもしれない。

「なーに、何の騒ぎー……」

 隣の部屋からぐちゃぐちゃの髪の乙茂内が出て来る。

 ……女の裏側って大変なんだな。


 とりあえずロープで縛り上げた三人は、びしょ濡れだった。おそらくずっと外にいたんだろう。身体が冷えると悪いから古いバスタオル類を上からかけてやる。

「昨日もそうやって食事を盗んだって訳か?」

 腕を組んで警戒のポーズを取りながら、俺は問い詰める。百目鬼先輩は珍しく笑わずに包丁を向けて。

「う、うん……」

 一番気弱そうな少年が言う。

「あの部屋、穴が開いてるんだ。だからよくそこから入って、雨風凌いだり、ちょっと前には食料が入ってたからそれを盗んで……」

「どうしてこんな所にいるの?」

「水泳してて、波が荒くて、辿り着いたのが音無島だって分かって、宝探ししようと思って」

「宝探し?」

 きょとん、とする俺に一番ガタイの良い男が言った。

「乙茂内家の財産の一部が隠して在るんだって大人達が言うのを聞いていたから」

「あのねぇあなた達」

 アイロンで天然パーマをくるっくるにした乙茂内が、呆れた声で言う。

「それはこの屋敷だよ」

「え?」

「この屋敷。お金持ちになってからのお爺ちゃんはちょっと人間不信になっててね。こんな屋敷を立てて好きなものばかりにしていたの。殆どは本土に建てた家に持って行っちゃったけれど。だからおうちだけが残った」

「う、嘘だ!」

「嘘じゃないよ! 君達こそその抜け穴美女たちに教えて! 台風が来たらおうちが壊れちゃう!」

 ずりずり三人を引きずって行くと、倉庫の前に出た。そこで俺達三人は団子少年たちに一撃を食らうことになる。

 どんっと後ろから倉庫の中に閉じ込められ、鍵を掛けられる。

「あんた達だって本当は宝探しに来たんだろう、こんな館が宝であるもんか!」

「本当だよ! 証拠だってあるもん!」

「それより金庫のダイヤル教えろよ! 腹減ってんだよ!」

「本当だった、ら!」

 乙茂内が取ったのは倉庫にあったつるはしだった。がんっと一発ドアに向け、ひいっと少年たちが引き攣った声を出す。こいつはこういう時に怖い。乙茂内からつるはしを奪った俺は、もう一発叩き込んだ。三発もすればドアはすっかり蝶番を用無しにしていた。しかしその頃には少年団子の一団は逃げ去っており――

「ぎゃあああ!」

 男声が集まっているのに玄関に向かうと、そこに居たのは――髪をしとどに濡らし。妖怪じみた格好をしたキツネさんが、ロープの端を持っていた。

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