第4話

「三年前は兄のバイクを盗んで隠しておいて。今回は自分のバイクで、か。哮太君がサッカー部の指導してるの見てよっぽど肝を冷やしたんでしょうなあ」


 もぐもぐとコンビニで買った餡蜜を食べながら百目鬼先輩はうんうんと頷く。彼女の持っていたドラレコで事件の一部始終が露になり、骨鳴は停学中だと言うが、もしかしたら退学処分になるかもしれないとのことだった。卒業してからは進路も離れ再会したのが一年ぶりだが、骨鳴の意識はまだ戻っていないらしい。顔を隠すためのフルフェイスのヘルメットが何とか即死を防いだようなものだ、とは、あの警官さんの言葉だった。病院にはちゃんと行くんだよ、とパトカーで去って行ったおまわりさんの名札代わりに縫い付けられた苗字は『百目鬼』。そういえば兄さんがいるらしいと聞いてはいたが、初めて百目鬼先輩のプライベートを生で知った気分だった。


「でもでも、リフティングしてただけでまた戦いたくないからって思っちゃうの、あれですよ、えーっと、」

「早合点?」

「それですよ!」

「ま、もうボールに触る機会なんてリフティングしかなかったからな。熱心に教えた自覚はある」


 骨鳴勇涯。

 そう言えばチーム戦でどのチーム分けでもあいつに負けたことはなかったな、なんて、記憶の隅をほじくり返す。

 そんなに才能が溢れて見えたんだろうか、俺は。

 じゃあそれがなくなった今は何なんだろう、俺は。

 なあ、骨鳴。


「うふふ。器物損壊までつけたから、もしかしたら少年院行きかもしれないわね、悪質だって」


 ……そう。


「キツネさんの家が巫倍神社だったなんて聞いてないですよ……」

「あら話していないもの、当然じゃない。前に後着けて来た事があったみたいだけれど、あの時はとっさに鳥居の陰に隠れたの。おかげで風邪ひいちゃったけど。それに私は髪色がこれだからね、実家しか働けないのよ」

「え? キツネさんの髪、地毛だったんですか?」

「そうよ、生え際が黒くなっていた事なんてないでしょう」

「てっきりこまめに染め直してるブルジョワかと」

「姉妹三人抱えてブルジョワは無理よ」


 先回りできたのだって姉さんの運転だったからだし、ドラレコは姉さんの車から拝借したものだったし。

 くすくすとキツネさんは笑う。


「姉がお婿さんを取って、私もそうして。妹には自由恋愛をさせてあげたいわね。大学にも行かせてあげなくちゃ」

「……そのために、キツネさんとお姉さんが犠牲になるんですか?」

「ごんぎつねは撃たれるものよ。来年には妹が入学してくる予定だけど、秘密にしてね」


 キツネさんの笑う様子は、少しだけ切なそうだった。

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