第3章-8 逃走?迷子?誘拐?

 夕飯のすこし前、そろそろ名札の説明をしたいのだが姉が見つからない。護衛はホクホク顔で帰ってきたというのに。

 いくらなんでも時間がかかりすぎだろうに。なにかトラブルにでも巻き込まれたのか。


「心配いらないにゃ。ランも大人にゃ。ご飯までには帰ってくるにゃ」


 ナルは楽観的に捉えているみたいだが、もう日が沈もうとしている時間帯にまだ帰ってこないのは心配だ。俺が心配性過ぎるだけなのか。




 結局夕飯の時間になっても姉は帰ってきていない。

 どうしようか。姉抜きで食べる気にもならないし、心配で食える気もしない。


「にゃー、さっきから落ち着きがないにゃ。そんなに心配しなくても大丈夫にゃ」


 さっきは夕飯前に帰ってくるって言ったやん。もう安心出来ん。

 早く捜索しなければ。


「夕飯前で悪いんだが、誰かランがどこにいるか知らないか」


 労働者たちは顔を見合わせるだけで芳しい反応はない。ほとんどが庭で遊んでたしな。

 食べ終わったら探しに行ってもらおう。



「とりあえず護衛君は街の方を探しに行って。ナルはここで待機、俺は敷地内とその周辺みてくる」


 微妙に嫌そうな顔すんなよ護衛。あと、未だに焦る様子のないナルもナルだ。



 食事はそのまま進めてもらって、俺と護衛は姉を探しに出る。


「ランには名札の材料を頼んであるから、金物や木材、紐などを売ってる店を中心に探してくれ。あと止まってる宿も覗いてきて。」


 ちょっと、と言うかだいぶ護衛に負担が多いが頑張ってくれ。見つけてきたら娼館にいけるお金あげよう。


 建物、1階も2階も全部屋見回ったが人っ子一人いなかった。もちろんトイレも覗いた。男女共用で助かった。

 周囲の庭は夕飯でBBQをしているし、流石にいないだろう。物置の中は、しっかり見回ったがここにもいない。あと、物置の中はもう少し整理整頓しとけよ。

 鉱山の中も大声で呼んでみたけど反応がない。鉱山入口の隣にある鉱石の保管所や精錬所にもいなかった。俺はハズレを引いたようだ。


 探し回ったところで人が隠れられそうなところは、全て見て回ったはずだ。姉は敷地内にはいないと見ていいだろう。ただ、街に出るとも考えにくい。

 姉に渡したお金は、全てロリに渡していたはずだ。本部で革袋ごと渡していたのを見た。

 お金を持たずに街へ行っても何もできまい。



 庭に戻ってもまだ食事は終わっていなかった。見回るところが少ないためか、思ったより時間は経ってないようだ。

「見つからなかったのかにゃ。護衛はまだ帰ってきてないのにゃ。ご飯でも食べながらゆっくり待つにゃ」


 飯なんか喉を通るかよ。しかもBBQなんて。


「明日から鉱山の仕事も始まるにゃ。ちゃんとご飯を食べないともたないにゃ」


 そりゃそうかもしれないけどさ。食べれんもんは食べれん。


「夕飯が終わってまだ帰ってこなかったら労働者たちに探させればいいにゃ」


 誘拐だったらその頃にはもう遅いかもしれない。


「目的もなく人間を攫ったりしないにゃ。獣人なら売れるけど攫った人間は売ったら重罪にゃ」


 ナルは吐き捨てるように言う。

 身代金目的の誘拐はこの世界ではほとんどないらしい。獣人を攫って売った方が効率がいいから。しかも獣人は攫っても罰金刑のみだ。人を攫うと軽くても数年の強制労働、重くて死刑。

 これは全部ナルから教えられた。ナルも攫われて奴隷に落ちた身だ。


 誘拐の可能性が低いとなると逃げ出したか、迷ってるか。まぁ少し安心した。

 飯、食うか。



護衛が一人で帰ってきたのはご飯の後片付け中。


「残念ながら見つかりませんでした。聞き込みをしましたがそれらしい目撃は無いようです」


街にも行ってないのか。意図的に隠れてるのか逃げ出したのか。それともなにか別なことか。



「ユウ様はランになんて言ったにゃ」


俺が詰め寄られる番か。

俺は昼の件を全て話した。俺の不手際も、その後の仕事を与えたことも。



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