第3章-9 ドタバタの鉱山2日目、完

「ユウ様は馬鹿なのかにゃ」


 自分の部下、奴隷にこんなことを言われる主人が他にいるだろうか。


「奴隷に材料を調達しておけなんて言って、すぐにお金を渡さないと、どういう行動をとるかなんてわかりきってるのにゃ」


「でも、ランはもう奴隷じゃないし」


「ランは昨日まで奴隷だったにゃ。それをユウ様がお金で買ったにゃ。紋章をつけていなくても、自分はゆう様の奴隷と思ってるはずにゃ」


 そうか、そういう考えになるのか。そうだよな。金で買って、金でいい服着させて、やってることは着せ替え人形を買ったみたいな感じだし。


「じゃあそろそろちゃんと探すにゃ」


 ナルはそう言うと「労働者に命令させてくれ」と言ってきた。もちろん姉を探すためなのでお願いする。


「さて、食後の運動にでもランを探して欲しいにゃ。わかってると思うけど、ランはにゃー達と一緒にいた人間の女の子にゃ。木材か金属を調達しに行ったまま帰ってこないにゃ。見つけてきた人には銀貨10枚がユウ様から与えられるにゃ。頑張って探してくれにゃ」


 勝手に賞金かけやがった。それでも労働者が皆やる気になってるからいいけど。



 体感で1時間くらいしたら姉は、10歳くらいの男の子2人と手を繋いで帰ってきた。3人共似たような体型をしていて、仲のいい姉弟のようだ。不謹慎だけど。

 男の子達にはそれぞれ銀貨5枚ずつ渡して、見つかったことを伝えに行ってもらった。


「申し訳ありません。まだ名札の材料はできてません」


 いつものように深く謝る姉。誰もそんなことじゃ怒らんて。なんか、姉が謝るのって悪いと思ってるからじゃなくて、怒られないために先手を打ってるように感じる。実際は何とも思ってないんじゃないか。別にいいけど。


「いや、それはいいけどどこで何してたの」


 お金なしにどう材料を調達しようとしてたか、普通に興味がある。


「鉱山の森で木を切ってました」


 姉の手を見ると薄暗くてもわかるくらいに赤く、血が滲んでいるのがわかる。豆も潰れるほどか。昼すぎから今まで木を加工していたらそうなるだろう。痛そうだ。

 あと、森まで探しに行ってくれた少年達、今度なにかお礼をしよう。


「とりあえず無事でよかった。お腹すいたでしょ。護衛と一緒に夕飯食べてきな」


 食べ終わったら昨日のように宿の俺の部屋に集合とつたえておいた。護衛もいるし焦ってくることもないだろう。





「さぁ、反省会にゃ」


 宿の部屋で詰め寄られている。


「まずはランに一人での仕事を与えたことにゃ。ランがどういう人でどんな考えを持っているか、もっと知ってからにすべきだったにゃ」


 さっき自己反省したことでも他人ひとに言われると、心にグサッと刺さる。


「ユウ様の世界とこの世界では価値観が違うにゃ。ユウ様の価値観が良いものでも、すれ違いがあればミスや事故に繋がるにゃ」


 おっしゃる通りです。ほんと。実際事故がおこった。

 何も言い返すことができない。


「次からはその辺も考えながら命令するにゃ」


 もうどっちが主人かわかったもんじゃない。



 反省会と言うか一方的な説教を終え、姉と護衛が帰ってくるまで二人で、明日の予定を決めていった。


 午前中に名札を作りつつ、名簿を作る予定。

 名札の材料は姉が切ってきた木材。労働者を何人か使えば、残りを済ますのにたいして時間もかかるまい。

 名簿を作ろうと思うと如何にコピー機が優れたものかを実感させられる。名前、生年月日、前職、犯罪内容の4項目のつもりだが、200枚も書いてられない。今ある嘘だらけの名簿を修正する形になる。




 姉は護衛にオンブされて帰ってきた。


「食べ終わる前に寝落ちしたんで連れてきました」


 半日も木を切っていたんだ。肉体疲労は計り知れない。


「あと、ランちゃんは仕事を完遂できなくて、ユウさんに怒られたと思ってるみたいですよ。ちゃんと仲直りしてください」


 護衛にも怒られちゃった。

 あと、護衛と姉ってもう仲良くなったのかな。なんかムカムカする。


 姉を服ごと浄化、手には回復魔法をかけて護衛に部屋まで運んでもらった。

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